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5年越しの『アルカディア』  作者: 兼乃木


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第4話 講習クエストを受けよう

 冒険者登録を終えた高尾(たかお)は、ギルドの総合受付から剣士系専用受付に移動した。

 最初にジョブ選択で剣士を選んだからだ。


「剣術スキルを買いたい。それと講習クエストを受けたい」

「かしこまりました」


 スキルはビー玉みたいなアイテムの形で売っている。これを手に持って軽く握るとスキルを習得できるのだ。


 他のアイテムもそうだが、ゲームなのでアイテムごとに所有権が設定されているため、他人のアイテムを掠め取っただけでは横取りできない仕様になっている。

 もちろん店で万引きもできない。


 購入して所有権を得たアイテムなら問題なく使えるのだ。

 プレイヤー間の取り引きも、お互いに合意しないと成立しない。


 このゲームはPK(プレイヤーキル)が可能なのだが、その場合に奪えるアイテムは貴重品以外からランダムで数個までとなっている。

 レアアイテムを選んで強奪は出来ないし、無理矢理取り上げることも不可能だ。


 脅されて応じてしまうと、どのような状況だったかに関わらず、合意したとみなされるため取り返すことは出来なくなる。


 PKなんか実装するから18禁になったのか、18禁なのだから良いだろうと実装したのか知らないが、高尾はPKシステムは嫌いである。

 負けて被害を受けるだけだから。


 それはともかく、『剣術』スキルを買ってやっと剣士らしくなった。

 スキルがなくても剣は振るえるが、補正が働かないのだ。それにアーツと呼ばれる技も使えない。


 剣術スキルレベル1で使えるアーツはスラッシュという物だけだが、スキルレベルが上がれば強力なアーツや奥義なども使えるようになる。


「最初は『基礎訓練クエスト・1』がおすすめですが、こちらでよろしいでしょうか」

「それで頼む。時間があれば続きも受けたい。今日は3時間くらい出来るから」

「かしこまりました。ご用意しておきます」


 基礎訓練クエストは時間がかかる割に報酬がしょぼいと不人気らしいが、高尾は学校で剣道の授業を数回受けたことがあるだけの素人なのだ。

 コントローラーを手に持って遊ぶゲームではないので、最初に基礎くらいは学んでおきたい。


 あんまり運動神経が良いほうでもないし。


「ちゃんと訓練を受けるなんて偉いよ!ボクは今、モーレツに感動している!」

「コロシアムのランキングバトルの動画はともかく、素人目にもみっともない姿で武器を振り回してる配信者がいるからな…編集しながら気付かなかったんだろうか…」

「ああ、うん。いるよねー」


 笑いと取るためだと言うなら気にならなかっただろうが、そういう雰囲気でもなかったのだ。

 ちょっと見て、すぐに見る気が失せたから名前などは覚えていないけど。


 それでも高尾が基礎訓練を受けなくては!と危機感を忘れられないようなバトルだったのは確かだ。


 付け焼き刃でもないよりはマシだろう。きっと。






 訓練クエストはギルドの奥にある訓練場で受けられる。

 屋内なので体育館のような雰囲気だが、置いてある道具はスポーツ用品ではなく武器である。


 魔法は別の場所で練習するそうで、ここでは様々な武器が用意されていた。


 訓練場を利用しているのはNPCばかりで、新人には見えない。ギルドの職員も良く訓練しているらしい。


 ギルドの職員には元凄腕冒険者という経歴の者もいて、後続の育成や街の防衛などを担っている。

 国や街で騎士団や自警団を組織しているのでギルドが仕切っている訳ではないが、協力し合う関係だそうだ。


 モンスターの襲撃イベントなどが起きるので、そういう時に頼りになる人材だ。


 高尾の訓練を担当するのも、そういった職員である。筋骨たくましい大柄な男が待っていた。


「異邦人なのに基礎訓練から始めるとは感心なことだな」

「構え方も良く分からない素人だからな」

「武器を振り回すだけの素人も多いようだがな」


 不人気クエストということは、ロクに訓練を受けていないド素人がたくさんいるということだ。

 ゲームで遊びに来ているだけだから、真面目に訓練なんて受けたくない気持ちも分かる。


