9.海②
それから数日たったクソ暑い日。大きな荷物を持った足立さんら4人が寺にやってきた。4人ともミニスカと露出度の高い服で肌が眩しい。
対抗してなのか勝浦さんも小湊さんも生足をどばっと出してて眼福だ。サングラスで視線を隠さないとhentai扱いされそうだぜ。
「「「「おじゃましまーす」」」」
「マジで勝浦先輩だ」
「小湊先輩もいるし」
「おっぱいでっか」
やっぱりそこに目が行くよね。
「おにーさん、みんなペチパンツ履いてるからパンチラは期待しないように!」
「佐倉ちゃんが辛辣だ。みんなかわいいなーって眺めてただけだって。あ、今日の佐倉ちゃんの恰好も可愛いね」
今日の佐倉ちゃんはオフショルダーのシャツにキュロットと健康的な可愛さだ。五重塔みたいに国宝にすべきだよ。
「お、おだてたってなんにもでないんだからね!」
「おだててるわけじゃないってー、佐倉ちゃんは可愛いよ?」
本心から可愛いと思ってるってば。
「し、しらない!」
佐倉ちゃんがぷいっと行ってしまった。女心はムズカシイ。
「オニーサンギルティ」
「そんなところですよ」
無表情の柏ちゃんと四街道ちゃんにも突っ込まれた。むー、いかんかったのか。
「みなさんいらっしゃい。狭いところですがゆっくりしていってくだされ。守、父さんは法事で夜まで戻らないから。夕食もそこでいただくことになってる」
「わかった、気を付けて」
「頼むな」
父さんが軽トラで出かけた。近場ならスクーターで行くんだけど今日は蘇我まで行くから車なんだ。
「さー準備するからみんな手伝ってねー」
「「「「「「「はーい!」」」」」」
講師のふたりと生徒7人だと母屋では無理なので本堂でやることに。本堂は法事をすることもあるから20人くらいは入れるようになってるんだ。クーラーはないので扇風機だ。
そこに折りたたみテーブルと椅子を持ち込んで即席の教室だ。なお、畳くらいの巨大なモニターがセットされてて、そこに録画したダンジョンでの映像が流される。モニターはいつの間にか小湊先生が購入していた。流石先生である。
「佐倉の指示はいいわねー」
「やった!」
「品川、隣の太田と連携するとなお良し」
「今度は意識します!」
「四街道、囮をやるならもう少し前に出てもいいわよー」
「はい!」
映像を見ながら講師からの評価が飛ぶ。「それではダメ」ではなく「こうするともっといい」というアドバイスなあたり、講師ふたりのやさしさが見える。
俺は母屋でお茶と昼食の準備だ。なにせ人数が多いので作るにも時間がかかる。今日は暑いのでそばだ。
開始から1時間が経った。映像が終わってノートpcに向かってそれぞれの宿題に取り掛かってる。ころ合いかな。
「ぼちぼち休憩を挟んだ方がいいよー」
お盆に麦茶のポットとおやつを載せて持っていく。おはぎ、クッキー、ポテチ、せんべいなど山盛りにしたので好きなものを取って行くスタイル。
「わーいおやつだー」
一番喜んでるのが勝浦さんだ。おはぎをふたつとっていった。あの栄養は全部おっぱいに行くんだろう。小湊先生は悩んだ末にクッキーをとった。小湊先生の場合は脳に行ってるんだと思う、きっと。
「明日は海に行くからねー。学科の宿題もなるべくやるのよー」
勝浦さんから檄が飛ぶ。3つ目のおはぎをフォークに刺しながらだけど。
そう、明日は海で遊ぶのだ。せっかく海の近くに来たんだもん。ぜひ楽しんでいってほしい。
海は近いから車で走ればすぐだ。海水浴場はあるけど地元民しか来ないようなマイナーな海水浴場だから空いてるぜ。
「10人乗りのレンタカーも手配済み」
勝浦さんの車は4人乗りなので全員が乗れるレンタカーを手配した。流石に幼稚園バスは使えない。
今回のような合宿じみたことが増えるなら中古車でも買った方がいいかな。稼ぎはあるし、檀家さんの送迎用と言い訳もできるし、そんな用途にも使える。
「守くん、お風呂だけ、貸してね❤️」
「鉢合わせると気まずいんで、父さんが帰ってくるまでにお願いしまーす」
流石に人数が多くて風呂の順番待ちが長いのでうちのも使用する。
たぶん、父さんは少し飲んで帰ってくるはずだから、酔っぱらっていつもの癖でノールックで風呂に入っちゃう。飲酒運転は厳禁だから代行で帰ってくるけど。
休憩も終わり、お昼の用意だ。
「10人分の蕎麦ってすごい量だな」
用意した生麺は15人分。そのほかに卵焼きとか簡単なおかずも用意する。
本堂で食べるわけにはいかないので、母屋前のスペースにパラソルを立ててバーベキュー方式だ。
「麺つゆどこー?」
「箸は持ってきたー」
「これ、薬味だって」
何も言わないのにみんな手伝ってくれる。いい子しかおらん。
準備が済んだらいただきますだ。
「おそばが冷えてて美味しいズズズ」
「あ、卵焼きが甘い」
「生姜を薬味にしてもおいしいんだね」
お昼が問題ないようで良かった。それはそうと。
「勝浦さん、あとで車を貸してほしいんですズズズ。買い物したくって」
「いーわよーもぐもぐ」
「私が一緒に行く、むくむく」
「何か足りないのー?」
「海で使うものと飲料が。主にビールですけど」
「あらあら最重要ねー。おねがーい」
という感じでお昼を終えた俺は小湊先生と買い出しに向かう。ちょうど駐車場に車が入ってきた。
「守君、お客さん?」
「あれは、工藤ばーちゃんの車かな。夏休みでこっちに孫が遊びに来た時に墓参りにくるんですよ」
「なるほど」
車が止まっておばあちゃんと小さな子供がふたり降りてくる。姉弟のようで、女の子が男の子の手を握ってる。
「工藤さんこんにちは」
「おや守ちゃん。こんにちは。そちらは彼女さんかい?」
「はい、お付き合いさせていただいてます小湊と申します」
小湊先生にぺこりとおじぎされてしまった。
「ふふ、礼儀正しい美人さんね、こんにちは。今日はお寺がお祭りみたいに賑やかね」
「今日明日と部活の合宿をしておりまして、騒がしくしてご迷惑をおかけします」
「あらやだ、迷惑なんてないわよ。ふふふ、賑やかでいいじゃない」
「ばーちや、いこ!」
待ちきれない男の子がおばあちゃんの手をくいとひっぱる。
「はいはい、行こうかね。じゃ」
おばあさんは「走ってはだめよ」と諭しながら墓地に歩いていく。お盆になればもっと増える。
形だけになってしまっているけど、先祖に思いをはせるきっかけはあってほしい。ダンジョンができても、この景色は変わらないでほしい。
そのためには、がんばろう。
「それはそうと先生。先生が彼女であると肯定したので、明日には集落中に広まりそうですが」
「外堀を埋めて既成事実化するのは浸透作戦の常套。これで一歩リード」
小湊先生が楽しそうに笑った。




