13.智ちゃんとデート②
2話にしたかったので少し長いです
「俺は坂場守」
「あたしは佐倉朋美」
「わたしが稲毛楓で、彼が旭圭太です。中学3年です」
「圭太です」
自己紹介するが、どうやらこのカップルの主導権は彼女にあるらしい。
4人でのダブルデートに変更になった。もう昼時なので適当なレストランに入って昼食にする。誘ったのはこちらなので金はすべては俺が持つ。
「へー、ふたりは幼馴染なんだー」
「そうなんです。ケイタとは幼稚園からずっと一緒なんですけど高校は違うとこになっちゃうんで最後にって」
「それはつらいね」
料理が来る間、智ちゃんとカエデちゃんが話をしてる。
「わたしは普通高なんだけどケイタはハンターになりたいからって市船に行くって」
「ありゃ、あたしがその市船のハンターコースなんだけど」
「そ、そうなのー?」
「あたしもだけどそこにいるうちの旦那さまもハンターよ?」
「そうそうなんですかって旦那さまぁ!?」
「そう、これ」
智ちゃんが左手を見せてる。
「ざざざざ在学中に結婚ですか?」
「まだ婚姻届けは出してないけど、卒業したらってことにしてる」
「ふわぁぁ、しゅごいぃぃぃ」
カエデちゃんが手を組んで乙女の顔をしてる。そしてちらっとケイタ君を見た。だがそのケイタ君は俺とおしゃべりだ。
「にーちゃん、ハンターなんだ!」
「智ちゃんもだけどね」
「おー、本物だ!」
ケイタくんが目をキラキラさせてるのでハンター証を見せてあげた。
スキルは、レベルは、ハンターコースではなにをするの、などなどケイタ君の質問は尽きない。
「ハンターコースの女子って、どんな子が多いの?」
カエデちゃんは入学後に彼が出会う女の子が気になるようで、智ちゃんに質問をぶつけてる。
「ハンターになるくらいだから気が強い子は多いかなー」
「うっ、ケイタ押しに弱いから……」
「じゃあ今のうちにごにょごにょ」
「ふわぁぁ」
あまり変なことを仕込まないでよ?
昼を食べてアトラクシションを楽しめばもう夕方だ。楽しい時間ほどあっという間に過ぎていく。
彼らは電車で帰るので、ゲートでお別れだ。
「今日は助けていただいた上にいろいろありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
丁寧なカエデちゃんと大雑把なケイタ君。カエデちゃんを逃すと同じような子を探すのは大変だぞと脅しておく。思う当たる節があるのかケイタ君は「わかってます。そのためのハンターです」と小さく答えた。動機は彼女を守る力のためのようだ。がんばれ男の子!
「秋にハンター祭りがあるから、招待するね!」
「やった!」
「カエデちゃんに送るから、ふたりで来るんだよ?」
「はい、あざっす!」
ここでもカエデちゃんを絡めるわが嫁智ちゃん。策士じゃのう。
ふたりと別れ駐車場を歩く。ちょうど帰りの時間なので駐車場ですら車が渋滞してる。帰宅はいつになることやらとうんざりだ。
「ふたりっきりのデートだったのに、ごめんね」
「んー、あたしも楽しかったし。守おにーさんのいいところも見れたし。おかげで好きが増えちゃった」
てへっと笑う智ちゃん。俺の煩悩が減らないのはそんなとこだぞ!
でも俺の菩薩様の笑顔なので煩悩くらいいくらでも増えればいいさ!
「そーいえばさー」
智ちゃんが正面を見たままつぶやく。なんだろうか。
「デートの時、先輩たちとは何を話してたの?」
髪に指を絡めてくるくるしてる智ちゃん。何と書く聞いた風なしぐさをするけど気になって仕方がない様子。かわええのう。
「んー、自分は、実はこうなんだってとこかな。瀬奈さんは自分には身体しかないから不安だっていうし、京香さんは外見からのイメージに合わせてきたことに疲れてるみたいだった」
「瀬奈おねーちゃんも京香おねーちゃんカッコいいじゃない!」
「俺もそう言ったよ。四街道ちゃんに柏ちゃんとか後輩たちからリスペクトされてるって。でも、それは本当の自分じゃないんだって」
「本当の自分?」
「そう、人から見た時のイメージではなく、自分の内面の話。瀬奈さんは自分をおじさんだっていうし、京香さんはかわいいものが好きだったり」
「だから京香おねーちゃんはメイド服で帰ってきたの?」
「浴衣もかわいかったんだけど、メイド服でご主人さまって呼ぶのにはまったみたい」
「うわ、ご主人様って呼ばせたの? 変態!」
「メイド服の店のメイドさんにそう呼ばれた後からずっとそう呼ばれ続けてたよ……」
さすがにホテルであれこれご奉仕したことは言えない。されたんじゃなくって俺がしたのね。
「でも、本当の自分かー」
智ちゃんが遠い目をした。ハンターではなくやりたいいことがあったんだろう。受験もあきらめたっていうし。
「あたしって役に立ってる?」
唐突にそんなことを聞いてきた。不安になることがあったんだろうか。
