8.首実検と佐倉無双④
「左前方に一角ウサギ発見」
「葉子やれる?」
「モチのロン」
立ったままクロスボウを構えた柏ちゃんは無言で矢を射った。矢は一角ウサギの額の角を砕いて額に突き刺さった。
「命中」
一角ウサギは光の粉になって消えた。
誰もが自分がやるって言わず、流れるような連携で魔物を倒した。うーん、すごい。
「魔石だね。矢も無事だよ」
四街道ちゃんが魔石を拾った。喜ぶこともなくすぐに歩き始めた。なんというか、熟練の軍隊のようだ。
「ずいぶんあっさり倒したな」
思わずこぼれてしまった。
「あの武者に比べたらぬいぐるみですし」
「動かない的なら外サナイ」
「恐怖を感じないしねー」
ヤダ、この子たち怖い。サーセン俺のせいです。
その後も魔物を見つけては誰かが駆逐していった。四街道ちゃんは警棒で、佐倉ちゃんですら俺の鉄パイプで戦ってる。遊びではないってことかな。
「やっぱり物足りないなー」
四街道ちゃんがつぶやいた。
「ひりついた感じがしない」
柏ちゃんが不満そうだ。
「魔物の数が少ないよね」
佐倉ちゃんまで……。JKが戦闘民族化しそうだぞ?
なんてタイミングで、つけていたやつらに動きがあった。だだだっと走って俺たちの前に回り込んできた。
「こんな遠くに来たら、はぁはぁ、あぶねーぞー?」
「助けを呼んでも、ふぅふぅ、誰も来ないじゃん」
「はぁはぁ、俺らが助けてやるよ」
モヒカン、ロン毛、金髪が息を切らせている。君たち、ちょっと走っただけでしょ。
こいつらの背後にはにやけ面の男がふたり。俺よりも年上っぽい。剣を肩に担いでる。
「なんか用? あたしら宿題中なんだけど?」
佐倉ちゃんが前にでる。
「んな弱っちー男じゃ不安だろ? 佐倉のスキルは使い物にならねー奴だし。俺が守ってやるって」
「あたしのスキルがどうだってあんたには関係ないでしょ」
「アレが何の役に立つんだよ。俺らといればレベルもあがって役に立つスキルを覚えるって」
金髪が暴言を吐いた。
ほう、佐倉ちゃんのスキルが使い物にならないだと?
あんなチートスキルなのにか?
何を知ってるってんだ?
「あー、保護者である俺を通してくれないかな」
佐倉ちゃんの前に出て金髪と睨み合う。
「あ、何だこの雑魚は」
金髪君も引かない。俺が舐められてるんだろうけど。
「そうそう、そこの雑魚は俺らが預かるから、お前らはよろしくやっときな」
「1階だからって素手はなめすぎだぜ」
後ろにいた男ふたりが前にでる。わざと体を揺らして大きく見せようとしている。
なんだっけこれ、チンピラ仕草だっけ。
「おにーさん、見た目は素手だからねー」
「実際は魔王ダケド」
「命知らずね」
「俺は仏様のように優しくあろうとしているのに! ヒドイ! まあいいや、仏の顔も三度までって言うでしょ。二度目だけどさ。お仕置きしないと君らが餓鬼道に落ちてしまうから仕方ないね」
収納から竹ぼうきを出す。もちろん新しいほうきだ。軽くて先が広がってるので俺にはぴったりの武器なんだ。
「は? ほうきだぁ?」
「ひゃひゃひゃひゃっ! ほうきって!」
笑ってるけど、これをどこから出したのかに考えがいかないあたり、残念な男たちなんだろう。
「ラクショーだな」
「その女たちは俺らが楽しく遊んでやるよ!」
剣を見せつけてイキがりはじめた。剣を持った相手だけど恐怖はない。ダンジョンの骨のほうが怖いもんなぁ。特にあの武者とか武者とか武者とか。
「仏の顔も三度までだ。まずはその剣な」
【師走】スキルを全開にして距離を詰める。棒立ちしている男らの剣にほうきを当てて収納した。
「は?」
「剣が消えた!」
慌てて手を見た男らの額に高速デコピン。
「イッテェェ!」
「ギャァァ!」
額を抑えて屈んだので膝裏をほうきでぶっ叩き、ついでにズボンを収納。黒のボクサーパンツが丸見えになった。
「グァァ!」
「アッハン!」
地面にうつぶせに倒れたのでさらにお尻スパンキング! スパンキング!
「ぎゃぁ!」
「んにゃぁ!」
「うちの子たちの教育によくねーことは言わねーでほしいんだけど。そら、仏罰だ」
ケツやら背中やらを竹ぼうきで叩いて服も収納する。もちろんパンツもだ。
スパンキング! スパンキング!
