47.多賀城親子が来た②
「涼子さんは運転免許を持ってますか? ここらは田舎で何をするにも車がないと不便なので。あ、車はギルドで数台持っているので自由に使ってもらって構わないです」
ギルド所有の車はハイエース、ミニバン2台、軽3台で6台ある。軽トラは寺のだし京香さんの軽は別だ。
「オレはとったぜ!」
京子ちゃんがシュタッと手を上げる。みんなと一緒に取ったもんね。
「京子、そうなのかい? お母さんは持ってないけど……」
涼子さんはちょっと気まずいという顔になった。
母子家庭で取りに行く金銭的時間的余裕もなかったはずだ。情けないと思ってしまったかもしれない。
「では教習所にも通いましょうか。教習所が寺から自転車で通える距離にありますので」
京香さんが教習所のパンフレットも出す。準備万端過ぎてコワイ。
「ありがたいけど、その、仕事の世話もしてもらった上に免許まで……」
「業務でハンターたちを駅まで迎えに行くことや近隣のギルドで打ち合わせなどありますので、運転免許は業務で必須です。取得はこちらの都合とお考え下さい」
「そ、そうかい。なんだか申し訳ないねぇ」
京香さんが押し切った。田舎なのは事実だし。
ギルドで必要と言い切れば少しは気も楽になるでしょ。
「部屋は、とりあえず親子一緒でよろしいでしょうか? ちょうど寮の私たちが使っていた寮母用の部屋が空きましたので。京子もそれでよいですか?」
「かーちゃんと一緒でいいぜ!」
京子ちゃんがにっこり笑顔で右手を突き上げる。京子ちゃんはよくこれをやるけど、世紀末覇者の遺伝子でも持ってるんだろうか。
ということで強引ながら話はまとまった。
次いで寺、幼稚園、母屋にあるギルド、寮、トレーラーハウス、ランドリーなんかを案内する。
一応分家にいく廊下は教えるけど、赤ちゃんが増えるのでこっちは基本的に立ち入り禁止だと伝えておく。緊急時は別ね。
幼稚園と寺は父さんに案内を任せた。
「幼稚園は静かですねぇ。そっか、今の時期は春休みでやってないんですね」
「4月に入ると入園式もあるので賑やかになりますぞ」
「お寺さんだもの、仏さんにお墓もあるんですね」
「ご近所にも檀家さんがおりまして、漬物などをいただくこともありますな」
「あら、親切なご近所さんでいいですねぇ」
涼子さんは本尊に手を合わせたり、幼稚園を懐かしそうな目で見てたり、人柄は良さそうな感じだ。生活するのに必死で京子ちゃんを放置することになっていたのかも。ここで落ち着いた生活になれば、京子ちゃんにとってもいいことだ。
「部屋が3つもあるねぇ」
「その、俺には奥さんが3人いるので」
「寮の各部屋に風呂があるのに浴場まであるのかい?」
「夏なんかはシャワーで済ませたいときもあるでしょうし」
「コインランドリーが併設されてるのは助かるねぇ。雨の日も洗濯物の心配が要らないよ」
「俺も家事やってるんでよくわかります。洗濯物がたまるとげんなりしますよね」
「トレーラーハウスなんて初めて見たってうわぁぁぁ」
部屋から出てきた背の高いクマさんを見てかなりびっくりしてた。そういや浦河姉弟がいたな。うちにいても大丈夫なのかな?
「臼さんにラビットフットの検証をお願いしていますので、5月の連休までは滞在していただく予定です」
「なんか楽しそうだし、引き受けたぞ」
羅さんが臼さんの背に隠れながら答えてくれた。隠れられてないけど。相変わらず人見知りのよう。
で、俺は何も聞いてませんけど?
