44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)④ 日比谷にダンジョン設置②
「いちおう中の確認をしますかね」
中に入るのは俺、信号機の3人と元ハンターの焼津さんだ。階段を下りれば見慣れた雑木林が見える。鶏が魔物化したコケケケが走り回ってる。
「魔物は出してないので何もいませんけど、コケケケはいますから」
コケケケは【いわきダンジョン】の魔物ではないので制御不能だ。
ただし。
「コケケケは体当たりしか攻撃方法がないのでダンジョンの入り口に頑丈な鉄の格子でも置いておけば出てこれないです」
大人なら動かせる程度の重さにするけどね。コケケケは格子を持ち上げるほどの知能はないからご安心だ。
「そもそも狭いダンジョンなので遭難の心配は少ないと思いますが、3年に上がったばかりの学生は慣れていないので注意が必要ですね」
「そのあたりは午後に学校関係者が来るので、その時に議題に出しましょう」
焼津さんの提議にはそう答える。午後には三島ちゃんらが来るんだよ。
ダンジョンから出て詰めの続きだ。
「実証実験用にこれを置きます。結構お高いので紛失しないように管理をお願いしますね」
京香さんがラビットフット10個を藤枝さんに渡す。これは、所持しているしていないでどれだけ違うのかを検証するためだ。
ラビットフットは幸運を20%アップさせる効果があるんだけどドロップが20%も上がるのかどうか。誰もやったことがないし、やろうと思ってもラビットフットそのものがレアだからやりようがない。結構大事な検証なんだよ。
「承知しました。データは小湊さんへ送ればよろしいですか?」
「それでお願いします。まとめて論文にして提出します。その際に共同提出者として4人も併記しますので」
運用はすべてお任せ。藤枝さんにはかなりの裁量を任せる予定。
仮に4人の誰かが盗んで売ったりしたら当然解雇なんだけど、500万円のために首になるかって話。ギルドに勤めてればすぐに稼げちゃう金額なはずだ。
そんなことをしていれば昼になる。寺で作ってきたお弁当を取り出す。もちろん全員分あるよ。
「坂場君のそれは便利すぎるわね」
「仏様の懐は深いんですよ」
なにせ三千世界だ。
さて午後になった。三島ちゃんたちが来るので外に出れば、すでに集合してた。三島ちゃんに由比ヶ浜君ら学生5人と日比谷高校の校長先生とハンターコース教員5名がいた。
「守さんこんにちは!」
「こんにちは三島ちゃん。すいぶん早いね」
「待ちきれなくって!」
三島ちゃんが興奮気味だ。横に立ってる由比ヶ浜君が苦笑いしてるぞ。
三島ちゃんはうちに来てレベルが上がって自信がついたのか不安げな様子が消えた。【祈り】スキル仲間の多賀城ちゃんとも会って意気投合してる。いいことしかない。
「初めまして、日比谷高校長の御前崎です」
「獄楽寺の坂場です」
という挨拶をしてさっそく中に入る。外は寒いんよ。
2階の事務所で合流して3階へ。ゲートとダンジョン入り口を見る前に更衣室が気になる三島ちゃんたち。
「更衣室がある! わ、ロッカーもある!」
「着替えもできていいね」
「日比谷ギルドよりもきれい!」
「いーなー、来年の3年がうらやましい」
そっとしておこう。校長は翅さんと話をしているので教員5人とダンジョンに入る。
「狭いんですね」
「あれがコケケケか」
「くるぞ!」
先生らが周囲を見渡してる。コケケケが突っ込んで来たので【説法】で眠らせた。コテンと転がってぐっすり寝てる。
「いまはダンジョン本来のゴブリン系生物は出してません。コイツらはいうならば外来種なので管理できませんが弱いので生徒でもなんとかなると思います。でも絶対はないので、慣れるまでは油断は禁物です」
先生方に説明した。
「日比谷では来年度から教育方針を変更する予定で、3年生はまず全員でダンジョンに入りスキルを得る手筈になってます」
「その後に定期的なダンジョン課外授業を行います」
「船橋もですが、全国で足並みを揃えることになってます」
先生方から俺の知らない情報が出てくる。へーそうなんだ。
「3年生になってすぐにスキルを得るのはいいですね。一斉にってのが特に」
今まではバラバラだったみたいだし。なんで揃えないの?って疑問しかない。
「かなり都合の良いダンジョンを使えますし、それくらいやらないともったいないですよね。それに生徒たちの自信に繋がることを期待してます」
「上に行って詳しく聞きたいですね」
という事でダンジョンを出た。立ったままだけど集まってもらいこちらの意思を伝える。
「えっと、最初にこちらの意思を伝えようかと思います。このダンジョンは日比谷高校の生徒が放課後に使用するという前提で考えています。授業としてダンジョンを使う想定はしていないので、使用する場合は日比谷の職員と相談してください。現状で職員は4人しかいないので希望通りの予定が組めないかもしれません。職員も、残業はしてほしくはないけどお任せしますが休みは取ってくださいね」
俺の話に頷く教師たち。職員の4人もだね。休みが取れないとか、それはダメです。仏さまから飛び蹴りがきます。
「休みが一切ない守君が言っても説得力に欠けますね」
「ぐっは……」
常在戦場と思ってくださいませー!
気を取り直して。
「ダンジョンの使用料は1回1000円とします。学割だけど、これすらも払えないならダメです」
と念を押す。
「タダじゃないのかと思うかもしれませんが、タダだからと軽い気持ちでダンジョンに入るのは危険です。管理されたダンジョンでスタンピードの心配がないとはいえ魔物は魔物です。ゴブリンと戦ってけがをすれば骨折もあり得ます。実際に、船橋でハンタークラスの子がゴブリンとの戦闘で骨折していた場面に出くわしました」
ポニーと初めて会った時だね。彼女たちも強くなったよなぁ。
「ダンジョンに入ったら生きて出てくる。これが絶対です。万が一のためにポーションときれいな包帯は十分な数を備品としておきます。これは、自然災害も想定していますので。緊急事態では躊躇せずに使ってください。以上、俺の主張終わりです」
公表はしないけどポーションは100個置く。
所長たる藤枝さんには【キュア】と【ヒール】を覚えてもらったけどそれも内緒だ。藤枝さん、ばれるのでムズムズしないでください。
「では、日比谷高校としては藤枝さんと話を詰めればよろしいですね」
「はい。千葉から口は出しません。たぶんですけど、船橋の対応で手一杯な予感がするので」
日比谷が動いたとなれば市船も動くはず。大多喜さんなら攻めてくるぞ。
「すでに市船からは打診を受けています」
「んーやっぱりー。動きが速いなぁ」
俺がついていけてない。情けねーなー。
これで、三島ちゃんたちが懸念してた来年の3年生の問題はひとまず解決だ。
「あの、私たちが来てもいいですか?」
三島ちゃんが控えめに挙手する。
「えっと、その辺も藤枝さんと話をしてね」
「やった! ありがとうございます!」
うーん、増員を考えないとだめかもしれない。




