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ひとすじの優しさ

作者: 紫 涼夏
掲載日:2026/01/31

短編小説2作目です。

今回の作品は書くのが難しく伝われば良いな。と思ってます。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


星も見えない都会の外れ。

今俺はあるアパートの屋上に居る。


「えーっと、今回の任務は……と。23歳、女性。薬の過剰摂取……と。」


俺は死神。任務でもうすぐ死ぬ対象者の近辺を調査中。

人間とは弱い生き物だ。

仕事がなくなる事がない。


「……自殺か。」


特段珍しい事ではない。俺は俺の仕事をするだけだ。







(役立たず!)

(お前に任せる仕事はない。)

(あなたが居ると迷惑なのよね。)

(ここに居ると邪魔なんだよな。)

(ろくに仕事もできないくせに、今日も残業してるわ。)

(さっさと辞めれが良いのに。)


「……うっ。」


私はハッと目を覚ました。

スマホをつけると午前3時を表示していた。


「……薬飲まなきゃ。」


私は23歳、無職。

会社でのパワハラによって鬱を発症した。


相手のミスは私のせい。私の仕事の成果は横取り、私の業務内容以上の仕事を押し付けられ、毎日のように暴言を吐かれたことにより、耐えきれなくなって自主退職した。


親にも相談したけど、厳格な父は理解してくれず「お前が甘えてるだけだ。」とそれきり口をきいてくれない。

母親にも「あんなにいい会社に入ったのに辞めてしまうなんて、育て方を間違えたのかしら。」と言われた。両親と疎遠になった決め手は「あなたなんて生まなきゃよかった。」と母親から言われたことだった。


私は生まれてきてはいけなかった子。無能な人間……。


体調不良が酷く、病院にかかると心療内科を勧められ通院している。

先生には「カウンセリングも受けた方がいいと思う。」と言われたが、人と話すのが怖くて断った。


今は貯蓄していたお金で生活しているが、それももうそんなに残っていない。

私はこれからどうしたら良いのだろう。

再就職も考えたが、人と関わるのが怖くて応募できないでいる。

こんな無能な人間、誰からも必要とされないと思うから。






薬を飲んで再び目が覚めたのは太陽が眩しい午後2時だった。

何か食べないと。と思い、冷蔵庫を開けるが食事できそうな物は入っていない。


「……。買い物…行かないと……。」


できることなら外には出たくない。人と会うのが怖いから。

自分の事を言われているわけじゃない。自分が笑われてる訳じゃないと理解はしてても、すれ違う人たちからどう見られているのか、嘲笑われているのではないか。と心が辛くなっていく。






