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2.ハンター講習④

 ハンターは、スキルを得れば18歳からなれる。当然JKならなれるわけだけど。

 胡乱な視線を投げてくるJKから隠れるように後ろの席へ逃げる俺。断じて、断じて、後ろからじっとり眺めたいとかな邪な欲望からではないぞ!

 ちくちく視線に耐えながら席につく。机には講習のテキストだろう冊子がある。確認するべ。

 テキスト、ハンター講習申込書、ハンター管理法、ハンター保険の勧め、だ。


「ハンター保険かー」


 ハンター保険。危険な仕事であるハンターには特殊な保険がある。怪我をした際に格安で治療を受けられるという保険だ。もちろん死んだ場合には保険金もでる。その代わり、お高い。

 一番安いので月々10万円からとなっている。逆に考えれば、それくらいは稼げないとダメだってことでもある。


「お兄さん、保険は入っといたほうがいいよー」


 腕を組んでうなっていると、茶交じりJKが声をかけてきた。


「え、そうなの?」

「あたりまえでしょ」

「転ばぬ先の杖は大事ですよ」

「ジョーシキ」


 むむ、JKから諭されてしまった。


「く、詳しいんだね」

「そりゃーあたしら市船(いちふな)のハンターコースだし」

「将来有望だもんね」

「ブイブイ」


 恐るべしJK。コミュ能力もずば抜けてる。見知らぬ俺にも躊躇なく話しかけるとは。しかも市船か。市立船橋って進学校で千葉県で唯一ハンターコースがあるところだ。船橋の件もあっていち早くハンターコースを作った経緯がある。

 でもJKとはそれ以上の会話にはならず、もっともしないようにしたのだが、講師がやってきた。むさいおっさんでも来るのかと思いきや、さっきの受付嬢だった。しかも黙っていた方。

 ベリーショートでキリっとした顔つきな美人さんだけど、黙っているとちょっと怖い印象。ギルドの制服だろうスーツを着ていて、できる女子のオーラが見える。


「講師を務める小湊(こみなと)京香(きょうか)です。気軽に小湊先生と呼んでください。よろしく」

「小湊パイセンキタ!」

「くぅ、勝浦先輩じゃなかったかー」

「今日の講習は当たりだね」

「ハイハイ静かに。先生はおとなしく聞いてくれる生徒が好き」


 3JKが騒いでる。先輩ってことは、あの小湊先生も市船卒ってことなのかな。

 フランクだけどとっつきにくそうなあいさつで講習が始まった。


「さてハンター講習を始めるにあたって、みなさんの動機を聞いてみたい。どうしてハンターになりたい?」

「かっこいい先輩がいるからでーす。あとお金が稼げるので」

「ハンターもいいかなって」

「お金ホシイ」


 小湊先生が問いただすとJKが即答する。小湊先生はうんうんと頷く。動作が小動物的でかわいい。


「そう、ハンターはとても稼げる職業。それも個人の努力がリターンに直結する、とてもやる気の出る職業」


 おぉそうなんだ。やっぱり稼げるんだ。


「ですが、うまい話が転がっているほど、世間は甘くない。ハンターはとても危険な職業。先日も青森でスタンピードが発生してハンターにも犠牲者が出てる」

「あれか……」


 ニュースで見たやつだな。


「安易な気持ちでハンターにならないで。と厳しいことを言ったけど、国としてはハンター育成に力を入れている。初心者には手厚い指導もある。心配しないで」


 仕切り直しらしい。姿勢を正した。


「まず、ハンターは個人事業主。よって労災保険がない」


 意外な説明から始まったハンター講習。だからか、と保険の案内を眺める。講師のお姉さん曰く、会社などの組織と雇用を結べば労働者だが現状でハンターはそうではないとのこと。つまり、ダンジョンで怪我をしても死んでも補償なしってこと。いきなり厳しい。


