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氷の魔女と氷の猫

作者: 山法師
掲載日:2025/10/08

 あるところに、氷の魔女がいました。


 彼女の周りは全てが氷か、氷のようになります。

 彼女自身も冷気を纏っていて、彼女が触れるもの全てが凍りつきます。


 彼女にそれを止めるすべはありません。

 彼女はそのための『氷の魔女』だったのですから。


 そんな彼女のそばには誰もいません。

 彼女も近づけさせません。

 なぜなら、彼女が触れる生き物は──もしくは触れなくとも──みんな凍って死んでしまうことを、氷の魔女はずっと昔から、よくわかっていました。


 彼女は、もうずっとひとりでした。


 ある時、彼女は『猫』を創り出しました。

 氷の魔女が魔力を込めて創った、氷の猫です。

 氷で出来た体は透明で、けれど毛並みはふわふわで、しなやかな動きをする、とても冷たい猫でした。


 彼女は猫と暮らし始めました。

 猫は主人である魔女のそばにずっといるわけではなく、氷で出来た広い家を探検したり、長い階段の途中で眠っていたり、窓の外に広がる氷河や雪に覆われた山々や、氷の地平を眺めたりしていました。


 彼女は猫を特別可愛がったりしませんでしたし、猫も特別彼女に甘えてきたりしませんでした。

 気付けば足元にいたり、ほぼ一日見かけなかったり。

 目を覚ますと枕元にいたりすることもありましたが、それはとても稀なことでした。


 そんな日々が、数年。


 数十年。数百年。


 氷の魔女もとうとう老いて──その姿は少女のまま、魂だけが老いて──彼女の命も僅かとなりました。


 ベッドの上で横になり、浅くゆったりとした呼吸を繰り返す彼女の枕元では、氷の猫が丸くなっています。

 ここのところずっと、猫はこうして主人のそばに居ました。


 彼女はゆっくりと手を伸ばし、猫をそっと撫でました。

 相変わらず冷たく、ふわふわと柔らかな触り心地です。

 猫は薄く目を開け、ちらりと主人を見ましたが、またすぐに目を閉じて丸くなりました。


「──私は、」


 魔女は、ゆったりと口を開き、細く息を吐くように話し始めました。


「私は、もうすぐ死ぬけれど。あなたはまだ、生きてゆけるから」


 だから。


「自由に。自由に生きて。あなたが望むように、あなたが幸せであるように」


 主人の言葉に応えるかのように尾をゆるく一振りした猫に、彼女は柔らかく目を細め、微笑みを浮かべて。

 それから、長く、長く息を吐きました。

 それが最期でした。

 氷の猫は、それからも主人のそばにいました。

 魔女の体は徐々に透明に──氷になり、全く溶けず、まるで精巧な氷の彫刻のようでした。

 そんな彼女のそばに、何年も。何十年も。

 猫はずっと、主人のそばから離れませんでした。




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― 新着の感想 ―
はじめて読んだときはあっけないお話だと思いました。最後氷の猫が亡くなった氷の魔女のそばにずっといる事が心に残りました。けれど、なにか心に残ってもう一度読みました。今度はじーんとしてしまいました。なんで…
猫は自由に生きたのだな。
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