45.多賀城の帰還③
仙台に行った瀬奈さんから連絡が来て急遽話し合いとなった。葉介さんを呼んでるあたり、イリーガルな匂いがするんだけど大丈夫かな。
モニターの前にはセットを終えた京香さん、智、葉介さんが揃った。坂場家+法務部って感じ。食堂はざわついてるけど仕方ないよね。
モニターの画面が切り替わり、多賀城ちゃんと瀬奈さんと、たぶん多賀城ちゃんのお母さんだろう女性が映った。予想よりも若い気がする。
顔はよく似ててかわいい系なんだけど疲れてる顔で苦労がうかがえる。
「こちら獄楽寺です。仙台は映ってますか?」
『映ってるわよー』
オッケーらしい。
「初めまして、獄楽寺ギルドのギルド長の坂場です。寺にできちゃったダンジョンを管理してるのがギルドで、寺とギルドはまた別でして。ややこしくてすみません」
「守君の妻兼ギルド職員の小湊京香です」
「つ、妻兼所属ハンターの佐倉智美です!」
「ギ、ギルド職員で法務関係をしている柏葉介です」
こちらの紹介は終えた。
『京子の母の涼子です』
『オレだぜ!』
『京子、オレではなく京子でしょ?』
『えー、みんな知ってるからいーじゃーん』
『挨拶は一番大切な礼儀さ』
お母さんはまともな人っぽい。
『京子がお世話になったようで』
「いえいえ、家事にギルドの仕事とか幼稚園の手伝いまでしてもらいまして、大変助かってます」
『京子、まじめにやってたの?』
『しっかりやったぜ! オレにかかれば完璧だぜ!』
多賀城ちゃんの調子は良さそうだ。やっぱりお母さんといるからかな。
『こっちの現状だけどー』
瀬奈さんから説明がある。
乳がんのステージⅡであること。いわれのない借金があっていやがらせもあること。男がいなくなったこと。
なかなか厳しい状況だ。
『オレは、かーちゃんといたい!』
多賀城ちゃんがたまらず叫んだ。可能ならそうしたいよね。
「がんはひとまず横において、借金ってのは……葉介さん」
「話を聞いた感じ、おそらく闇金融でしょう。えっと、多賀城ちゃんのお母さん、いついくら支払った記録とかありますか? 内容にもよりますが、それで不当な要求を止められます。今の僕はまだ司法試験に受かっておらず弁護士ではありませんが無報酬であれば交渉できます」
「葉介さんそうなの?」
「無報酬が絶対です。報酬があると僕が弁護士法違反になってしまうので」
メガネのブリッジをくいっと上げ言い切る葉介さん。後ろで葉子ちゃんが「スケ兄かっこいい!」って叫んでるのが聞こえる。
わかるよその気持ち。今のスケ兄は超絶かっこいいぞ。
『そんなことができるのかい?』
「相手は無登録貸金業か、おそらく違法な金利の違法業者なはずなので、そもそもの借金が無効なんですよ。電話一本してこれこれこうなので無効ですよね? 出るとこ出ましょうね?っていえば終わるパターンかとは思います」
「それで終わらなかったら?」
「組織犯罪処罰法で訴えましょうか。そんな反社組織は物理的に叩きのめしてもいいと、個人的には思ってますけど」
「優しい葉介さんにしては怖い発言だけど俺も賛成だな。やっちゃう? 事務所を海水で満たすこともできるけど」
「人的被害を出さずに使い物にならなくする。いい手かもですね」
『はいそこ、物騒なのは最終手段にしてねー』
瀬奈さんからつっこみが入った。やりすぎか。
「えっと、そんな感じなので、解決可能と認識していただければと思います」
我に返った葉介さんが〆た。
『そ、そうなんだね。ちょっとびっくりしちゃって』
画面の向こうのお母さんはドン引きのようだ。
でも、やるならやるよ、俺は。
『乳がんは――』
「ステージⅡですと乳房切除になるとは思いますが。瀬奈先輩、【キュア】は試されましたか?」
京香さんが割って入る。男としては話しにくいから助かる。
『わたしもそれは思ったんだけどその前に話し合いになっちゃったから』
「なるほど。【キュア】で治らなくても進行を止めるなど効果がある可能性がありますので、今この場ででも試すことをお勧めします」
京香さんの視線が多賀城ちゃんのお母さんに向いた。
『その、【キュア】ってのは何だい? 京子はわかる?』
『かーちゃん、魔法だぜ! 体の悪い状態を治せるんだぜ! オレも使えるぜ! 【キュア】!』
興奮しちゃった多賀城ちゃんがキュアをかけてしまった。
お母さんの体が仄かに青く光る。
『かーちゃんどう?』
『どうって言われても……』
多賀城ちゃんのお母さんは胸を指でもみ始めた。ぐにぐに確かめる表情は微妙そうに見える。
やらしいとは思わないぞ! 毎日誰かのおっぱいは揉んでるし!