「保険には入って。パンフレットを挟んでおいたから、講習後に読んでください。さてハンターについて説明をしていく」


 ここからが本題みたいだ。メモを取らないと。収納ではなく鞄からメモ帳とフリクションペンを取り出す。消しゴムいらずでラクチンなんだよ。


「ハンターとは何をするのか、についてです」


 核心の話だ。俺はハンターにはなってるけど、ダンジョンに入って魔物と戦うくらいしか知らないんだよな。骨の駆除に近いけど。


「まずハンターの()()。これは魔物の殲滅。ダンジョン内の魔物は常に増殖していて、まれに大量発生して地上へと出てくる。これを防ぐのがハンターの一番の役割」


 まぁそうよね。でも、増え続けるのは困る。だからの間引きか。


「ダンジョンは、最奥にいるダンジョンボスを倒すことで踏破でき、そうすればダンジョンは消滅する。でも消滅すると別などこかに新しいダンジョンが発生してしまう」


 なにそれ、無限につぶし続けなきゃいけないの? 無限もぐらたたきじゃん。 

 もしかしてうちにダンジョンができたのって、どこかでダンジョンをつぶしたから?


「ダンジョンは、放置すれば魔物があふれ、踏破すれば別なところに発生する、非常に厄介な存在。でも、このダンジョンから生み出される魔石とドロップ品が、重要な産業になりつつある」


 産業とな。魔石を買い取ってるのは調べて知ってたけど、買い取って何にするかまでは知らないなぁ。


「魔石を加工することによって大量の熱が取り出せることが分かってる。発電から車の動力まで、幅広い分野での活用が見込まれ研究開発がされているところ。来年には千葉市で魔石を動力としたバスの運行が始まる予定。個人的に楽しみにしています」


 おっとー、世間は俺の認識よりもずっと先に進んでた!? つか、俺が遅れすぎてる?

 周回遅れどころじゃないな。

 もしかしたら幼稚園の送迎バスを魔石動力のバスに変えたら経費が減るかもしれない??

 燃料の魔石は俺が入手すればいいわけで。

 あれ、将来に光が見えてきた?


「ですが、すべてのダンジョンから同じように魔石やドロップ品が入手できるわけではない。なので、ギルドとしては、有益なダンジョンは残す、あまり益のないダンジョンは潰す方向に動いています」


 おうふ、もしかしたらうちのダンジョンは無益と判断されてつぶされるかも。だって今のところ骨しか出てこないし。ドロップ品なんて出てないし。

 むむむ、これは、難しいところだな。魔石なら問題なく集められるけどドロップ品も加味するとなると、潰されるダンジョン入りになってしまう。

 あれ? そもそもうちにダンジョンがない方が良いんだよね?


「ハンターになると自分のステータスを見ることができます。ステータスといってもレベル、スキルと熟練度しか見れないですが。でも、これでハンターとしてのランクが決まる」


 知ってる。今日も見てきた。


坂場守

レベル:9

スキル【仏の懐】【師走】

熟練度:1


「レベルは、これは倒した魔物の数と強さが反映される指標です。レベルが高いほど基礎的な身体能力が上がること知られてて、レベルが10になればおおよそ常人の1.5倍の力に相当します。もちろん個人差はありますが、データからはそうなっています」


 へぇ。レベル10で普通の人の1.5倍ね。確かに握力が増えてて湯飲みとか握りつぶしそうになったこともあったな。疲れにくくもなってるし。気を付けないと。


「スキルについて。これはダンジョンに初めて入ったときに授かるもので、人によって異なる。ほとんどはコモンスキルと呼ばれるベーシックなスキルですが、まれに固有スキル、ユニークスキルと呼ばれるものを授かる人もいます。おおよそ1万人にひとり」

「ぶほっ」

「……質問は後で受け付けます。まずはご清聴をお願い」

「怒られてルシ」


 小湊先生に睨まれてしまった。金髪JKには笑われた。

 でもさ、俺の【仏の懐】スキルは珍しいんだ、たぶんね。しかも【師走】もユニークなんですけど。1万人にひとりからさらに1万人にひとりが重なってるから、1億人にひとりってこと?

 俺、死ぬのかな。成仏できるかなぁ。

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