14.船橋騒乱③
佐倉たちが逃げ出のを見て男たちが追いかけようとするが零士が進路に立ちはだかり大太刀を振り下ろす。大太刀から放たれた闘刃が利根の腹に当たり彼を含めた数人を吹き飛ばした。本来なら上半身と下半身に分かれるところだが手加減したので吹き飛んだだけで済んでいる。
「なんだこいつ!」
「強いぞ!」
『ガァァァァ!』
「ぎゃぁぁ!」
零士は大蛇丸の峰で男たちを殴っていく。一振りごとに数人が殴り飛ばされ、地面に打ちつけられる。手足が奇妙に曲がり、情けない悲鳴を上げた。
「や、やべえこいつ!」
「逃げろ!」
まだ立っている男らが武器を捨てて逃げようとする。
『逃がすかボケ』
零士が小声で吐き捨てた。
逃げる男の背中を掴み、別な男に放り投げる。倒れている男の足をつかみ、逃げる男の背中に投げつける。もはや斬らずに蹴りや拳で男たちを沈めていく。正体不明の(優しい)武者が大暴れしていた。
「く、くそがぁぁ!!」
傷だらけの美浦が剣を構えて突っ込んだ。が、顎を殴られて撃沈した。
この状況で向かってくるましな奴がいたか、とほんの少しだけ感心したが、だからといって手は抜かない。許されないことをしたのだから相応の罰は受けなければならない。
20人以上いた男たちはすべて地面でうめいているだけの存在になった。
『さてどうするか。どうせ大多喜が来るんだろうが、そこまで待ってる必要もねえか』
零士は大蛇丸を肩に担いだままダンジョンを走り始めた。
『ついでのおまけだ』
零士は入り口付近にいたハイエナを探した。1階にいるには歳を食いすぎてる男を探して走り回る。
「なななんだあれ!」
「で、でけぇ、魔物だ!」
「に、逃げろ!」
1階でゴブリンなどと戦っていたハンターがこぞって階段を目指して逃げていくが、零士は無視して走り続ける。そして逃げ回る若いハンターの胸ぐらをつかんでいるおっさんたちを見つけた。
『がぁぁぁあ!』
「な、なんだあいつは!」
「ま、まさか、武者幽鬼!?」
「ぐはぁ!」
「いでぇ!」
魔物の真似をしながら零士は彼らを蹴り飛ばして無力化した。
『まだいそうだな』
零士は魔物の真似をしつつハイエナと呼ばれるハンターを探しては無力化して転がしていく。念のため見つけた魔物も狩っていくサービスはした。生きて償わせるためだ。
『見せしめとしちゃ十分だろ』
目に見える範囲にハンターはいない。
『どこか隠れるところは……あそこがあるか』
目的を終えた零士は大蛇丸を消すとぐぐっと小さくなる。元のキーホルダーサイズに戻ると草に隠れて駆け出した。
急いでダンジョンを出た佐倉だったが、すぐに副ギルド長の大多喜に捕まった。事情を察しているらしく、大勢の武装したギルド職員を従えていた。
「無事かい? 大変だったろ。あとは大人に任せな。おっと、どのあたりだったかは教えておくれ」
大多喜がプチシュークリームを口に放り込む。ついでとばかりにプチシュークリームが大量に入っているビニール袋を佐倉に押し付けた。
「えっと、ダンジョンに入ってあっちのほうで――」
「よしわかった。さぁ、いくよ! ついてきな!」
「「「ハイッ」」」
佐倉が説明すると大多喜は武装したギルド職員を引き連れてダンジョンに入っていった。
「佐倉、な、なにがあったの?」
足立が震えながら聞いてきた。
どうしようか、零士のことを説明すべきか。
零士を知っている佐倉ら3人は自分たちを逃がすために彼が出たのだと理解している。ただ、大多喜がスタンバイしている理由は知らない。タイミングが良すぎて怪しいのだがあの副ギルド長も謎が多いのでよくわからない。
「わからないけど、突然魔物が出たんだよ」
「めっちゃ強そうだったよあの魔物」
「ふぇぇぇぇ」
「ううう、増長よくない。ダンジョンは危険」
「夢に出てきそう……」
佐倉が答えると4人は床にへたり込んだ。知らなければそりゃ怖いよね、と佐倉は同情する。今の佐倉ですら武者幽鬼に遭遇したら恐怖し絶望する。そんな存在なのだ。
「もう今日はやめとこ?」
「ソッダナ。空気が悪いしナ」
「うん、もう帰る」
「こわかったよぉ」
「ふぇぇぇぇ」
佐倉と柏がなだめるように説得し、4人は着替えることにした。
「ごめん、わたし、師匠を回収してくるね」
「あ、美奈!」
「ミナなら大丈夫ッショ。マッテッベ」
四街道はある場所を目指していた。勝浦に教えてもらった、魔物が出ない、ギルドの倉庫がある場所だ。魔物が出ないからハンターも来ない。誰にも見つからない場所だ。
レベルの上がった四街道が走ればすぐに倉庫につく。
「師匠ならこうゆうところに隠れてそうなんだけど」
四街道が倉庫の周囲を歩く。すると、倉庫にもたれかかるちいさな武者人形を見つけた。その人形が片手をあげた。
駆け寄った四街道が武者人形を拾い上げると『よくわかったな』と声をかけられた。
「弟子ですから」
四街道はすりすりと頬ずりをする。
「ハンターに見つからないような場所を考えたらここかなって」
『美奈子、んが、ぐりぐりは、痛いぞ』
「感謝の気持ちです。わたしたちの経歴に傷がつかないように助けてくれましたし」
『つまらんことで弟子が傷つくのは見たくないからな』
「師匠優しい!」
頬ずりに満足した四街道はミニ零士をまた胸ポケに入れる。
『若い女の子が、魔物かつ男をここにしまうのはどうかと思うぞ?』
「師匠は師匠なので」
『答えになってないが?』
「若い女の子のおっぱいじゃ不満ですか? 助けていただいたお礼なんですけど。JKのおっぱいなんてお金を払っても揉めませんよ?」
『揉むか! ったく、おっさんの俺が言うのもあれだがもっと慎みをだな――』
ミニ零士のお小言は続くが、四街道は笑顔で聞き流している。
「おやおや、上にいなっていっただろうに」
いつの間にか四街道の眼前に大多喜がいた。四街道は驚きで固まっているが、胸ポケのミニ零士が挨拶するように片手をあげる。
「あぁ、あんたが暴れまわってくれたおかげでやりやすくなって助かったよ。これからアタシらは大掃除をするから早いとこダンジョンを出な。おっと、これを持っていきな」
大多喜がクリームたっぷりクロワッサンを渡してきた。ご褒美かおやつのつもりだろうか。
「勝浦には伝えるけど、しばらく船橋ダンジョンは閉めるからね」
去り際にそんなことを言われた。
四街道がダンジョンの階段を上がれば佐倉と柏が待っていた。
「お疲れー」
「イター?」
四街道は棟ポケをさして「ミッションかんりょー」と告げた。