 でも他人に見られて「格好悪い」と笑われたくないから、最低限の知識は仕入れておきたいものだ。


 宣言通りに剣の構え方から教わった。

 スキルがあるからスムーズに動ける感覚はある。それで高尾も「これのおかげで勘違いしてるんだな」と気付いた。


 本人は動けているつもりになるのだろう。

 それが不格好だと気付かずに。


 意識しないとすぐにぶれるので、繰り返し指導してもらって矯正したい。

 クエストは何度も受けられるのかと尋ねたら、クエスト以外でも訓練場に来て練習できるということだった。


 手の空いている職員がいるはずなので、声をかければそのくらいは見てもらえるそうだ。


「予想を上回る真面目さ…!」

「お前の作ったイケメンが不格好な戦い方をしていても許せるのか?」

「無様すぎて見ないようにしてる!口出し出来ないからね!」


 ナビゲーションAIにも発言に制限があるらしい。

 助言はしても、アレしろコレしろと指示をする権利などないのだ。プレイヤーの遊び方にケチをつけることになるから。


 気に食わないアバターにケチをつけるのは好みの主張の範囲になるらしい。

 プレイヤーを貶す行為に相当しないのだろうか。


 ナビとそんな話をしながらも、剣を真っ直ぐに振り下ろす型や袈裟斬り横薙ぎなどの振り方を覚えた。

 ただ剣を振るのではなく踏み込みながら、腰を落として態勢を崩さないようにしながら、モンスターの姿を想像して攻撃する。


「最初に戦うのは森のオオカミか、夜の草原に出るネズミだろうな。足元をチョロチョロするネズミ相手に大きく振りかぶって攻撃しないことは分かるな」

「地面を叩く感じにこんなか?」

「ホウキで掃く感じはどうかな!?」

「そうじゃなくてだな」


 格好良いネズミ狩りの仕方を教わった。

 地面スレスレを斬り払うのだから、やはり腰を落として攻撃するものだった。

 剣は下段に構えておく。


 動画で見た「最序盤で効率の良いネズミ狩り」の戦う姿はなんかアレだったが、教わった戦い方ならちょっと格好良い気がする。

 所詮ネズミ相手なので自慢にもならないが。


 夜になったら実戦で試してみようと、高尾のやる気ゲージが微上昇したものだ。






 休憩を挟みながらも基礎訓練クエストを3までクリアした。

 報酬がしょぼいと有名だったが、教えてもらった上にアイテムが貰えるとか、こちらが指導料を払う立場では?と疑問が生じるくらいには高尾はためになる訓練だったと思う。


「いや、ゲームだからな…リアルの常識で考えてるな」

「リアリティが高いから今までのゲームの設定に齟齬(そご)が生じるんだよね」

「そうだな」


 ギルドのエントランスにあるベンチに座って休みながらナビと話していた。


 このゲームではログアウトしてもアバターがその場に残る設定なので、宿や自宅でログアウトすることが推奨されている。

 そこらに死体のように放置されたアバターでも、PK行為は可能なのだ。


 何度も無抵抗で殺されて、そのたびにアイテムが奪われる。教会の転移ゲートの近くに送られることが分かっているのでただのカモだった。


 ただしギルド内なら、短時間のログアウトは居眠りしているだけという(てい)で見逃される。職員たちが見ている所で凶行に及ぶ者はいないからだ。


 PK行為がシステムで可能になっていることと、NPCたちが『人殺し』を重犯罪としていることは別の話なのだ。

 PKは犯罪者として指名手配されるし、捕まれば監獄送りになる。刑期は罪の重さで変わるらしい。


 指名手配されているプレイヤーたちはギルドが利用できなくなるが、代わりに犯罪者専用の施設が裏社会にあるそうだ。

 場所が割れるとギルドどころか騎士団や自警団まで大挙しての捕物イベントが発生するので、どこにあるのか知っているのは犯罪者たちだけだ。


 そして捕物イベントの後は場所が移るだけで、無くならないものなのだ。


「リアリティか…NPCたちも滑らかに会話できるからな」

「ナビゲーションAIには劣るけどね!」

「そうだろうか…」


 実際に自分の身体を動かしている感覚のせいか、現実にいるような気分になるのは分かる。

 こんなリアリティのある世界で人殺しをゲームだからで片付けられる人種は、高尾とは感じ方が違うのだろうなと思う。


 善し悪しはともかくとして。






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