「そしゃもちろん。ダンジョンに関しては智ちゃんが来てくれて助かってるし、なにより智ちゃんが来てくれて家が明るくなったよ」
「そう?」
「父さんとふたりで暮らしてた時は、寂しさがあったね。父さんは法事で出かけることも多かったし、なんだかんだで俺は寺にはいないといけないし、大学でもサークルには入ってなかったし。でも今は寺も賑やかで、寂しさはなくなったよ。3人とも隣に帰った後は寂しいかな」
祭りが終わった後みたいで、賑やかさの残滓が感じられるけどでも人はいない。そんな寂しさだ。
「それってあたしじゃなくてもよくない? 瀬奈おねーちゃんと京香おねーちゃんがいればこと足りなくない?」
智ちゃんがちょっとすねた感じになってしまった。これはいかん。智ちゃんちゃんが来てくれたことで本当に助かってるんだし、誤解を解かないと。
「瀬奈さんは交渉とかすごいし、京香さんは書類の処理とか早くて。あたしってダンジョンでしか仕事がないし」
「その、ダンジョンが大事なんだよ」
智ちゃんの手を握る。ふたりと自分を比べて劣ってるって思ったんだろうけど、それは違うんだ。
「俺がやりたいことは、地域の安全の担保。そのためにはダンジョンを管理しなきゃいけなくって、瀬奈さんと京香さんはその管理のための仕事を手伝ってもらってる。でもダンジョンの管理の本質は、中の魔物の駆逐なんだよ。そのためには智ちゃんの存在が絶対なんだ。智ちゃんなくしてあのダンジョンの管理は成り立たない。だから、智ちゃんがいないと俺が困るし、嫌だ」
俺が守りたいものを守るためには智ちゃんが不可欠なんだ。あのダンジョンは、いくらユニークスキルがあったって俺の手には余る。
「ふ、ふーん、あたしがいないと困るんだー」
「困るし、もう智ちゃんが隣にること前提の生活だから、考えられないって」
「そ、そっかー」
智ちゃんがふいっと視線を逃がした。
「智ちゃんにもやりたいこととかあると思うけど、一緒にいてほしいのは俺のわがままだからさ。なんというか、その、一緒にいてほしいんだ」
ダンジョンという危険と隣り合わせの生活なので、やりたいことはやったほうが後悔はないと思う。もちろんそれは智ちゃんのことであって俺のことではない。智ちゃんは、家庭の事情とかあるかもだけど俺の都合に巻き込まれちゃったほうだしね。
「ププププロポーズみたいに聞こえたけど?」
智ちゃんがこっちを見た。真っ赤な顔で、ちょっと涙目だけど。
「プ、プロポーズみたいになっちゃったけど、しょうがないじゃん、俺の率直な気持ちだし。こうやって話せるのって智ちゃんだけだし。瀬奈さんと京香さんにため口はなんか違う気がしてさ」
「へーへー、そんなにあたしがいーんだー」
「……一緒にいてほしいなって口に出したのは智ちゃんだけだね」
「ううう、ずるいなぁ……」
「ずるい男でサーセン」
頬に手を当てて顔を上向かせて唇を重ねる。自分からキスしたのは初めてか。
「あ、あたしのファーストキス……高いんだからね!」
「買い占めたいけどおいくら万円なのかな」
「ま、守おにーさんが一生働いても稼げないくらいよ!」
「そっかー一生かー」
安いもんじゃい。
「ところでその『守おにーさん』て呼び方やめない? こう、さくっと守とかのほうが、日常でもダンジョンでも言いやすいと思うんだ」
智ちゃんは特別扱いするとうれしいみたいだしね。距離も縮まっていいことしかない!
「じゃ、じゃあ、守? とか?」
「うん、いいね。じゃあ俺も智って呼んでもいい?」
「カ、カップルみたいね……って卒業すれば夫婦だもんね……守、守、守。うん。守大好き」
耳まで真っ赤にした笑顔の智ちゃん。いや、智だ。魂が抜けるくらいかわいいのよな。
たまにデレる時の智の笑顔の破壊力よ……柏ちゃんが倒れる気持ちがよくわかる……。
「で、ふたりとはエッチなことしたんでしょ?」
打って変わって智が凍えそうな視線を投げてきた。不動明王様のごとくだ。コワイ。しかし嘘はつけない。
「し、しました」
「瀬奈おねーちゃんは順当としても京香おねーちゃんとも?」
「あ、はい」
「性欲モンスターね」
「グハッ」
「……あたしともしたい?」
「そりゃぁ……その」
「はっきりしなさい」
「したいです!」
煩悩には勝てん。
好きな女の子にそういわれて断れる男がどこにいる!
そんな奴はお釈迦様に説教されるぞ。
「卒業まではお預け」
「そ、そんな!」
「……ちゃんと優しくしれくれるなら、考えなくもないけど」
「京香さんも初めてだったけど可能な限り優しくした、つもり」
「京香おねーちゃんのことはいいの。あたしに対してってこと!」
やっべ、地雷を踏んだ。
「優しくするにきまってるじゃん。大好きな智だよ? そりゃー我慢できなくなっちゃう可能性もあるけど……」
「我慢出来ないんだ……そっかー」
「本能に負けたら、ごめん」
「…………やさしく、してよ?」
智がぷいっと窓を向いた。
そういうことになった。