近所のお店に買い物に出かけた帰り、公園の横を通ると木漏れ日を浴びながら木に寄りかかって座っている男性と目が合った。

中性的で色白く、肌とは対照的な黒髪がとても綺麗だった。

不思議とその男性は怖くなかった。

ふと見つめすぎた事に気づき、すぐに目を逸らせた。


あんな人が近所に居たのか…。綺麗な人だったな……。

そう思いながら家へと急いだ。






帰宅後、軽く食事をすませ病院から処方されている薬を飲み込むと、私はベットに横になった。

少し買い物しに行っただけなのにだるい。体を起こしているのが辛かった。

他の人から見れば、怠けてるようにしか見えない生活……。

そんな生活でも私には辛かった。


「……。こんな生活もう嫌だ。私なんて死んでしまった方が……。」

どうせ、私が死んでも悲しむ人は居ない。むしろ厄介払いできて喜ばれるんじゃないだろうか……。


仕事を辞めてからずっと考えていた。

もう、生きているのが辛い。今後の事を考えると嫌になる。いっそ死んでしまった方が楽になるんじゃないか……。

もう未練なんてない。消えてしまいたい。


ぐるぐると考えていると、外は日が沈み夜になっていた。


「……。もう、疲れた。」


私はそう呟くと、病院から処方された薬をカバンに詰め込み外へと向かった。







久々に繁華街を歩く。

高いビルが立ち並び、昼のように明るい。

空を見上げても、星一つ見えない。

その明るさが辛くなり、私は路地裏へと入った。

ふと目の前にビルの外階段が見え、無意識のうちに階段を上っていた。

屋上に着くと、キラキラとした街並みが目に入る。

私は吸い込まれるように、柵へと向かった。


「飛び降りるのか?」


不意に後ろから声がした。

振り返ると、公園で目が合った男性がそこに居た。


「……。」


私は飛び降りようとしていたのだろうか。その方が良いのかもしれない。


「痛いぞ。」


男性は淡々とした口調で話しかけてくる。


「……。止めないで。」


「別に止めるつもりはなかったんだがな。情報と違ったからつい。」


「情報と違う……?あなたは誰?」


「死神だ。今回の対象はお前だ。」


そうか……。私、死ねるんだ。迎えに来てくれたんだ。

私は何故か嬉しく思えた。


「情報では私はどうやって死ぬの?」


「それは伝えることができない。」


「そっか……。」


「何で死にたいんだ?」


「……もう、疲れたから。終わりにしたいの……。だから、私を連れて行って。」


私は死神の方へと足を進めた。

死神に連れてかれるって痛い事されるのかな?それとも一瞬で分からなかったりするのかな……。

そんな事を考えながら死神の前に立った。


「……。死神って本当に鎌で魂を刈り取るの?」


「そうだな。」


そう言うと、死神は大きな鎌を手に持った。


「本当に、絵にかいたような鎌ね。」


「仕事道具だ。」


「……じゃ、お願いします。」


そう言いながら私は死神の鎌へと手を伸ばした。







調査をしていた対象者が情報と違う投身をしようとしている。

俺は無意識のうちに声をかけていた。

彼女は俺を見ても驚く様子もなく。うつろな目で俺を見てくる。


自殺しようとしていた人間だ。何を考えてるのか理解できない。

彼女は俺が死神だと伝えても怖がる様子もなく、むしろ近づいてきた。

鎌でも見せれば、少しは驚くかとも思ったがそんなことはなく、彼女は俺の鎌に手を伸ばした。

彼女が俺の鎌を握り締めた時、俺の頭の中に何かがながれてきた。







あれは俺の最初の仕事だった。

あの時も、若い女性の自殺だった。

死神としてまだ未熟だった俺は、対象者の調査中に対象者に興味を抱いてしまった。

しかもあろうことか、彼女を救いたくなったのだ。


俺は彼女に死神と分からないように何度も接触した。

彼女はいつもうつろな目をしていた。

ただ、俺と会ったときは少し笑顔を見せてくれる時もあった。

今思えば、彼女の事が好きだったのかもしれない。


彼女は幼い頃に両親に捨てられ、身寄りもなかった。

施設から出た後、一人で生活していたが、彼女の周りには悪意を持った奴しかいなかった。

それでも、彼女は健気に生きようとしていた。


――ようにしか俺には見えなかった。


その時は突然やってきた。

いつものように通勤中の彼女を見守っていた。

しかし、彼女はいつもの電車には乗らなかった。

不思議に思い彼女に声をかけようとした瞬間、彼女は快速電車に飛び込んだ。


俺は何が起きたのか分からなかった。

自分の任務の事も忘れていた。

情報内容も忘れていた。


あぁ、これが俺の仕事だった。


俺はそう思いながら、彼女の魂を刈り取った。

手が震えていたのを覚えている。

死神としての自覚が俺には足りなかったのだ。






ふと気づいたら、親に見捨てられ、周りの悪意にさらされ、心を病んで、今俺の鎌を握り締めている今回の対象者の彼女と、当時の彼女を重ねていた。

俺は反射的に目の前の彼女を突き放した。


「どうして…。」


彼女は悲しそうに俺を見る。

俺はそんな彼女をただただ見ていることしかできなかった。


彼女はおもむろに自分のカバンから薬を取り出した。

自分の手の中いっぱいに錠剤を握り締める彼女を、俺は止めることができなかった。

それが俺の今回の任務だからだ。

俺の目の前で、錠剤を飲み干し天を仰ぐ彼女。

しばらくすると、彼女はその場に倒れこんだ。


俺は無意識のうちに彼女の上半身を抱き上げていた。








くらくらする。目の前がぼやけていく。

とても眠い……。


……。暖かい?


重たい目を開くと、死神の腕に抱かれていた。

彼は寂しそうな、悲しそうな目で私を見下ろしていた。


「……。連れて行ってくれる?」


彼はそっと頷いた。


「ありがとう……。」


私が最後に見たのは、彼の頬につたう一筋の涙だった。








俺の腕の中でそっと目を閉じた彼女。

これが俺の仕事。

彼女の首筋にそっと鎌をあてる。



彼女の魂を刈り取った俺は、しばらく彼女の亡骸を腕に抱いていた。


「……。俺もまだまだだな。」


そっと、その場に彼女を寝かせて俺は立ちあがった。


「……さよなら。」







俺は今日も仕事に明け暮れる。

人間って本当に弱い生き物だな……。





ここまでお読み頂きありがとうございました。

自分で書いておいてあれですが、彼女達が生きて幸せになれたら良かったなと心から思います。

今後も、ゆっくりと活動していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。

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