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2.ハンター講習①

 翌朝、ちょっと胸騒ぎがして夜明け前に目が覚めた。虫の知らせというか、すごく嫌な予感と気配を墓地から感じた俺は。作務衣に着替えて墓地へ向かった。

 玄関に立てかけてある竹ぼうきをもって墓地へかける。いやな気配が墓地から感じられるんだよ。

 【師走】まで使って墓地をかける。ダンジョンの階段がある一番奥に、白い人影がちらちら見えた。マジかよ! ダンジョンから出てんじゃん!

 ゴブリン骨が3体いる。しかも、人様の墓石をげしげし蹴ってる。許せん!


「こんの罰当たりがぁ!」


 一番手前にいた骨にほうきを叩きつけて収納。墓石を蹴っていた骨には飛び蹴りじゃゴルァ!

 蹴りで収納しつつ体勢を整えて残った骨にほうきを突き刺す。


「仏罰!」


 ほうきを肩に担いで階段を睨む。角がある骸骨が上がってくるのが見えた。くそが。


「天罰覿(てき)メェェェェン!!」


 ほうきを振りまわして階段を上がってきた骨チビを収納。階段下には順番待ちの骨が沢山見えた。


「こんなのが出たらやべぇだろうが!」


 夜が明ける前に叫んでしまうくらい、ムカついてた。ほうきを突き出しながら突進した。


「てめえらの血は何色だぁ!」


 骨に血なんてないけどさ、そう叫びたい気分だったんだよ。

 墓地は静かに弔う場所だ。静かに眠っている故人を叩き起こすような行為は罰当たりに決まってんだろ!

 骨を収納しながら階段を駆け下りる。レベルが上がってるからか、無理が効く。階段下に降り立ったらほうきの柄の端を持ってジャイアントスイング!

 周囲2メートルにいる骨を根絶やしにする。


「クッソ、骨だらけじゃねえか!」


 ダンジョンの墓地は骨で真っ白に染まっていた。通勤時間帯の京葉線よりもひどい。ホブゴブリン骨とゴブリン骨はいるけど、それとは違う四つ足の獣みたいな骨が大半だ。しかもデカイ。具体的には熊ぐらい。


「うおりゃぁぁ!!」


 ほうきを振り回しながら少しずつ前進する。ひと振りすれば骨が5,6体消える。やたらめったらに振りまわし、自分の領域を増やしていく。そんなことはお構いなしに骨どもは出口に向かって歩いてくる。

 俺なんて眼中にないっポイ。


「てことは、出口を死守してれば俺の勝ちか?」


 冷静に考えよう。仮に骨どもの目的が表に出ることなら、必ずここを目指すはず。じゃあここで待ち構えて殲滅させるのがいいか。へたに走り回って、その隙に地上に出られちゃうなら、そうすべきだな。


「そうと決まれば仁王立ちだ!」


 弁慶も土下座するレベルの仁王立ちを見せてくれるわ!

 階段前に立ちはだかる。武器がほうきなのは仕方なし。


「かかってこいやぁ!」


 ゴブリン骨は歩いてくるだけだけどホブゴブリン骨は俺を掴もうとしてくる。殺意が高めだ。獣型はもっと凶暴で、後ろ足で立ち上がって前足を振り回す。そして吠えた。グァァァァァっとね。声帯はどこにあるんだ?

 動きからするにやっぱり熊だ。一番注意が必要だな。でもほうきの方がリーチが長いから、近寄らせない。

 収納したら【収納:マッドベアスケルトン×1】とでた。熊で正解だった。狂った熊さんか。プライベートでは会いたくない。

 5分足らずでホブゴブリン骨×5、ゴブリン骨スケルトン×14、マッドベアスケルトン×56体を収納した。でも減った感じはしない。どうも下の階から上がってきてるようだ。墓場にはまだまだ骨が満員電車だ。

 やったね、経験値が沢山だ。


「って、うれしくねーよ!」


 そもそもダンジョンなんて望んでねー!


