46.卒業式②
おもむろに立ち上がった成田君に、会場はざわつき始めた。なんだろ?
「僕たちは今日この瞬間からひとりのハンターとして生きていきます。今までは高校生ハンターとしてガラスを通してみられていましたがそのガラスは消えます。幸運なことに、僕たちは自由にダンジョンに入り強いハンターに鍛えてもらうことができ、新人にしては強くなりました。同時に想像を超える強さのハンターを目の前にして、厳しい現実も見せつけられました。僕らは誓います」
卒業生全員が立ち上がった。予定にはない行動なのか、先生たちも目を白黒させている。
「裏番長お願いします」
成田君に指名され、智が静かに腕を突き上げた。
「うぬぼれない。増長しない」
「「「「増長しない!!」」」」
「ダンジョンに入ったら生きて帰る」
「「「「生きて帰る!!」」」」
「絶体絶命でも諦めない」
「「「「諦めない!!」」」」
「頑張るぞ!」
「「「「おぅ!!」」」」
卒業生が姿勢を正した。みな背に鉄の棒が入ったかのようにびしっとしててカッコいい。思わず拍手しちゃった。
「そ、卒業生退場です。拍手で送ってください」
蛍の光が流れる中、卒業するヒヨコたちが歩いていく。涙はなく、笑顔も見えた。
卒業生の姿が見えなくなって体育館はざわついた。
「はぁ、大したもんだねぇ。あんたの差し金かい?」
大多喜さんににらまれた。チガイマース。
「俺も知りませんでした。彼らが自分たちで考えたんでしょう」
夏前には元気のなかった智が今じゃ裏番長だもんなー。諦めないって大事だ。
「いい決意表明だな」
父さんが近くに来てた。同感なので首肯した。
「それと守、なかなかの説法だったぞ。仏の教えとハンターの人生観のハイブリットは特許ものだな」
父さんがうむうむと頷く。
「父さんの見様見真似だよ」
照れくさいからそっぽ向いてごまかした。
体育館をでた卒業生一行は教室に戻った。黒板には卒業おめでとうのイラストがチョークで書かれている。卒業生がそれぞれデフォルメされたキャラで描かれていて、佐倉はパンチングマシーンを叩き壊したシーンだった。描いたのは在校生だ。お礼参りせねば。
「は-終わったー」
「これで最後かー」
生徒は思い思いの席に座ったり立ったりしている。残すはホームルームと卒業アルバムをもらうことだ。
「卒業式お疲れー」
段ボールを抱えた担任が入ってきた。普段はジャージだが今日くらいはスーツでびしっと決めている。
「卒アル配るぞー」
担任が取り出すとバケツリレー方式で配布される。
「勝浦の奴じゃん! わたしの水着姿が!」
「ハンター講習の写真もあるのな」
「四街道の巨乳セーラー服がでかでかと貼られてんぞ。カメラマンの趣味だろこれ」
さっそく中身のチェックが始まった。
「個人情報だからネットには流すなよー」
「絶対やめろ!」
「流したら燃やすゾ」
担任の注意に女子が反応する。
「流されたら京香おねーちゃんが出所調べてそれが守か師匠に伝わってそいつが処されるまでは予想できるわね」
佐倉の一言で男子の動きが止まった。
「ありえるな」
「つーかそうなる未来しかねえ」
「師匠はともかく守さんなら『閻魔様の前に引っ立てる』って男女関係なくやりそうだ」
わからせが功を奏したようだ。
「よーし校庭に出てくれ。忘れ物がないようにな!」
担任が教室を出ていく。校庭で自由に写真を撮るために在校生も集まっている。
教室にいるのがクラスメイトだけになったのを確認した佐倉が教壇に立つ。
「はいはいはいはい、ちゅーもーく! これから卒業記念品を配るよ!」
「は?」
「なになに?」
「マジ!?」
「もしかして、あれ?」
事前通告なしなので誰もが驚きを隠せない。
「智、まさか本当に作ったの? マジックバッグ」
「京香おねーちゃんがノリノリで守が許可しちゃって瀬奈おねーちゃんが苦笑いしてた。あたしが知ったときはもう出来上がってたわよ……」
四街道に問われた佐倉がお疲れ気味に答える。寺に常識を求めてはいけなかったのだ。上野商会見習いの銀髪ギャル浦和は全力で視線を逃がした。
お前、知ってたな?
「よし、これ! スマホポーチに見せかけたやつで、ベルトを通す穴もあるよ!」
佐倉が見本を掲げる。革製の黒いスマホポーチで、スマホと小銭入れでパンパンだろうというサイズだ。外ポケットがあり、ハンター証くらいなら入りそうだった。デザインはシンプルで地味だが、あえてだろう。
佐倉はそのスマホポーチから全く同じものをどんどん出していく。
「マジでマジックバッグだ!」
「うわー、どんどん出てくるじゃん」
「ワイバーンの革製で濡れない燃えない破れない上に容量は0.2立米だって。大きいスーツケース2個分のものが入るよー」
佐倉は生徒に向かってポイポイ投げていく。
メーカーにもよるが大型のスーツケースは7泊分の着替えが入って100リットル前後だ。マジックバッグは形がなく容量だけで決まるので重いものほどコスパが良くなる。
「智……これいくらなの?」
四街道が問うので佐倉は黙って2本の指を伸ばした。
「20、なわけないわよね」
佐倉は首肯する。1個当たり200万円だ。27個なので5000万円を超える。
なお、佐倉は坂場家なので10立米の別なマジックバッグをもらっていた。
「京香おねーちゃんが、『【鑑定】避けのために一回り大きなポーチに入れるか上着の内ポケに入れておきなさい』だってー」
「【鑑定】だとバレちゃうのかー」
「うお、どんどん入ってくぞ!」
「盗まれる間抜けはいないよなぁ?」
「俺に刺さるからやめてくれ」
「便利だけどダミーのカバンは必須ね」
「化粧品も生理用品も入っていいねこれ」
「帰ったらデコるぜ!」
マジックバッグを試してワイワイしている。
「それをいじるのは帰ってからにしてー、外に出るよ!」
佐倉は一度教室を見渡す。色々あったなと、あれこれ思い出される。良いことばかりではなかったが、今はとても幸せだ。
この教室も、来年の3年生が使用する。もう来ることもない。
「お世話になりました。じゃあね!」
佐倉は小声でお別れをして、走って教室を出た。




