8.首実検と佐倉無双①
それから数日後、俺はふたりに連れられ船橋にいた。駅近くのコインパーキングに車を止め、船橋ギルドの入り口に立った。ここに来るのはハンター講習以来だ。ふたりに先導され、自動ドアを潜る。
以前は勝浦さんと小湊さんがいた受付には知らない女性がふたりいた。ふたりとも化粧がばっちりで見た目は綺麗だ。傍には20代の男もいて、談笑してる。受付の女性は勝浦さんの顔を見るなり、ふふんと鼻を鳴らした。
「あら勝浦さん、どっかに飛ばされたって聞いてたけど、出戻り?」
「業務お疲れ様でーす。今日は大多喜副ギルド長に呼ばれてきたんですよー」
「大多喜さんが? ふふ、あなたたちの解雇通告かもね」
おっと、いきなり喧嘩腰だ。なんだろう、バチバチと稲妻が見えるぜ。
「ご心配痛みりますー。次回は寿退社の挨拶に来ることになりそうですわー」
勝浦さんが満面の笑みだ。受付嬢が俺を見てチッとか舌打ちした。おいおい、教育がなってないぞ。
「なんだこのモブみたいな男は」
「え、あぁ、モブ1号ですよろしく」
「はぁ? 答えてんじゃねーよ雑魚が」
おおっと、何だこのガラの悪いヤカラは。ここにいるってことはこいつもハンターなんだろうけど、船橋ってこんなにガラが悪いの?
「瀬奈先輩、大多喜さんが待ってる」
「そうだったわ。失礼しまーす」
ふたりが奥へ行くのでついていく。
「いやー、わたしたちが抜けた後に町田さんと川越さんのお局ペアじゃダメだわー」
「レベル10にもなれてない青二才が守君をバカにするなんて1億光年はやい」
「おまけに女を見る目がないしねー。あの人たち若そうに見えて30超えよ?」
「クソ雑魚」
かなりお怒りな勝浦さんと小湊先生だ。あと先生、光年は距離です。
地下1階にあるギルドの待合所、講習の終わりに入ったダンジョンの入り口がある空間に来た。ゲートが4つもあるもんな。ここの階段は広い。
「呼びつけて悪かったね」
そのゲート脇には、サンドイッチを手にした大多喜さんがいた。隣には人相の悪すぎるおっさんがいる。紫のスーツとかセンスを疑う。あと、あれは何人か殺してる顔だ。
「お久しぶりです大多喜ママ、じゃないや副ギルド長」
「お久しぶりです」
「えっと、坂場守です」
「いつもレアものをありがとうね。かなり助かってるんだよ」
「い、いえ、こちらも助かってますので」
俺がぺこぺこしていると強面のおっさんが舌打ちをした。何だよ、船橋にはヤカラしかいないのかよ! 怖いんだよ!
「大多喜、さっさと済ませたいんだがな」
ヤカラは明らかに不機嫌で、それを隠そうともしない。拳銃をもってそうなデカイい手で頭をガリガリかいてる。
「とりあえず、ダンジョンで話そうかね。ギルドの中は盗聴器があるかもしれないんだよ」
おいおい、物騒なこと言わないで欲しいよ。どうなってるんだよ船橋は!
