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5.佐倉という少女①

 獄楽寺を出た勝浦は車で船橋へ向かう。守のみそ汁のおかげで二日酔いは退散した。あと、ハンターゆえに復帰も早いのだ。


「ふんふんふーん♪ おいしいみそ汁を作れちゃう年下彼氏とか、いーじゃなーい?」


 ハンドルを握る勝浦はご機嫌だ。だが、向かう船橋で相談する内容は、重い。

 日本のどこかでスタンピードが起きるたびに、その翌日に骨があふれる。そんな墓地ダンジョンへのハンター派遣依頼である。まともに考えて、募集したところで応募はないだろう。

 2階ですらオーガのスケルトンが出るのだ。そこそこのハンターでないと対応すらできない。しかも24時間即応態勢だ。


「ゲートにセンサーを付けて監視してればあふれたときは気が付けるから必要ハンターも少なくて済むけど、お眼鏡にかなうハンターがいるかしらー?」


 勝浦が運転する軽は東関道を爆走する。谷津で高速を降り、一路船橋駅へ

 職員専用駐車場に車を止め、裏口から入る。そのまま副ギルド長室へ向かう。廊下で同僚とすれ違えば「出戻りー?」と揶揄われるがにこやかスマイルで応じておく。金の卵()を見つけた勝浦にとって船橋の男供に用はないのだ。


「大多喜ママー、かわいい後輩が訪ねてきましたよー」


 ノックもなしにドアを開けた。さしの時はママ呼ばわりだった。


「相変わらずノックもしないんだねぇ」

「親しき中にはノー礼儀ですー」

「まあいいさね。で、あっち(墓地ダンジョン)で何かあったのかい?


 大多喜は察した。先日滋賀でスタンピードが発生しているのは知っていた。ならば国内唯一の墓地ダンジョンである獄楽寺にも出たのだろうと。そこで何らかの問題が発生したのだと推測した。


「さっすがママー。そうなのよねー、守くんはチートで凄いんだけど、ソロだから活動にも限界があってー」

「で、ハンターを引き抜きに来たのかい?」

「そのつもりなんだけどー、ママの推薦っていなーい?」

「推薦ねぇ……大体がパーティーを組んでるし、下手に引き抜いたりしたら揉めるだろう?」

「そうなのよねー」

「わかってるなら自分で何とかおし。あぁ彼の納品一覧を見たけど、なんだいあの量は。あんまり売るとブラックマーケットの奴らに目を付けられるよ?」


 大多喜がデスクから煎餅を取り出し、かじった。

 ブラックマーケットとは、本来であればギルドに売らなければならない魔石などが闇に流れ売買される場のことである。税金逃れ目的の魔石のほか、現代医療では再現できないポーションなどが売られている。もちろん市場よりも高値でだが、傷が多い人や表ざたにできない種の人間はここで調達するのだ。

 商品は、ハンター自身が流す場合もあればダンジョン内でハンターを襲って暴力で奪う場合もある。イリーガルなので殺人も当たり前に起きていた。


「そうなんだけどー、スタンピードが起きるたびに大量にゲットできちゃうからどうしようもないのよねー」

「しかもあらゆる魔物が出るからあらゆるドロップ品も出るだろうしねぇ。アンタたちの判断は間違っちゃいなかったさ。早めに手を打てて被害をなくせてるさね」

「えっへー、すごいでしょー。こみなっちゃんのおかげだけどねー」


 勝浦が胸を張るとぶるんと乳が揺れる。


「で、ハンターだけども、その坊やと一緒に講習を受けた高校生の中にぴったりなのがいるさね」

「あら、あの3人ー?」

「その中のひとりさね。佐倉って子さ。昨日アンタを訪ねてきたんだけど異動になったって言ったら泣きそうな顔をしてたねぇ」

「んー、何かあったのかしらー?」

「あの寺の住所を教えといたよ」

「気になるわねー。情報ありがとまた来るねー、ママ」


 勝浦は挨拶もそこそこに船橋ギルドを離れた。






 その頃、JR東金駅には、守と一緒にハンター講習を受けていた3JKのひとり、佐倉智美の姿があった。肩までの髪を茶色に染め、高校の制服だが大きなスーツケースを引きずっている。


「ギルドで教えてもらった住所に一番近い駅がここだけど、寂しいし、タクシーもいないし」


 佐倉が吠えた。東金は市の大きさに反して鉄道への投資が少なく、また利用客もさみしい。ゆえにタクシーも呼ばなければいない場合が多いのだ。そんな事情など高校生である佐倉は知らない。


「歩くと遠いなぁ」


 佐倉はスマホの地図アプリで目的地からの距離を見て文句をこぼす。カバンから財布をとりだし、中身を確認した佐倉は「あんまし余裕はないし、歩くかー」とスーツケースを引きながら歩き始めた。


「疲れた……もう1時間近く歩いてるのに」


 佐倉は畑を貫く農道を歩いていた。疲労困憊で歩幅も小さくなり、とうとうスーツケースの上に座ってしまった。ペットボトルに残っていた水を飲み干し、空きペットをポケットにねじ込んだ。


「なんで勝浦先輩はこんな田舎に移動したんだろー。ってかダンジョンなんてないじゃーん!」


 スーツケースに座りながら佐倉はプイプイ文句を言う。道路には車も通らないのでその文句を聞く者はいない。

 もう一度スマホを眺め、大きくため息をひとつ。


「もう戻れないし、行くしかないか」


 佐倉はスーツケースから立ち上がり、また歩き始めた。そんな佐倉の背後から、勝浦の車が近づいていた。


「んー、こんなところに高校生がーって、市船の制服じゃなーい。ってことはあれが佐倉ちゃんねー」


 勝浦はぷっぷーと優しくクラクションを鳴らすと、びくっと肩を揺らした佐倉が振り返る。


「そこの可愛い女子高生ちゃん、ちょっとお姉さんとドライブに行かなーい?」


 勝浦が窓から顔を出し、ナンパした。


「勝浦先輩!」


 いましがたの疲れなどどこへやら。嬉しそうな顔の佐倉はスーツケースを軽々引きながら勝浦の車に向かう。


「おっきい荷物ねぇ」


 勝浦は車を降り、バックドアを開ける。車体の後方にエンジンを載せている関係でトランクスペースは狭いがスーツケースくらいはのる。


「荷物はこっちねー」

「はい!」

「佐倉ちゃんは助手席にねー」

「はい!」


 元気よく返事をしながらてきぱきと動く佐倉。ふたりを収めた小さな車は農道を走り始めた。


「あの、ありがとうございます!」

「はいはい。佐倉ちゃんはどこに行こうとしてたのかなー?」

「その、勝浦先輩が異動になったと聞いて」

「今日船橋に行っといてよかったわー。とりあえずギルド(仮)に行くわねー」

「は、はい!」


 車は数分で獄楽寺についた。あと少しだったのだ。寺の門をくぐり檀家用の駐車場へ。


「さてついたわよー」

「も、もうですか」


 もうちょっと乗ってたかったなーとつぶやく佐倉だがその言葉は勝浦には届かない。勝浦はさっさと降りてスーツケースを降ろしていた。

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