50.入学式と佐渡島スタンピード⑮
新潟駅に移動して新幹線に乗る。新幹線は一番高い席にして爆睡。東京駅からは大型のタクシーでそこでも寝て、寺についたのは夜の9時を回っていた。食堂では涼子さんとポニーの4人がおにぎりを作ってた。
「おかえりなさい! まだスタンピードが終わってなくって、みんなダンジョンにいます」
「わかった。ちょっとダンジョンに行ってくる。あ、Aチームは休んでて」
あのダンジョンボスだと、もしかしたら【祈り】スキルでも厳しいかもしれない。
墓地を走っていけばダンジョンの階段から騒がしい声が聞こえる。
「減ってるのに減らないんだけど!」
「いつまで続くんだ!」
「もう矢はネーゾ」
智、京子ちゃん、葉子ちゃんの声が聞こえてきた。苦戦中だ。
ゲートを通って階段を駆け下りる。
「戻ったよ!」
階段付近には、瀬奈さん、智、美奈子ちゃん、葉子ちゃん、京子ちゃんに零士くんがいた。ダンジョンは、半分くらい白で占拠されてる。やっぱりダンジョンボスを減らしきれてない。
ずっと戦ってたのか、みんな顔が疲れてる。
「守! あれ、なんなの? 成仏するんだけど減らないのよ!」
「なんかね、無限に増えるぽいんだ」
しゃべってる間にも白の領域が増えていく。こうなりゃ突撃だ。金剛杖を取り出して走る。
「ちょっと守!」
「守くん!?」
「終わらせたらゆっくり話しをします!」
突撃じゃー!
金剛杖を突きさしては収納。空いた空間に滑り込んでまたぶっさして収納。
ひたすらこれを繰り返す。
2階への階段まで来た。階段の先も白だ。どんだけだよ。中の骨たちはみんな押しつぶされてるでしょこれ。もしくは吸収されちゃうとか。
「やるしかないのだー」
雄たけびを上げて突撃する。
「暴走しすぎ! 【涅槃】!」
智が追いかけてきて、2階の白をきれいに無くしてくれた。
「助かる!」
共同作業をすること10分。5階まで行ってようやく全部を収納し終えた。
マミーも押しつぶされたのか出てこなかったよ……
ある意味、最強のダンジョンボスかもしれない。
「これ、守がいなかったらどうしようもなかったかも」
「佐渡島ダンジョンは洞窟でスペースも限られてたから苦労したけど、これが船橋とか日比谷で出てきたら楽勝だったかもしれない。全体が見れなくて、一気に倒すことができないんだよね」
「そうなのよ。成仏させても、それは一部っぽくてさ」
ふたりで地上に戻りつつ、そんなことを話してた。
ダンジョンボスのアンデッドが倒せたので、これで墓地ダンジョンのスタンピードも終わりだ。
休憩しにみなで戻って食堂に行けば、Aチームが暗い顔をして座っててポニーに慰められてる。
「頑張ってたじゃん」
「そ、そうだよ」
「ヘリから降りたりとか、普通のハンターじゃできないって」
「武志はカッコよかったぞ!」
元気づけようとしてるけど、あまり効果がないようだ。
「無事に帰ってきたな」
零士くんが彼らの前に立つ。Aチームの5人がゆっくり顔を上げた。
「厳しい状況の中、よくやった」
零士くんが5人の顔を見渡す。が、彼らの顔はすぐれない。
「助けることはできたけど、亡くなった人がいて……」
「俺らがもっとうまくやれればもしかしたら……」
野田君と市原君がこぼす。
「お前らは与えられたことを十二分にこなした。だが、それ以上はうぬぼれだ。仮に俺が行ったとしても、彼らの死を覆すことはできないだろう。そもそも寺に話が来た時点で亡くなっていたはずだ。スタンピードは必ず後手に回る。先回りはできない。だからお前たちの対応は、完璧に近いものだ」
零士くんが静かに語った。
「で、でも、俺、悔しくて……」
「何か、できたんじゃなかったかって!」
「もっと俺が強ければって!」
「悔しいっす」
「助けたかった……」
5人の涙がテーブルに落ちていく。みな黙って彼らの慟哭を聞いていた。
それは、俺も思ったことだ。
もっと早く行けてれば。
早朝ではなく夜中に佐渡島に降りれていれば。
たらればだけど、結果は違ったかもしれない。
でも、それはやっぱりかなわぬ思いでしかない。
努力が報われるのは可能な事象であって、死をなかったことにはできない。
世は常に変化して、戻ることはない。
無情だけど、これは真理だ。
「お前らは頑張ったぞ」
零士くんが大人形態になった。5人の頭を優しく撫でていく。
「できないことがあるってことを知るのは大事なことだが、できないことに悔しさを感じることも人として大事だ。お前らはいい男になるぞ」
「師……」
「……ししょ……」
零士さんを見上げた5人が涙をこぼしながら固まった。今の零士さんは仮面をつけてない、長篠零士だ。
「感じた悔しさは忘れなくていい。それを乗り越えていけ……今日はゆっくり休めよ?」
零士さんが零士くんに戻った。彼らに本当に姿を見せたのは、ご褒美と詫びのつもりなんだろうか。
5人を佐渡に送ったのは零士くんだし。責任は感じてるんだろう。
「俺は念のためダンジョンを見回ってくる。守も疲れた顔してるぞ。4人でゆっくり休め」
零士くんは音もなく食堂を出ていく。小さな背中が母屋に消えていった。
「え、あ、し、しょう?」
「……ニ・ニキ?」
「な……は!?」
「え? は!? な?」
「はぁ? なん? えぇぇぇ!?」
悔しい感情で揺られているときに驚愕の事実をぶち込まれ、Aチームの5人は情緒が壊れてしまったようだ。それはポニーの4人も一緒で、大きな口を開いたまま微動だにしない。
「はいはい、良い子は寝る時間よー」
「風呂に入ってさっぱりしましょう」
瀬奈さんと京香さんがあえて声を張り上げる。我に返りつつもどうしていいかわからない9人を、どうにかこうにか風呂にぶちこんで寝かせたのだった。