「最近急にあるところからのレアなドロップ品が増えてね。そのせいでウチに怪しいやつらが出入りし始めてるのさ」
あ、俺のせいだ。サーセン。わかっておりますのでこちらを凝視しないでください大多喜さん。
ゲートからダンジョンに入り階段を降りる。そういやヤカラの名前すら知らないな。まあいいや。
階段を降り切ればそこは草原だ。ふわーと爽やかな風が通り抜ける、どこかの高原にいるみたいだ。
「さて、あっちの方に行こうかね」
大多喜さんが歩き出したので皆ついていく。
「勝浦さん、あっちになんかあるんですか?」
「船橋ダンジョンの1階は、魔物が出ない地帯があって、そこはハンターが来ないのねー」
「そこにギルドの備品庫を置いてる」
勝浦さんのみならず小湊先生からもお答えが来た。先生がちょっと頬を膨らませてるからご立腹っぽい。先生にも質問すればよかったかな。
「先生、盗難とかはないんですか?」
「長テーブルとか折りたたみ椅子とかカラーコーンとか、かさばる物しか置いていないから」
「なるほど、盗む価値がないってやつですか」
「そのとおり」
先生の歩く足がちょっと軽くなったのでご機嫌は戻ったようだ。先生の扱いもわかってきたぞ。
なんてやり取りをしていると、100人乗っても壊れなさそうな物置が見えた。あれが備品庫だろう。
「あそこに行って話そうかね」
大多喜さんはいつの間にかアメリカンドッグを食べていた。どこに隠してたんだか。まさかスキルか?
「さて、ここなら大丈夫さ。職員が探し物してるって見えるだろ」
大多喜さんが物置の戸をガラッと開けた。中は整理整頓されてて、壁には在庫表も貼ってあった。マメな人がいるんだな。
「こみなっちゃんが管理してたからねー」
「納得です」
「はいはい、本題に移ろうかね。で、『羅刹』が出たって聞いたけど?」
大多喜さんが俺を見てくる。勝浦さんがなんも言ってこないってことは、大丈夫なんだろう。『羅刹』を取り出す。
「これです」
「よこせ」
殺し屋に即取られた。もうアイツは殺し屋でいいでしょ。
殺し屋は意匠とかには目もくれず、柄の末端、鵐目ってところを調べてる。指で挟んでグイっと捻ったらぽろっと部品が外れた。外れた個所にライトを当てて中を見てる。みな、固唾をのんで見守ってるなか、殺し屋が覗くのを止め、俯いた。
「……チッ…………本物だ。俺が打った『羅刹』だ……」
「本物なのかい?」
沈黙の中、大多喜さんが問う。
「この部分は茎尻つーんだがな、ここに落書きをしたんだよ。あいつの嫌いだった毛虫をな……」
殺し屋は俯いたまま答えた。
ってことは、こいつがこの刀を作った人?
「おいお前! こいつはどこにあった!」
殺し屋が顔を上げて俺の胸ぐらをつかんだ。なんだか泣きそうな顔をしてる。
「長篠零士って名前の武者幽鬼の武器でした」
「なんだとてめぇ!」
「やめな市川!」
大多喜さんが俺と殺し屋の間に割って入った。予想以上の力で押しのけられ、俺は解放された。すぐさま小湊先生が横に来てやつを威嚇し始めた。猫みたいで可愛い。
「嘘は言ってません。武者幽鬼と足軽亡者40体ほどと戦って勝ちましたから」
ボロボロだったけどな。
「はぁ? お前みたいな青瓢箪が武者幽鬼を倒せるわけねえだろが!」
「それについてはわたし勝浦と小湊が現場にいましたので証明できます」
「映像もある」
小湊先生がカメラを取り出した。どうやらあの戦いの最中でも撮っていたらしい。すごいなぁ。
「その映像はアタシも見たさ。細かいことは言わないけど、よく勝てたねぇ」
「守君がいたので」
「で、報告書にはその武者幽鬼を確保してあるってあったけど?」
大多喜さんが俺を見る。
「俺のスキルで確保してありますが、出してまた暴れると厄介です」
「ハッ! 厄介とは、大きく出るじゃねえか」
「お供の足軽亡者もいないし、【闘刃】スキルは持ってないはずですので」
あいつだけなら何とでもなるはず。【駆け込み寺】の安全地帯で試してもいい。【説法】で眠らせることもできるし。
あ、小湊先生に怒られた後、骨に【説法】が有効か試したらいけてしまった。ははは、またチートが増えたぜ。




