45.多賀城の帰還①
忙しくて書く時間が取れないので書き溜めがごりごり減って胃が痛いです。
コピーロボットの開発はまだなのでしょうか?
3月も半ばに入って寒さも和らぎ、桜のつぼみが目立つようになっていた。世間では卒業式の時期となり、多賀城の仙台第一の卒業式も5日後に迫っていた。
「多賀城、そろそろ仙台に行くわよー」
「卒業式かー。気が進まねーなー」
勝浦にそう言われ、制服にエプロンをつけた多賀城が食堂で料理を運びながらぼやく。寺のほうが居心地がいいのだろう。しかし、卒業式に出てきちんと卒業することは大切だ。なし崩しに卒業するよりも、区切りをつけたほうが良い。
「わたしもいってお母さんとも話をするからねー」
「来なくても大丈夫だぜ!」
「だーめー。ちゃんと卒業式に出るかをこの目で確認しないとー」
「うぇぇぇ」
そう、多賀城のお姉さん役として勝浦も仙台に行くのだ。きちんと卒業式に出るかを確認して、多賀城が希望するなら寺に連れて帰ることにしている。
臨月に近い妊婦と金髪ヤンキーはスーツケースを転がして新幹線で仙台に向かう。妊婦とはいえハンターなので体力に問題はない。ただ、慎重に行動するのでゆっくりなだけだ。
多賀城が住んでいるアパートは宮城野区にある。仙台駅からやや離れているのでタクシーで向かった。いかにもな古いアパートがあり、その1階にある。
「誰かいるわね」
アパートの部屋の前にはスーツ姿の若い男性が立っている。清潔感のある髪型で、どこかの会社員だろうか。
「多賀城さん、借金は返済していただかないと」
「身に覚えのない借金に返す金はないよ」
「それは困りますね。借りた金を返さないのは泥棒と一緒ですよ」
「借りた覚えのない金を返す義務はないだろ?」
「困りましたねぇ」
扉越しに言い合いをしていた。勝浦は話の中身が気になったがまずは様子見だ。
「おいおっさん!」
京子が駆けていく。怪しい人物を見つけた番犬のごとくだ。
男も京子に気が付く。
「おや、君は?」
「おっさん誰だよ!」
京子は知らないようだ。借金取りだが身なりは普通だ。今どきのイリーガルな組織は一見してそうとはわからないようにしているので判断も慎重さが要求される。
「この部屋の人が借金をしているんだけど、その返済が滞っていてね」
「借金!?」
「利息含めて払い終わってるよ! 何を払えというのさ!」
扉の向こうから抗議の声。
借金取りは京子を知らないようだ。ここで娘とわかってしまうと面倒だと判断した勝浦は「あらあらー」といいつつ存在をアピールする。京子から視線を逃すためだ。
「あのー、わたしそこの部屋の人に用事があるんですけどー、どいていただけますー?」
勝浦が声をかける。おなかの大きな妊婦だったので、その男もびっくりした様子だ。
「……多賀城さんのお知合いですか?」
「そんなところですよー」
勝浦はにこやかに微笑みながら圧をかけた。勝浦は見かけこそほわほわ妊婦だがレベルは20もあるのだ。一般人にとっては殺気ともとれる。
圧に負けた男は数歩後ずさる。
「ッ! 今日は帰りますが、きちんと金は払ってくださいね」
男は捨て台詞を吐いて立ち去った。
「うーん、恰好はきちっとしてるけど中身はまだまだなのねー」
生皮をはがすレベルの圧をかけておきながら、なかなかの言い分だ。
「かーちゃん帰ったぜ! 鍵開けてよ! オレだよ!」
京子はドアをドンドン叩いている。こちらの方が男よりもガラが悪い。
ただ、ガチャっとドアは開いた。
「かーちゃん帰ったぜ!」
「お帰り、と言いたいとこだけど、人様に迷惑かけてどの面下げて帰ってきたんだい!」
京子はドゲシと頭にげんこつを食らった。
勝浦は無事に部屋に入ることができた。築30年の2Kで家賃は4万とのこと。
部屋は家具も少なくゴミ袋が多い。片付けられているだけましと、勝浦は思う。自分が学生の時はもっとひどかった。
ヒステリックに叫ぶ母親とごみの合間に座る自分。いつも散らかっていて、自分が片付けてたことを思い出す。
京子の母親だが、黒い髪で痩せていて背は低く、京子と変わらないくらいしかない。顔もそっくりで、京子が歳を重ねたらこうなるだろうという感じだ。
「獄楽寺ギルドの坂場瀬奈ですー。電話ではやり取りはしていましたが、会うのは初めてですねー」
「京子の母の涼子と言います。無鉄砲な娘を保護していただき、感謝の言葉もございません」
京子の母親は膝をついて謝罪した。
京子が押し掛けたその日のうちに勝浦は母親と連絡を取っていた。調べたのはイリーガルメイドさんである。
娘の無事と保護している旨を伝えてあり、今日向かうことも連絡してあったので、ドアを開けて即げんこつとなったのだ。
「こちらも助かってましたので、お顔を上げてくださーい」
「そうだぜ! オレ、頑張ったぜ!」
「まったく、偉そうにふんぞり返るんじゃないよ!」
京子はぺしっと頭をはたかれた。
上がって部屋の真ん中にあるテーブルに着く。涼子はふーっと大きく息を吐いてお茶の用意をする。
「かーちゃん、元気がないぞ」
「誰のせいだと思ってんだい! ったく、何でもないよ、ちょっと熱っぽいだけさ」
「熱っぽい?」
京子はじっと涼子を見つめる。
「かーちゃんの身体に黒い靄みたいのが見えるぞ」
京子が涼子の胸に手を当てた。京子と同じく慎ましい胸だ。
「かーちゃん、ここが痛くないか?」
涼子の顔が驚きに染まる。数秒逡巡して口を開いた。
「……おっぱいにしこりがあってね、検査を受けたら乳がんだったんだよ」
「ええええかーちゃん大丈夫なの?」
「ちょっと熱っぽいだけさ」
「かーちゃん、男は?」
京子が部屋を見渡すが、男の存在を示すようなものがない。あるのは女が必要とするものばかりだ。
「乳がんと伝えたらそれっきりさ」
「ひどい! なんだその男!」
「人間なんてそんなもんさ」
涼子が自嘲的に口をゆがめる。今まで舐めた辛酸がうかがえて、勝浦の胸が痛んだ。




