1.ダンジョン発生④
翌朝も墓地の掃除だ。もちろん地上のね。
「ダンジョンに関する資料を調べたんだが」
父さんはPCと睨めっこだ。【速読】スキルで画面に出てる文字を一瞬で理解できるようになって、いまはダンジョン関連の法律なんかを調べてる。
「ダンジョンは、その土地の所有者が管理する義務があるのは、土地が絡むので国が買い取ることはしないかららしい」
「なんで? 国が買い取って管理すればいいのに」
「以前、ダンジョンが発生した土地を不動産屋が転売を繰り返して不当に釣り上げた事件があったらしく、それがきっかけで管理は土地所有者となったようだ」
「悪徳不動産め!」
「結局のところ、自分たちで何とかするしかない」
「……ダンジョンを掃除してくるよ」
俺は墓地奥の階段に向かった。でもすぐにはダンジョンには入らず、階段の目の前でスキルについて頭の中に入っている情報を調べることにした。
どうやら収納できるのものに制限はないらしい。ラノベなんかだと生き物はダメってなてるけど、墓地を歩いてたアリを収納したらできてしまった。これはやばい。やろうと思えば人間も収納できちゃう。仏様の懐は深淵だと思った。実に容赦がない。
ただし、収納した時点で生命活動は停止してしまうようだ。収納から出したアリは動かなくなっていた。命を奪ってしまったので墓地の隅っこを掘って埋めて手を合わせた。南無阿弥陀仏。
「収納したものはどうなるのか、だけど」
基本的に時間経過しないようだ。氷を収納して1時間後に取り出したけど溶けた様子もなかった。すげぇ。さすが仏様の懐だ。さす仏。
「収納しちゃった骨はどうなんだろ」
こいつらはやっぱり魔物らしくて【→経験値と魔石にしますか?】って選択肢が出てきた。ゲームだなこれ。
「やれることは全部やっておくか」
ということで、昨日収納したゴブリン骨をすべて経験値と魔石にする。魔石というのは、倒された魔物は消えるんだけど、その際に残される石のことだ。
色は様々で、魔物によって違うらしい。ハンターはこれを国に売って生計を立っているんだとか。ごくまれに魔石以外も残すっぽくて、ドロップ品というらしい。地上では考えられないものが残るそうだ。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
そんな言葉が頭に流れていく。レベルが上がったみたいだ。俺がハンターになってる証拠だった。ちなみに4回声がしたので4レベルあがったんだろう。初期がレベル1とすれば、さしずめレベル5ってとこか。
「レベルが上がったからって……体に違和感とかはないな」
肩をぐるぐる回しても違和感はないし、逆にキレが良くなった感じもない。竹ぼうきがちょっと軽くなった気はするけど。あ、竹ぼうきを振り回すと風切り音が鋭くなった気がする。ブワンって音からブァッって感じに。
ゲームとかだとステータスが上がって身体能力が向上するんだけど、そうなのかな。現実はゲームじゃないんだけどさー。
ただ、ハンターが一人前とみなされるのがレベル10らしい。俺は半人前ってところか。もう少し頑張ると一人前になってしまう。無許可ハンターが一人前とか、しらんがな。
ハンターは5レベル上がるごとにスキルを覚えるのかってなんか覚えた。【師走】なるスキルだ。
「……いや、【師走】って、そんな馬鹿な……」
思わず天を仰いだ。神様仏様、これは一体なんぞ?
またも頭の中にインストールされている情報を漁ると、【師走】なるスキルは、かけっこが早くなるスキルらしい。100メートルなら6秒台で走り切ってしかも疲れない。がんばれば壁も天井も走れる、だと……?
師走って言葉は年末に僧侶がお経をあげるために駆けずり回る様から来てるんだけど、それか、それなのか?
なんかへんちくりんなスキルがふたつも来たけど、歳末大売り出しでもしてるのか?
「壁を走ったり100メートルを6秒で走れる坊さんってのもいいかもしれないけどさ」
外出用のスクーターがいらないね。やったぜ経費削減だ!って寺が無くなっちゃえば読経のお仕事もねーってばさ!
こんな現実逃避をしていてもダンジョンは逃げてくれないわけで。
「はぁ、地下のお掃除でもするかな」
おっと魔石があった。どうやら魔石が125個収納されてるけど皆同じようで【ゴブリンスケルトンの魔石×125】となっている。売れば金になるんだろけど良く知らないしな。これについては父さんと相談しよう。
階段を降りてダンジョンに入った。入って歩いてると骨と遭遇した。
遭遇したのは昨日と同じ角の生えたゴブリン骨だった。骨だからさ、骨でいいよね。
「3体か」
現在地は一番太い通路だ。横に3人並べてしまう。つまり、骨3体を一度に相手しなきゃならない。ゴブリン骨は俺に気がついててカシャカシャ骨を鳴らして近づいてくる。通路をふさぐように横一列で迫ってくるけど歩いてるから遅い。ならば先手必勝。
竹ぼうきをフェンシングの持ち方で前に突き出す。狙いは真ん中の骨だ。なるべく遠くから触れて収納してしまえば安全だろう。
「うらー」
右足を踏み出して姿勢を低くする。身体を沈み込ませて右腕をいっぱいに伸ばせば3メートル先の骨にあたる。収納と念じれな骨が消える。その姿勢のまま竹ぼうきを手首の返しで左右に振る。触れてしまえばこっちのものだ。左右の骨ゴブリンの腕に当たった瞬間に収納する。
「っしゃ!」
セコイようだけど、勝てばよかろうなのだ。こちとらど素人じゃい。
「昨日125体も減らしたのに、もう3体いるのかよって、まだいるじゃん!」
太い通路から横に入った細い通路に、歩く骨ゴブリンを見つけた。駆け寄ってさくっと収納してしまう。どこから来るんだコイツら。もしかして墓石の下からとか?
「わからないことしかないけど、コツコツ減らしていくしかないか」
5分くらいダンジョンにいて骨ゴブリンがを12体やっつけた。というか収納した。多いな。
「毎日15体のお掃除か?」
毎日コツコツお掃除が必須だな。階段を上がったところですべて経験値と魔石にする。レベルは上がらなかったけど魔石は増えた。本堂に戻ろう。
「昨日の今日で15体か。多いのかの判断がつかないな。数日様子を見るしかないか」
本堂脇のスペースでお茶をする。父さんは送迎バスで園児を迎えに行ってる。幼稚園は保育士さんらがいるから俺はこっちを守る役目だ。
「休憩もしたし、先を覗いてくるか」
竹ぼうきを手に、ダンジョンに向かった。1階に骨の姿は無し。今日の分は倒したのかもしれない。油断は禁物だ。骨から攻撃されてないから無傷だけど、不意打ちされたらどうなるかわからない。
慎重に進んで下への階段の前にたつ。むわっと生暖かい風が吹きあがってくる。同時に骨がこすれる音も聞こえてきた。
「そりゃー下にもいるよなぁ」
作務衣の襟を正し、うしっと頬を叩いて気合を入れる。
「行くぞ2階。2階、でいいんだよな?」
ダンジョンだし、いいよね。知らんけど。