46.卒業式①
3月18日、曇り。桜のつぼみもまだ堅い。
今日は市船ハンターコースの卒業式だ
智と美奈子ちゃんは寺から向かう。美奈子は年明けからは家に帰っておらず、もはや家族のようなものだ。
葉子ちゃんは家から学校へ行くとのこと。葉介さんも参列するので今日はギルドもお休みだ。
卒業式に行くのは父さんと俺。瀬奈さんは仙台から戻ってないし、京香さんは留守番をしてもらった。現地で智のお父さんと合流する予定だ。
さすがに今日ばかりはスーツを着てる。大学の入学式以来だ。
市船の体育館にはハンターコースの生徒の関係者だけがいる、はずだ。普通科は明日卒業式だとか。ハンターコースは事前練習でもあるらしい。
「お疲れ様です」
智のお父さんとお母さんがいた。さすがに娘の卒業式には来たか。でも俺のほうを見ようともしない。娘を奪っていった罪人だろうし仕方ないかもしれない。来世では仲良くしてもらいたいな。
「今日は寒いですな」
「あいにくの曇りですね」
父親同士は仲が良い。寺からまめに智の様子やら写真やら動画やらを送ってるし。
席は自由だ。録画する人は最後尾で立ち見となる。ウチでは葉介さんが録画係だ。
瀬奈さんも京香さんも現地に来れないからね。
「じゃ俺はあっちなんで」
俺はギルド長として来賓扱いなので席が違うとこなんだよ。ちょうど卒業生の横あたりだ。
「こんにちはー」
来賓席には大多喜さんと足利さんがいた。船橋ギルドは当然として勝浦ギルドにもお世話になってるし当然だ。
「おや、今日は作務衣じゃないんだねぇ」
「さすがに空気を読みました」
「先日はいきなり【ヒグマ】が船橋に来て驚いたよ」
「浦河姉弟はうちにも来ましたねぇ」
おっと、クマさんが徘徊してるぞ。あの姉弟はフットワークが軽いんだよね。もっと徘徊してもいいのよ?
世間話をしていれば在校生が入ってくる。1クラス40人くらいなので少なく見えるのは仕方なし。俺を見てぎょっとするのはやめていただきたい。泣くぞ。
「卒業式を挙行致します。ハンターコース7期生入場。拍手でお迎えください」
司会から開始が告げられ体育館の舞台とは逆の方から卒業生が入場してくる。クラシックだろうけど勇ましい感じの曲だ。秋のハン祭の時もだけど、ハンターっぽくしてるのかも。
保護者の間を通ってくるので皆の顔がなんとなく恥ずかしがってる気もする。目が合った智がにっこりした。かわええのぅ。
国歌斉唱、卒業証書授与と進み、校長及び来賓あいさつとなる。俺もギルド長として祝辞を述べねばならない。ドキがムネムネでのどから手が飛び出そうなくらい緊張してる。
勝浦、船橋ときて獄楽寺だ。足利さんと大多喜さんはさすがに大人で、立派な祝辞だった。
まぁ、俺は俺さ。
「ご卒業おめでとう御座います。獄楽寺ギルドの坂場です。長いと退屈なのでさらっと終わらせますね」
合掌。
「『自業自得』と言う言葉があります。これは仏教の言葉で『悪いことが起きたのは自分が招いたこと』なんて解釈されますね。しかし、仏教的解釈はそれだけではありません。
『業に従った結果を得る』と解釈します。
業とはカルマと呼んで、意味は「行為」や「行い」です。
日本人は引き算評価が好きなので悪い意味で使うけど、本来良いも悪いもない言葉です。
逆説的に言えば、良い結果を得たいならば良き行いを。望むものがあるのならば手に入るような業を、となります。
足が速くなりたいなら日ごろから走る練習をしなければいけないし、試験でいい点数を取りたいのなら日ごろから勉強するくせをつける、とかね。そこにいる千葉君も、うちに来て頑張ってたね」
「あざっす! 頑張った甲斐がありました!」
グッと腕を突き上げる千葉君。
ヒューヒューと指笛も鳴った。
「僕も彼女が欲しい!」
「成田は行動が足んねーんだよ」
「くそー、それかー!」
「俺はいるけどな」
「そこに裏切り者がいるぞ!」
「俺もいるけどな」
「なんだと! ブルータスが多すぎる!」
男子が遊んで体育館がどっと沸いた。笑ってる先生もいるので、まあ許してほしい。
「厳粛な空気を壊してすみません。悪いのは話を振った自分であって悪ノリした彼らに罪はありません」
謝っとこ。悪いのは俺だ。
「ハンターとして活躍したい、無事に生き残りたければ、何をすべきかを学ぶことが重要かな、と思います」
さて話題かえてさっさと終わらせよ。
「そのハンターですが、ハンターはスキルを得ます。でもそのスキルで、ハンターを判断してはだめだと思うんです。
お釈迦様は言いました。
『生まれを問うなかれ、ただ行を問え』と。
人は生まれで判断するのではなくその行いでせよ、という言葉です。
得られたスキルは戦闘系とそうでないスキルに別れますが、どっちが優れているということはありません。
【鑑定】と【闘刃】のどちらが優れているか。
【鑑定】スキルがあるからダンジョンから持ち帰った品々がわかります。
【闘刃】スキルがあるから強い魔物も倒せます。
どちらもとても有用だと思います。
このふたつのスキルはそもそもの評価の土俵が違います。土俵が違うものは共通した評価軸がないので、比較すること自体がナンセンスです。
これをもってハンターを差別すると、それが業となり、結局は自らに跳ね返ってきます。
自分のように、ハンターにならなければいけなかった人もいます。希望したスキルを得られなかった人もいます。ハンターもいろいろです。
ギルド職員にはこの『ダンジョンには入らないハンター』が多くいます。彼らも有用なスキルを持っているんです。
『オレは魔物を倒すハンターだから偉いんだ』ではなく、対等です。
皆さんは今後、いろいろなギルドと関わっていくことと思います。ギルド職員もいろいろです。幣ギルド職員の過去もいろいろです。
うまーく、あまり角が立たないように付き合っていってください。
これを贈る言葉とさせていただきます。皆さんの活躍を祈っております」
合掌。
ふぅ、終わった終わった。拍手されたのでぺこりと頭を下げておく。
「なかなかいい祝辞じゃないか」
「えぇ、職員に対する配慮などはギルド長としてもくるものがありますね」
来賓席に戻ったら大多喜さんと足利さんに褒められた。やったぜ。
在校生から卒業生への送辞があって、卒業生からの答辞も終わる。これで退場すれば式も終わり、一人前のハンターとして扱われることになる。式も終わりを迎え、身じろぐ音が音が聞こえ始めた中、成田君がすっと立ち上がった。