「あっとそこは通行止めな」


 こっそり抜けていこうとするゴブリン骨をほうきで叩く。危ない危ない。

 最初こそ熱血だったけどもう作業になってきてる。俺だけが余裕なタワーディフェンスゲームじみてきた。こんなあほなことを考える余裕もできてきた。

 彼是1時間くらいしたら骨の姿がまばらになった。やっと終わりが見えてきたぞ。

 最終的にホブゴブリン骨×15、ゴブリン骨×46、マッドベアスケルトン×189体を収納していた。

 マッドベアスケルトンは熊骨でいいよな。面倒だしさ。


「ほうきを振り回してるだけだけど、なんか疲れたな」


 興奮した反動かもしれない。収納した骨は全て経験値と魔石にした。


『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』


「まー上がるよなー」

 現在の俺のステータスと見てみると。


坂場守

レベル:8

スキル:【仏の懐】【師走】

熟練度:1


 レベルが3つも上がってたぜ。ダンジョンができちゃってからまだ三日だぜ?


「ゲームだったら嬉しいんだろうけど現実だとなぁ……」


 喜んでいい事態じゃないしな。


「正式にハンターになる前にドンドコレベルが上がっていくなぁ。そろそろ一人前なんですけどー」


 気が重い。

 竹ぼうき(相棒)だいぶくたびれてきた。収納しているとはいえバシバシ叩いてるからなぁ。竹ぼうきを収納してダンジョンを出た。


「はぁ、えらい目に遭った」


 本堂に戻れば父さんが幼稚園バスの迎えの準備をしていた。もうそんな時間か。

 俺は免許を持ってないので運転手は雇ってる。園長たる父さんは忙しいから寺は離れられないんだ。


「守、ダンジョンでなにかあったのか?」

「骨が溢れそうだった。俺が何とかした」

「大丈夫なのか?……そうか、すまないな」


 父さんがしょんぼりしてしまった。自分のスキルが戦いに向かないからだろう。でも【速読】で調べ物をしてくれるから助かってるんだよな。さて話題を変えよう。


「今日の骨は熊だった。ほうきの方がリーチが長いから楽勝だったけど、竹ぼうきがそろそろ限界だ。代わりになるようなものってない?」

「ほうきの代わりか」

「振り回せる手ごろな長さの棒でもいいんだけど」

「お、それならちょうどいいのがあるぞ」


 父さんが歩いて本尊裏に消えた。あそこは檀家の人からは見えないからちょっとしたものを隠してあるんだ。


「これはどうだ?」


 父さんが手にしているのは、長さが2メートルくらいの木の棒。断面が八角形の金剛杖だ。四国八十八ヶ所霊場を巡拝するお遍路さんが持っている杖だな。


「お遍路さんの杖か」

「父さんがまだ独身だったころ、四国巡礼をしたときに購入したんだ」

「竹ぼうきよりも長くてちょうど良さげ。レベルが上がって筋力が増えてるからこれくらいの重さがあると扱いやすい」


 金剛杖を手に持って軽く振ってみる。真ん中くらいを持ってくるくるバトンみたいに回してみる。いいねいいね。竹ぼうきよりも到達距離が遠くなって、より安全な空間を確保できそうだ。


「良い感じだ。気分は孫悟空だね」

「それは良かった。そのダンジョンで出た熊ってのはどんな熊だったかわかるか?」

「マッドベアスケルトンってやつだった。200体近く出てきた」

「マッドベア……」


 父さんが顎に手を当てて考え始めた。


「昨夜の青森でのスタンピードについて調べてたんだけどな、溢れた魔物のほとんどがマッドベアだったらしいんだ」

「マッドベア? 骨じゃなかった時の魔物ってこと?」


 なんか嫌な一致なんですけど。とても、とても嫌な予感がする。


「あとでマッドベアスケルトンを調べてみよう。幼稚園に行ってくる。墓地を頼んだぞ」

「任された、行ってらっしゃい」


 歩いていく父さんの背中を見つつ、ダンジョンなんてなければ平和だったのに、と思った。

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