煩悩まみれでサーセン。
『うーん、心なしか小さくなった、かもってくらいで違いは分からないね』
『そっか! でも毎日かければ治るかもしれねーぜ!』
『はは、ありがとうね』
多賀城ちゃんの暴走にお母さんも苦笑いだ。多賀城ちゃんもお母さんの役に立てると思って勇み足気味だけど、まぁそこがこの子のいいところでもあるからね。
さて、まとめないと。
「えっと提案なんですけど、京子ちゃんと一緒にお母さんもこっちに来ませんか? ぶっちゃけて言うと、うちって人手が足りないんですよ。寮の運営かギルドの職員か。どっちか手伝ってもらえませんか? もちろん給料はお支払いしますよ」
病気が理由ではなく、闇金融ってのがひっかかってるんだよね。いやらがせとかあるってことは、いま住んでるところでも安心はできないってことでしょ?
いっそこっちに来てしまえば追ってはこないだろうし、追ってきたらお尻ペンペンの刑に処せばいいし。そこまでの根性があるとは思えないけどさ。
『……ありがたい申し出だけど——』
『かーちゃん、ダメなのか!? オレはかーちゃんと暮らせるなら、そっちのほうがいいぞ……』
多賀城ちゃんがお母さんの腕をつかんだ。ひとりでも大丈夫なんて言ってたけど、こっちが本心だよね。
『いいかい京子。さっきも言ったけど、おかーちゃんにはそこまでしてもらういわれがないんだよ。突然おしかけた京子の面倒を見てもらっただけでも申し訳ない思いでいっぱいなのに、顔もふっくらして……いい待遇だったんだろ?』
お母さんが多賀城ちゃんのほっぺを両手で挟んでフニフニしてる。うちに来てひと月以上いたから、多賀城ちゃん肉付きもだいぶ良くなってるんだ。
『オレ、いっぱい魔物を倒していっぱい働いていっぱいご飯を食ったぜ! 風呂は毎日入りたくなかったけど瀬奈ねーちゃんが一緒に入ろうって言うから、仕方なくな!』
『お風呂キャンセルなんて認めないわよー』
『だだだだって瀬奈ねーちゃんがエッチな触り方するんだもん!』
『多賀城の洗い方が雑だから隅々まで洗ってるだけよー。女の子なんだからキレイキレイにしておきなさーい』
『めんどくさい!』
『じゃあおねーちゃんがきれいに洗ってあげないとだめねー』
『うぇぇーーーー』
画面の向こうでは瀬奈さんと多賀城ちゃんがじゃれてる。こう見ると仲のいい姉妹にも見えるね。人見知りしない多賀城ちゃんの性格もあるけどさ。
多賀城ちゃんの幸せにはお母さんと、瀬奈さんみたいなお姉さんも必要だな。
お母さんを納得させるにはもう一歩だ。よし。
「あ、いいですかね。うちは寺で、オレも坊主見習いでもあるんです。仏教の本質ってのは『幸せの探求』なんですよ。幸せの形は人それぞれで、我々が手助けできることがあれば手を差し伸べるのが我々の修行でもあるんです。人生において徳を積み、また次の人生でも徳を積む。そして輪廻からの解脱を目指す修行です」
合掌。
「先ほどもいましたが、こちらにもメリットがあるんです。うちは若いハンターの育成に力を入れてまして、ハンターコースの高校生が来て泊まれるような寮を用意してるんですが、そもそも寺で幼稚園も併設してたり、ギルドのギルド長もしてたり、ダンジョンで魔物を倒さなきゃいけなかったり、自分の敷地にダンジョンができてしまったがために苦労している人のところへ行ったりと、自分の体がいくつあっても足りないんですよ。もしお母さんが京子ちゃんと一緒に来てくれれば、うちを助けてもらえるというメリットがあります」
『そうだぜ! 兄貴のご飯はおいしいんだぜ!』
『ん? ご飯は、お母さんでなくって兄貴さんが作ってるのかい?』
『兄貴のお母さんは亡くなっちゃってるから兄貴が料理するんだぜって、ごめん言っちゃいけなかった』
『そ、そうだったのかい……悪いことを聞いちゃってごめんよ』
「大丈夫です」
「補足です。給与面で不安があると思いますが、平均年収は上回るとお考え下さい。当ギルドは資金面では潤沢なので。個別での住み込みになりますが、京子さんと同じ部屋にすることも可能ですし、近隣に空き家もあるので借り上げて社宅的に運用することもできます。詳しくは瀬奈先輩からお願いします」
『任されたわよー。わたしは多賀城の卒業式までは仙台にいる予定よー』
「わかりました。無理しないようにね」
という感じで話が終わった。来てほしいけど無理強いはできない。その権利もないしね。ただ、困ってることは解決するよ?




