17.5階へ③
ということで、ちゃぶ台を囲んで会議です。なんかギルドっぽくない? 和室だけども。
智は宿題があるのでそっち優先。
「檀家さんが来て草餅をいただいたわー。まだまだ暑いけどお腹は冷やさないようにねーって言われちゃった」
瀬奈さんが嬉しそうに頂いた草餅を口にする。
京香さん共々檀家さんに認知されてて、若くて可愛いのでおばーさま方から人気なのだよ。あまり帰ってこない娘よりも近場の年頃の女子が気になって、おばーさまの世話心が刺激されるとか。当寺の看板娘ですじゃ。
「守君、集中」
おっと現実に呼び戻された。
「今日の成果です」
ちゃぶ台の上に各種1こずつ出して京香さんに見てもらう。個数は紙に書く。
「こ、これは……」
メイドさんが頭を抱えたぞ?
リストを見てる瀬奈さんもため息をついてる。何かマズかったか
「ため息をつきたくなるのも理解できるぞ。数もそうだが内容がヤバすぎる」
零士くんにも言われた。今の零士さんはショタ形態なので『くん』なのだ。
「うん、がんばる」と再起動した京香さんが説明を始めた。
「まず、魔法書ですが、【フィアー】はおよそ5分間恐怖を引き起こしパニックにさせる魔法です。魔法書はほぼ現物が存在しません。ブラックマーケットはわかりませんが、表で流通しているのは見たことがありません。これは、対魔物よりも対人に使えてしまうからだと予想します」
「というと、【カース】と同じく表に出さない感じ?」
「襲われた時に逃げるために使用する、という前提なら私たちが覚えても良いのですが、あまり気分の良い魔法ではないので、できれば【カース】を使って逃げたいのが心情です」
「うーんそっかー売れないかー。じゃ俺が覚えちゃおっかなー」
魔法を使ってみたかったりはするんだよね。収納した奴はぶっ放せるんだけど、それは魔法とは違うでしょ。
「守くんには、ゲットした魔法を全部覚えてもらうのもいいかもねー。いろいろな手段はあった方が良いと思うし、悪いことには使わないでしょー?」
「悪いことってのが思いつかないですね」
何に使うんだろ。お化け屋敷とか?
「次は【サイレス】の魔法ですが、これは5分間対象1体を沈黙させ魔法を使えなくさせる魔法です。これもあまり出回らない魔法書です。物がないから出回ってないのだと思いますが対人にも使える危うい魔法ではあります」
「まぁ、魔法自体が魔物にも人間にも使える危険なものだからな。使わなくても覚えておいて損はないと思うぞ」
零士くんの意見ももっともだとは思う。結局は使う人次第なんだ。薬だって車だって使う人次第では凶器になるし、普通に使ってれば便利なものだし。
「では後で考えるとして、問題は【キュア】の魔法書です。ひとりの状態異常を解除する魔法で【フィアー】も【サイレス】もこの魔法で解除できるはず。ほとんど出回らないので買取金額は1000万円以上と予想」
なんと高い!
それだけ便利ってことか。
「【キュア】に関しては智に覚えてもらうのが一番だと思うわよー」
「私も同意見。守君と一緒にダンジョンについていけるのは智だけ。今後もダンジョンから入手できる可能性が高いから、順番に誰かが覚えていけばいい」
「しばらく5階でレベル上げとアイテム入手に時間を使ってもいいと思うぞ。あのダンジョンは急いで攻略していいダンジョンじゃねえ。俺だってこの身体だから問題なく帰ってきてるが、生身だったら相当の準備が必要なくらいのハードさだぞ?」
瀬奈さんと京香さんが同じ意見で、零士くんが眉根を寄せてながらそんなことを言う。有用だしね、できれば皆覚えておいて欲しい。もちろん、四街道ちゃんと柏ちゃんにもだ。
「次に【綺麗な包帯】。これはケガの部位にまくとゆっくり治癒していくもの。イメージは自然治癒を強化したもの。使い捨てアイテムとしては知られてるけど量はないから普及はしていない」
「量がない? 今回だけで200個以上入手できたけど」
「ふつうはマミーを倒してもゲットできるとは限らないからねー? 守るくんが超特殊なだけだからねー?」
「俺が斬ったマミーからは得られてねえしな」
瀬奈さんと零士くんに詰められてしまった。ドロップ品は必ずゲットできるものではないらしい。ヨシ、覚えたぞ
「でもうちだとポーションが売るほどあるから使い道がないかな」
週に100本はビッチさんところに売ってるらしいし。
「そーお? 智の学校ならいくらあっても困らないと思うけどー? 授業で擦り傷とか当たり前だったし、そんなのでポーション使えないし。包帯なら授業が終わったら巻いてればそのうち治っちゃうし、重症だったらポーションだし」
「医療でも需要は高いかと。切り傷や擦り傷は現代医療でもほぼ放置で何もできない。小さな子供やお年寄りなど、需要はあるはず」
瀬奈さんと京香さんに言われてなるほどと合点。俺も料理してて指を切るとかよくやったけど、確かにそんなことでポーションは使えないよな。
「ビッチさんの商社経由で学校に納品してもらえればいいと思うわよー。ビッチさんところに貸もできるしー」
「ポーションの簡易的代用品になる予感。これは売れる」
うちの奥様さん方が悪い顔をしてる。背筋がゾゾっとしてきて、そそる顔だ。
新アイテムも出そろったのでどうするかの結論だ。
「【フィアー】なんてえげつない魔法書があっても、できれば使いたくはないわねー。魔物にも効果はあるだろうけど、どう考えても人間に向ける使い方を考えちゃうもの」
「同じく。とりあえず表に出すのはやめた方が良いと思う」
奥様ペアは反対意見だ。
アンデッドばかり出るダンジョンでそいつらが使う魔法を入手できるんだけど、闇の魔法っぽいのばかりだからあまり嬉しくないらしい。まぁ俺も同感かな。カースで代用できちゃうし。
「じゃあその方向で。俺が預かってるよ」
「【サイレス】は魔物に対しては有効かもー。特に5階から霊体の魔物が出てきてて魔法を使ってく来てるしー」
「これは、みんなで覚えるべきと思う」
「四街道と柏にも渡すー?」
「あの子たちの安全を考えると、持たせたほうがいいかもしれない」
奥様たちで決定されていく。奥様3人と四街道ちゃんと柏ちゃんはもう家族みたいなもんだし、身の安全を最優先に考えたいね。
「【キュア】は智に覚えてもらって、入手次第わたしたちもかなー」
「四街道と柏にも覚えさせた方が良い。守君の安全のためには、やれることはやっておきたい」
「そうよねー」
という感じでドロップ品の整理が終わる。
「今後は嬢ちゃんの魔法対策が必須だな。ここのダンジョンは出てくる魔物は魔法を使ってくるようなえげつないやつが多い。そろそろ魔法対策をしたほうがいいだろ」
零士さんにそう言われた。確かに、智は【フィアー】にかかって恐慌状態になってしまったけども。
「魔法対策と言われても、俺にはさっぱりで」
「魔法対策のアイテムはあるにはあるが錬金術を使えるやつしか作れなくて希少でな」
なんだろう、お守りとかかな。護符なら寺にもあるけど、違うだろうなー。
「魔物がドロップするとかわかればそこに探しに行ってもいいんですけど」
「その手の魔物はいるにはいるが大抵ダンジョンの奥にいるから何日もかかるぞ。ここは空けられんだろ」
「ごもっともです」
ダメだった。




