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血の浄罪・原初の夜

花村会との全面抗争が苛烈を極めた晩春の夜。

 功二は覇真に呼び出され、一家の本拠から離れた山中の廃寺へと向かった。

 そこは普段なら幹部ですら立ち入ることのない禁域。

 かび臭い床下には無数の白骨が転がり、壁には経文と血の滲んだ文字が書き殴られていた。


 


 廃寺の本堂に入ると、裸の女三人と若い組員五人が磔にされていた。

 覇真は上半身裸で血塗れの経文を自らの体に刻み込み、血塗れの盃を手にしていた。


「今宵、浄罪の刻。胎動の巫女を迎える」


 覇真の声は、静かで、だが常軌を逸した響きを持っていた。

 功二は足元の血溜まりを踏み越え、薄暗い本堂の奥へと進む。


 


「功二…お前に見せてやる。この世の穢れを浄める儀式を」


 覇真が手にした刃を、磔にされた若衆の胸に突き立てた。

 骨を砕き、内臓を抉り出し、手掴みで取り出した心臓を盃に沈める。


「これが、神の器だ」


 


 覇真は続けて、磔にされた裸の女の太腿を切り裂き、内腿から血を搾り取る。

 女の絶叫と、経文を唱える信者崩れの舎弟たちの狂乱の声。


 その血と臓物で満たされた盃を、功二に差し出す。


「これを飲め。兄弟だろう」


 


 功二の内心は、今までにない恐怖と嫌悪、そして妙な昂揚感に満ちていた。

 この血の匂い、この死と狂気の渦中で、覇真は確かに生を燃やしていた。


 功二は盃を受け取り、濃厚な臓物の塊と血の混じった液体を喉に流し込む。


「……ッ」


 喉を焼く生温い血と鉄の味。

 吐きそうになるのをこらえ、目を逸らさず覇真を見据えた。


 


「これで、俺たちは同じ舟に乗った。神の舟だ」


 覇真は満足げに微笑み、磔の女の顔を撫で、指を口に突っ込む。

 女はまだ生きていた。

 呻き声を漏らしながら、涙と涎を流し、覇真の指を喉奥まで咥えさせられる。


「功二、この女、いらねぇか」


「……俺はいらねぇ」


「はは、いい目だ」


 


 覇真はそのまま女の首を掴み、指で首筋を裂いて頸動脈を噴き出させた。

 血潮が功二の顔に降りかかる。


「これが浄罪だ」


 


 そして功二は悟った。

 覇真はもう、極道ではない。血と信仰の狂気の中に踏み込んでいる。


 だが、もう戻れない。

 兄弟の盃を交わした以上、この地獄の舟から降りることはできなかった。


 


 その夜、廃寺は血と臓物の海と化し、五人の若衆と三人の女は皆、覇真の手で殺された。

 翌朝、廃寺は火が放たれ、血塗れの惨殺現場は灰と化した。


 


 功二の心にも、初めて「このままでは終われない」という思いが芽生え始めた夜だった。


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