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1.ダンジョン発生③

「守、それが魔物の名前か?」

「そ、そうみたいってまだ来る! エイヤー!」


 ほうきを叩きつけて収納する。骨がまた消えて頭には『ゴブリンスケルトン×2』とでた。


「よし、これならいける!」

「守、油断するな!」

「大丈夫、ここから動かないから」


 階段が狭いおかげで一体ずつしか上がってこれない。ほうきがとどく距離になったらもぐら叩きだ! うりゃー!


「守、疲れないか?」


 骨を10体収納したタイミングで父さんが聞いてきた。最初は全力で叩いてたけど当てればいいだけに気がついてすっぽ抜けない程度の力しか入れてないから全然疲れない。

 スキルを使いまくってるけど、ありがちなクールタイムとかもないっポイ。使いたい放題だ。


「疲れてないけどのどが渇いたかな」


 緊張してたから気が付かなかったけどだいぶ冷静になってきたらのどがカラカラになってた。死ぬかもしれない、なんて事態になったらアドレナリンがダバダバになるもんね。


「そうか、ちょっと水を持ってくる」


 階段を一瞥した父さんが走って本堂に向かった。

 骨は階段に並んでるけど、一体ずつだから対処も楽だ。おっと、気を抜いた瞬間が危ないな。気を引き締めないと。

 父さんが戻ってきて、水分補給品しながら骨を叩き続けて30分くらいで骨の姿が途切れた。収納した骨は全てゴブリンスケルトンで125体にもなった。いきなり収納しちゃったから強さがわからないけど、こいつらが地上に出てきたら大騒ぎになるところだった。


「途切れたみたいだけど、どうしよう。ここを離れてるとき魔物が出てきたら……」

「とはいえ、ずっとここで見張ってるわけにもいかないだろ」

「「うーん」」


 俺と父さんは唸ってしまった。


「ダンジョンから魔物があふれた時って、どうしてるんだろ」

「さっき調べたんだが、魔物が出てきた後はダンジョン内が静かになるらしいんだ」

「静かになるって? 魔物の数が減ったってこと?」


 ダンジョンの魔物が出たからその分減ったってことなのかな。


「ほうきで触ればスキルで何とかできるなら、ダンジョンに入って確認した方がいいだろうなぁ」


 父さんが顎に手を当ててそんなことを言う。やるのは俺なんだよね?


「でも125体もいなくなったら大丈夫なんじゃない?」

「それを確認するためだな。もし残っていて、後で出てきてはどうしようもなくなる」


 父さんの言い分もわかる。ここは千葉の九十九里にあって人も少ないけど、それでも近所には数百人がいるわけで。確認を怠ったせいで俺の知っている近所の人が犠牲にあるのは、やりきれない。


「わかった。1階の様子を見てくるよ」


 自分を納得させる理由が見つかった。ダンジョンの発生が明るみに出てしまえば今の生活はだめになるだろうけど、だからって近所の人に迷惑をかけていいわけじゃない。ダンジョンについては公的機関が何とかしてくれるさ。なんだっけ、ダンジョン庁だったっけ。まぁ後で考えよう。


「いってくるよ」


 竹ぼうきを片手に階段に向かう。

 階段に足を下すと生暖かい空気に包まれる。ダンジョンと地上の境目は明確なんだな。階段を降り切れば目の前には墓地が広がる。付近に動くものはない。ふーっと息を吐く。心臓がバクバクしてる。


「いないっぽいな。油断はできないけど」


 竹ぼうきを構えながら墓地を見渡すと、遠くに土塀が見えた。階段から100メートルくらいで、土塀が墓地の四方を囲ってある。通れるような隙間はなさそうだ。


「そんなに大きくないのかな」


 骨がいないことが分かったので緊張がほぐれてきた。おかげで冷静に見れるようになった。

 階段から降りた場所は墓地中心を走る大き目な通路だ。左右には土塀が広がり、囲まれた空間の端に階段があることが分かった。

 太い通路からは細い通路が枝分かれしていて、その通路のわきには墓石が並ぶ。見慣れた景色ではあるけど不気味さが違和感だ。


「基本的に墓地って弔う神聖な場所ではあるから不気味ってのは理解できないな。なんか悪意を感じる」


 寺の息子としては許せない。むかつきが緊張を上回ったのか、ちょっと調べてやろうという気が湧き上がってくる。骨ならスキルで対応可能だ。


「ちょっと奥を調べてくる!」


 地上の父さんに声をかけて太い通路を歩く。墓石には文字もなく、卒塔婆はあるけど戒名もない。形だけ真似てるのがまるわかりで、すごく馬鹿にされている気分だ。

 墓は弔うために、故人をしのぶきっかけとして、そこある。誘い込む罠にするのは許さん。


「いま骨がいたらぶん殴ってやるのに!」


 ちょっと暴力的な発言だけど、いまの俺はそんな気持ちだった。


「怒りはさておき、骨の姿はない感じだな。今のうちに調べちゃおう」

 

 墓地をくまなく歩く。地面はどこも石畳で生暖かい空気とは違ってひんやりした感触が靴に伝わってくる。空を見上げれば靄がかったその奥に血の色の太陽が見えた。

 むかつく。

 くまなく探したおかげか、墓地の隅っこに下への階段を見つけた。まだ先があるらしい。


「この先に行くのはあとだな。父さんに報告が先だし、どうするかも決めないと」


 落ち着いて考えると不安が勝ってくる。これからの生活はどうなっちゃうんだろう。大学なんていく余裕はないよな。

 その日は大学を休んだ。

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