いいけど。
「臼さん、田舎で暇じゃないですか?」
「休みを決めて車借りて遠出もしてるし、近くのダンジョンにも行ってるから大丈夫だよ」
「それならいいですけど」
羅さんが墓地ダンジョンで暴れてるから助かってるので長期滞在は歓迎だ。
「ギルド職員で【鑑定】スキル持ちの北国分さんと法務担当の葉介さんです。妹の葉子ちゃんもいるので、名前で呼ぶことになってます」
その柏兄妹だけど、葉子ちゃんが卒業したらこっちに移る予定だったものの、引き続き実家で過ごすことになった。葉介さんが「ようちゃんが朝食の用意をしてくれるんですよー」なんてデレた顔で自慢してきたので新婚的な生活を満喫しているに違いない。そのまま幸せになりやがってください。
「京子の母です。仙台からきて右も左もわからないですけど、よろしくお願いしますね」
「このふたりに俺、瀬奈さん、京香さんが寺のギルド職員で、他に日比谷に支所があってそこに4人います」
「結構人がいるんだねぇ」
涼子さんが感心してる。零細でも家族経営ではなく人を雇ってるのはすごいんだとか。その辺わからなくってサーセン。
夕方ちかくに智らが帰ってきた。Aチームとポニーも一緒だ。
「お、多賀城が帰ってきたゾ」
「なんだヨーコ、オレが帰っちゃ悪いか?」
「別に悪くナイゾ」
葉子ちゃんと京子ちゃんの金髪コンビがじゃれてる。身長も同じくらいなので、双子にも見える。
そして『帰ってきた』と言うあたり、歓迎してるんだよ。
「オレのかーちゃんだぜ!」
「母の涼子だよ。よろしくね」
京子ちゃんが自慢げに紹介する。みんな「智美でーす!」「美奈子です」「葉子だゼ」「千葉っす」「館山といいます」「品川っす」「お、太田です……」と各自名乗ってくれる。
うちは智の存在があるから【祈り】スキル持ちに対する扱いが違う。こいつはすごくなるって扱いだ。現にレベルは抜かれてるからね。
「そっくりだ」「若く見えない?」「親子っつーか年の離れた姉妹っぽいな」とひそひそ聞こえる。涼子さんは36歳なので確かに若い。
聞こえたのか、涼子さんがちょっとうれしそうだ。
「柏と同じで多賀城もふたりになるので、今後は名前で呼ぶようにねー」
通達はせねば。
「多賀城、じゃなくってキョーコダ! オメー、頭がプリンだゾ?」
葉子ちゃんが京子ちゃんの頭頂を突っついてる。プリンとは、金髪が伸びて頭頂部だけが地の黒い髪になっているさまがプリンのようだからだ。
「染めるの忘れたんだよ!」
「おーし、アーシが染めてやるゾ」
「オレ、カラー買ってねーぞ」
「アーシのがアル。風呂に行くゾ!」
「あ、ヨーコ。待ちやがれ!」
金髪ふたりがトトトと廊下に消え、すぐに食堂に戻って来て階段を駆け上がっていった。部屋に置いてるのを忘れてたっぽい。
「あったゼ!」
「確認くれーしろよー」
「あったんだからイーダロー」
そしてドタタタと階段を駆け下りて風呂へ走っていた。
「なんだか京子がふたりいる感じだねぇ……」
涼子さんがつぶやいた。確かに。金髪仲間が増えて葉子ちゃんもうれしくてはしゃいでるんだよ。
「さて、夕食の準備しなくちゃ」
支度しないと腹ペコたちがテーブルでぐったりしちゃう。
「私も手伝おうかね。何をすればいいかい?」
涼子さんが手伝ってくれるようだ。じゃあエプロンを渡そう。
「おかずは作るんで、みそ汁をお願いしていいですか? メインは菜の花、コケケケ肉、レンコンにかぼちゃの天ぷらです。サブでキャベツと大根とのサラダにしようかと」
「天ぷらかい。ならみそ汁は豆腐と玉ねぎにしようかね」
「さっぱり系でいいですねぇ。でかい鍋があるんで40人分くらい作ってください」
「40人?!」
「明日朝の分もあるんで」
「なるほど、作り甲斐があるねえ」
涼子さんが腕まくりした。
料理ができるかわからないけどみそ汁ならいけそう。瀬奈さんと京香さんもエプロンつけて天ぷら用の食材の下ごしらえをしてくれるので大助かりだ。
「あたしは風呂前にダンジョンの掃除してくるー」
「わたしも一緒に行って師匠と話をしてきますね」
智と美奈子ちゃんがそのままダンジョンに向かった。
うん、家族って感じがして、うれしい。




