6 武者幽鬼⑤
「な、なにあれ……」
「キッショ」
「き、気味悪い」
3JKも降りてきてしまった。当然勝浦さんもだ。
「やばそうなんでみんなは上に逃げてください。俺が何とかします」
「だめ、守君も逃げる」
「それは無理です。ここでアイツらを倒さないと」
俺が視線を外した一瞬の隙に、足軽亡者4体が槍を構えて走ってきた。通路奥にいたのに10メートル先にまで接近してきた。
「くそ、はえぇ!」
あまりの反応にこっちは立ち尽くしてる。
躊躇してられない。投げ網を取り出しつつ真正面にぶん投げる。
「大漁じゃー!」
バサッと広がった網が足軽亡者4体に被さると同時に収納。
【収納:足軽亡者×4】
【収納:無念の槍×4】
小湊先生の言った通り足軽亡者だった。あと、呪われそうな武器はいらん!
残りの足軽亡者はこっちには近寄ってこず、奥で左右分にかれて通路を挟むように広がった陣形を取った。鶴翼の陣っぽい。
足軽亡者が退いたせいで、奥にいたひと際大きな体格の武者が見えるようになった。鎧兜を着て、兜の下には仮面をつけてる。キャンプで使うような折りたたみ椅子に座って、まさに戦国武将って佇まいだ。
座っていてなお足軽亡者と頭の位置が一緒だ。立ったら3メートルを超えるんじゃないか?
「あれが指揮官っぽいな」
こっちには気が付いてるけどむやみに突っ込んでこない。理性的だ。むしろ近づくのを待ってる感すらある。
今までの骨とは根本的に違う。腕を組んでこちらを睨んでいる。
「いままでは骨ばっかりだったのに、いきなり変わったな」
墓場にアイツらしかいない。骨はアイツらに駆逐されたのかもしれないけど。
足軽軍団までの距離は、たぶん50メートルくらい。近接なら金剛杖で触れれば収納しちゃえるけど。
「近づいたら槍を投げられそうだ」
それくらいはやってきそうな雰囲気だ。弓を持っていないだけ親切まである。
俺の遠距離攻撃の手段はファイヤーボールしかない。【説法】で強制的に眠らせることも可能だろうけど、実はあれ効果範囲が俺を中心とした半径10メートルなんだ。
「やっぱり、武者幽鬼もいる……!」
「先生、武将みたいなやつがそうなんですか?」
「5年前、関ヶ原ダンジョンを攻略していた合計ランク1000のベテランハンターのパーティが壊滅したときの魔物。ランク100」
合計ランク1000ってなにそれ。俺が70人くらいいるパーティが壊滅!?
「その時は足軽亡者が30体ほどいたと記録されてる。武者幽鬼と合わせて合計ランク850」
「その壊滅したパーティってのはランク1000だったんですよね? それでも壊滅したんですか?」
「あの武者幽鬼が率いる足軽亡者は能力が上がる」
「魔物の中にはあーゆーリーダータイプがいて、指揮することでバフをかけてるのよー」
「それってすげーやべー奴じゃないですか!」
うわー、めっちゃ厄介! そんなのが40体もいるじゃん!
あんなのが地上に出たらここら一帯は終わっちゃう。ここで止めるしかない。
でも、ここには3JKもいるし、戦闘に不向きな先生もいる。佐倉ちゃんの【祈り】はチートだけど相手がやばすぎる。
「イケッ!!」
柏ちゃんがクロスボウを構え、矢を射った。短い矢はまっすぐ武者幽鬼に向かっていく。
だが武者幽鬼は座ったまま刀を抜き、矢を叩き落した。返す刀で一閃。白い何かを発射した。
矢を超える速度でこっちに迫る。
「闘刃!?」
「ホェ?」
勝浦さんが叫んで柏ちゃんに覆いかぶさる。撃った柏ちゃんが狙われたけどクロスボウを構えたまま固まってた。
「させるかよ!」
ビニール傘を開いて柏ちゃんの前にでる。うぉぉぉぉ白いのが迫ってきて、コェェェェ!!
「【収納】!」
【収納:闘刃×1】
ビニール傘が少し破れたけど、無事に収納した。相変わらずこのスキルはスゲーな。
「勝浦さんも柏ちゃんも無事?」
「だ、大丈夫ー!」
「コワ、コワー!!」
よし、収納しきったぞ。
「で、闘刃ってなんです?」
「剣術系の上位スキルで、飛ぶ剣戟ね」
「あー、漫画とかだと定番のあれか。実際にやられるとスゲー怖い!」
自分めがけて迫ってくるのは何でも怖いけどさ!
でも、あいつは変わらず座ったままだ。思いっきり馬鹿にされてる。
「油断大敵!」
収納してあったファイヤーボールを10発まとめて放出する。全弾武者幽鬼にだ。
さすがにやばいと思ったのか、武者幽鬼が立ちあがって刀を振り上げた。
あ、これはなんかやばそう。
「みんな伏せて!」
武者幽鬼が刀を振り下ろすとあの白い塊の特大なやつが飛び、ファイヤーボールを切り裂いた。
「なななななな」
「ワケワカンネ!」
「ま、魔法って斬れるの!?」
「うっそでしょ!」
「ってかファイヤーボールが大量!?」
ボボボボボとファイヤーボールは届かないまま爆発したが、武者幽鬼が放った闘刃はそのまま俺に向かってくる。
「収納できるとわかったら手段はあるんだよ!」
投げ網をなるべく広がるように投擲。でかい闘刃を収納した。
【収納:大闘刃×1】
爆発の余波か、足軽亡者の数体が膝をついてる。
「斬ったってことは、ファイヤーボールは効くわけだ」
こっちにこないつもりならば撃ちまくればいい。
「守君。ファイヤーボールの魔法書を出して!」
小湊先生が作務衣の袖をつかんできた。疑問を挟まずに放出する。人数分あればいいべ。考えてる時間が隙になる。カースも落としとこ。
そんな動きを見ていたのか、足軽亡者が一斉に槍を投げてきた。
「50メートルも飛ぶわけ……って届くじゃん!」
40本ほどの槍の穂先が迫ってくる。
ばらばらに飛んできてて全部の収納は無理だ
「くっそ! 俺の後ろに隠れて!」
投げ網を最大限広げて投げる。直径が7メートルあれば、みんなのカバーくらいはできる!
ドズドスドスドスドスと地面に槍が刺さるけど、それは大きく外れた槍だけだ。
【収納:無念の槍×27】
やったね大量だ!ってうれしくねぇ!
「返却するぞ!」
収納した無念の槍×31本を打ち返してやる。重力も加わっていい感じの速度になってた槍を、同じ軌道で返す。
槍はドスドスと足軽亡者に刺さっていく。今ので10体くらい倒れて動かなくなった。
ザマーだぜ!