「う、うっぅぅ」
「い、いてぇ……」
「お仕置きは痛いに決まってる」
お尻が真っ赤になった男らが悶絶してる。最後に竹ぼうきスパンキングしたら「アギャー!」って悲鳴を上げた。
収納していたなまくらの剣を10本出してふたりの目の前の地面にザクザク突き刺していく。
「うちの子に手を出そうもんなら、次はこれでケツの穴を拡張してやる」
「「ひぃぃ」」
竹ぼうきを肩に担ぎ、金髪とロン毛とモモヒカンに笑顔を向ける。
「さて餓鬼ども。お前らはどうする? 俺は仏様ほど慈悲深くはないぞ?」
佐倉ちゃんのスキルをバカにしやがって。南無阿弥陀仏を唱えても許してやらん。
「ククククソッ これでもくらえ! ファイヤー!」
金髪が手を突き出し、テニスボールほどの火の玉を放ってきた。のろのろ飛んでくるのでほうきで叩いて収納する。
「そんなもん俺にはきかないよ」
あれよりも怖いファイヤーボールとか闘刃の洗礼を受けてるんだ。あんなへなちょこボールなんて屁みたいなもんだ。
「お、俺の魔法が!」
「な、なんだよこいつ!」
「やべーよ、やばすぎるよ!」
ロン毛とモヒカンは逃げ腰だ。逃がさんよ。【説法】スキルで眠らせる。3人はどさどさって地面に倒れた。
「さぁーお仕置きの時間だ」
こいつらの服も全部収納して、生まれたばかりの体にしてやる。服と装備はひとまとめにしてその辺に転がした。優しいな、俺。
「ウワ……」
「いい気味」
「竹ぼうきって、強いのね」
「え……どうしてそんなにドン引きなの?」
おにーさんは頑張って退治したのよ?
若干、遊んだけどさ。
「いやドン引くでしょ!」
佐倉ちゃんが手厳しい。
「佐倉ちゃんのスキルをバカにした奴らなんだから、かなりぬるいお仕置きだと思うよ。こいつらを閻魔様の前に引きずり出したいくらいだよ?」
「そ、そうかもしれないけど」
「佐倉ちゃんのスキルは、ここだと力を発揮できないだけですごいスキルなんだよ? それをバカにされたら腹立つじゃん」
「う……その……怒ってくれてありがと」
佐倉ちゃんがそっぽ向いてしまった。やり過ぎたか?
「おにーさんは怒らせると怖いタイプだとわかりました」
「パイセンの彼氏ならこれくらいでないと!」
お。柏ちゃんは理解があるぞ!
「で、この汚物はどうするの?」
佐倉ちゃんが虚無の顔で指さしてる。見たくもないって感じ。
「消毒したいところだが殺生はしない。なので、起こして放置」
「まぁ、それでいっか」
そうなった。
男たちを起こした上で置きざりにして、俺たちは方向転換して別方向へ。まだ宿題といえるほどの成果がない。
「あ、あれってゴブリンじゃない?」
先頭を歩く四街道ちゃんが指さした。遠くだけど緑色の子供もみたいな人影が3体歩いてる。
頭には角がある。おなかが異様に膨らんで、まるで餓鬼のようだ。目はぎょろりと大きく、黒目が大きい。魔物ランク1だそうだが、ハンターになりたてで勝てるとは思えない。
「あれがゴブリンスケルトンの原型か」
骨からは想像できなかった。不気味な魔物だ。暗がりで会ったら泣いちゃいそう。
そのゴブリンたちが走り始めた。その先には、ジャージの女の子が4人いる。剣とか棒とかを構えてるけどへっぴり腰だ。明らかに戦いなれてない。戦いなれてるうちの子たちのほうがおかしいんだけどさ。
それにいなければいけないハンターの姿がない。
「智、どうする」
「やばそうなら助ける」
「リョウカーイ」
様子見することにしたようだ。ゴブリンと女の子4人が接敵して戦い始めた。人数では上だが及び腰なので押され気味だ。
「美奈、葉子、GO!」
「了解!」
「ヨット!」
すでにクロスボウを構えていた柏ちゃんが佐倉ちゃんの指示で矢を放つ。と同時に佐倉ちゃんと四街道ちゃんが駆けた。
矢はゴブリンの頭に突き刺さり、その場で光の粉になる。
「ほらこっちだよー!」
「鬼さんこちらー!」
ふたりは走りながらゴブリンの気を引いていく。ゴブリンは挑発に乗った。
「グギャギャギゃ!」
「こっちこっちー!」
女の子たちからゴブリンを引きはがしていく。どうやら女の子にけが人がいるらしい。
「あっちにイク」
柏ちゃんが女の子4人に向かって走る。俺もついていこう。
「無事カ?」
柏ちゃんがゴブリンから女の子を遮るように立った。
「いたたた、なんとかね」
「付き添いのハンターはイネー?」
「えっと、その」
「見つからなカッタ?」
「あはははは、忙しいって断られちゃって」
柏ちゃんが対応しているので俺は黙っている。ハンターなしとは。手伝うハンターも少ないのかな。
「足立、ケガ」
「ちょっと、足がね」
地面に座り込んでる子の足が変な方に折れている。ゴブリンに蹴られたらしい。




