51.佐渡島ダンジョン踏破の影響③
「次に【化身】のスキル書です。自分の劣化コピーを1体作ることができるスキルで、大きさ姿かたちも自由だそうです。4時間継続で、クールタイムが24時間必要です」
「……アリバイに使えそうだね」
「浮気ですか?」
「そんなことには使いません。というか浮気なんてしません」
するつもりもないし。もししたら閻魔様に地獄めぐり108周をプレゼントされちゃうってば。
なお、地獄はたくさんありすぎてどれだけあるのか不明だ。
「【無限なる体力】のスキル書ですか。スキルを使っている間は疲弊しないそうです。1日1回5時間継続だそうです。これがあれば夜明けまで3人の相手をしていただけますね!」
「そこは寝かせてくださいお願いします」
枯れ枝になっちゃうってば。
「最後に【佐渡島ダンジョンマスター】のスキル書ですが、これは私がいただきたいです」
京香さんが菩薩の笑みでそんなことを言う。まぁ、日比谷の時にそう言ってたしね。
「じゃあ京香さんが使う方向で」
「ではさっそく」
「考え直す時間とかなし!?」
京香さんがスキル書を使ってしまった。目をつむって静かにしてる。瀬奈さんは苦しんでた記憶があるけど、違うのかな。
でも抱きしめておこう。
1分もすると、顔が穏やかになった。無事にダンジョンマスターになったようだ。
「ふぅ……インストール完了です」
「パソコンじゃないんだし」
似たようなものとはいえ、ね?
「これで私も【嫁2.0】になってふたりに追いつきました。目指せ【嫁3.0】です」
むふーと鼻息荒いメイドさんだ。何を目指しているのやら。
「守君に抱きしめられているという最高のシチュエーションですが、佐渡島ダンジョンを調べたく」
「調べた方がいいよね。特にダンジョンボスのスライムキングがよくわかってないし」
紫!って印象しか残ってないのよね。
北国分さんが幸せそうな顔でピクピクしてるので、毛布だけ掛けておく。危ないスキル書は回収しとこ。
さっそく試しと墓地ダンジョンの1階に出現させる。ここ最近は来るハンターも少なくて平和だ。骨はいるけど。
「階段も増えましたね」
備後、神西、日比谷、そして佐渡島。そのうち階段で地面が埋まっちゃいそうだ。
「さっそく入りましょう」
「俺が先に入るからね?」
「女は3歩下がってというやつですね。私は妻なので1ミリ下がって腕にしがみつきます」
「ちっとも下がってないからね?」
言うことを聞いてくれない。まぁ俺が守れればいいんだ。
ふたり並んで階段を降りる。
「ドローン越しで見てましたが、湿度も高くて普通に洞窟ですね。ナメクジがいっぱいいそうです」
「想像しちゃうからやめて?」
佐渡島ダンジョンは松明がランダムに点在する、茶色のぬめった壁の洞窟だ。
「さっそく呼んでみましょう。スラキン、おいでなさい」
ダンジョンボスはスラキンと命名されたらしい。
洞窟の先が紫に染まった。
「紫しか見えませんね」
「予想通りというかなんというか」
呼んでみたら洞窟が紫で埋まってしまった。半分透明だからアメジストみたいできれいといえばきれいだけどさ。
「大きさは、平米で4万7千㎡で容量換算で130万立米と言っています。東京ドームとほぼ同じ大きさなようです」
「でかすぎない? ってかSI単位?」
国際単位系を知ってる魔物イズ何? ヤーポンで言われても困るけどさ。
というか、東京ドームと同等って……そりゃ収納しても減らないわけだよ。ドロップの欠片は体の1割でしかないんだね。
というか、京香さんはスラキンと会話でできるの?
「スラキンちゃんは万が一の時は寺の敷地全てを包み込んでカバーできる大きさですね。これで防御はばっちりです!」
メイドさんが自慢げに俺を見てくる。褒めてーって顔だなこれ。
よーし、甘やかすぞ!
「瀬奈先輩のツンドラちゃんは攻撃が得意ですし、ふたり合わせれば鉄壁ですね」
メイドさんはぺかーって笑顔だ。かわいいです。
打撃のツンドラちゃんと防御のスラキンちゃん。うちは怪獣ランドかな?
京香がダンジョンマスターになったので佐渡島ダンジョンの魔物の強度チェックが始まる。
リーダーはもちろん零士で、評価軸としてAチーム、ポニーの9人が選ばれた。
美奈子だとどれも一撃なので参考にならないので仕方がないのだ。当の美奈子は不機嫌爆発で零士に絡んで詫びの何かをゲットしたようだった。
各種スライムの情報は京香がまとめたので、それをもってダンジョンへ向かう。
上半身の鎧がなくなった零士は黒い半袖のパーカーで、Aチームは佐渡で着ていた服で、ポニーはやはりお揃いの薄ピンクのジョギングウェアだ。スパッツだがスカートは外せない乙女心である。
「スライムかー」
「配信で見てたけどさー」
実物を知らないポニーの4人はやや不安顔だ。レベルや実力的には何ら問題はないが、うぬぼれないのが彼女らの良いところだ。
「うわ、マジで洞窟じゃん」
「蝙蝠とかいそう……」
洞窟という閉ざされた空間に入ると不安が沸き起こる。閉所が苦手なハンターには向かない。
「お、スライムだ。青いからブルースライムってやつだ」
渋谷が松明の火に浮かび上がる粘着質の何かを見つけた。2体見える。
「足立と太田。やってみろ」
零士の指示に足立と太田が武器を構える。
足立は変わらず直剣だが、太田は拳銃を手にしていた。
「うりゃぁ!」
「えい!」
足立の剣はしっかり振られスライムを両断したが、太田が撃った金属の球はスライムの体に弾かれてダンジョンの壁にめり込んだ。スライムの耐性を突破できなかったようだ。
「一番弱いブルーでもしっかりと力を入れないと倒しきれないね」
「拳銃だとだめだぁー」
太田がわかりやすくがっかりしている。クロスボウで射ち直したところ倒せたので、魔物に対する向き不向きの問題だろう。
「太田。それ、このあいだ臼さんとデートしたときに買ったやつ?」
「でででででーとじゃないもん! モデルガンの買い物だもん!」
足立に突っ込まれた太田はぶんぶんと頭を振って否定するも顔が真っ赤だ。
「ふたりっきりで車で出かけて夜遅く帰ってきてデートじゃないとかありえないじゃん」
「し、渋谷も、最近、出かけるよね?」
太田は苦し紛れに渋谷にキラーパスした。パスされた渋谷がぎょっとする。
「わ、わたしに振るなってば。最近ね。食べ歩きをね。ちょっとね」
「黄金騎士団の事務の男の子と出かけてるんでしょ?」
「なななんでそれを! ってちちちちがうからね!」
足立に暴露されどもる渋谷。わかりやすい。
「あーあー、私だけ彼氏なしかー」
足立が肩を落とす。品川はふふんと余裕の笑みだ。昨晩もしっかり千葉を慰めたのだ。盤石である。
姦しいポニーを横目に、Aチームの野田、市原、館山が顔を近づけて密談する。
「俺らももっと遠征すべきか?」
「大阪とかどうだ?」
「博多弁の女の子とか萌えね?」
「「いいなそれ」」
彼女がいる千葉と一宮は黙って聞いている。下手に突っ込むと燃えそうなので。
「お前ら。まじめにやらんとケガするぞ?」
さすがに苦言を申す零士であった。




