44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)② 免許を取ろう
都市部に生きるのでなければ必須の車の運転免許。千葉県に住むなら必須アイテムだ。千葉の都市部だって少し離れれば畑だよ?
いるでしょ?
俺は高校卒業の時に取らされた。
「ということで、合宿免許を手配するから取りたい人は挙手」
「費用は出すわよー」
「合宿場所は県内の富津になります」
夕食後の食堂に集められたのは智ら3人にポニーの4人にAチームの5人に多賀城ちゃん。由比ヶ浜くんが免許を取るからと三島ちゃんは静観の構えらしい。
「智、美奈子、葉子は強制ねー。ギルドで何台か買うからねー車は欲しくなったら買いなさいねー」
「はーい」
「ありがとうございます」
「ムズカシソー」
身内たる智ら3人は強制取得だ。魔石発電機があるうちなら電気自動車も可能だぜ。
「免許かー、あると便利だねー」
「確かに欲しい」
「八重とのデートに」
「遊びに行くのも楽になるな」
「おかーさんに取れって言われてる」
「うちは車ないと生活無理なとこだし」
わいわいと話し合ってる。多賀城ちゃんは腕を組んで口をムニュムニュさせてる。イメージがわかないのかもしれない。
「わたしの実体験だけどー、ハンターとして活動しながらは大変よー」
「ダンジョンの多くは不便なところにあるので現地までの移動手段でレンタカーを使う機会は多いと思います」
「あと、ここにくるのにも迎えが不要になるのは俺が助かる」
おっと心の声が漏れた。
もちろん慣れも必要だけどさ。
「費用も出してもらえるなら」
という意見が大半で、みなで受けることになった。多賀城ちゃんもだね。
「今の予定だと2月の終わりの週を予定してるから、空けといてねー」
「バスで迎えにきてもらうので、ここに集合になります」
至れり尽くせりだけど、取る機会を失うと後で大変なんよ。
「ギルドで車を買うって言ってたけど、あたしたちが乗っていいの?」
智が質問した。
「俺は問題ないと思うけど。京香さん?」
「そうですね。単にレンタルと考えれば良いので、利用料として一回100円とでもすれば。ガソリン代などは実費ですが」
「乗りたい車があって車を買いたいのならば買っていいよー」
いまのところは買えるのは智ら3人だけだろうけど。
「あの、わたしたちは、卒業したらどうなるんでしょうか。いまは高校生ということでご厄介になってますけど……」
太田ちゃんがおずおずと手を挙げる。今後に不安がある、という顔だ。
「今後か。みんなは卒業後はどうするつもりなのか、決めてる?」
どっかに行きたいとかあれば、背中を押すけど。
「とりま俺らはこのままやってくべ?」
「いまさら誰かと組みなおしとかはなー」
「知らないやつと組むのも怖いな」
卒業課題をやっていく中で今後を考えざるを得なくなったからか現実的に考えてる。
「わたしらもこのままかね」
「この4人がちょうどいい」
「池袋で見たほかのパーティは荒っぽくて怖かったよぅ」
「んじゃ決まりってことで」
ポニーも同様のよう。現実を知るのも卒業課題の目的らしいので、成果はある。
「守くーん、クランは立ち上げるー? 守くんはハンターでもあるからクランを作れるわよー?」
瀬奈さんから提案が。海で言われたことだ。
俺としてはだね。
「瀬奈さんと京香さんはギルド職員だけど智たちは今のところうちとの契約ハンターって位置づけだし、クランを作って所属してもらったら安定するかなとは思う。智たちは例外的に強くなりすぎちゃってるからうちで保護しておきたい気持ちもある。クランは立ち上げよう」
これは決まった。3人とも表情に変化もないのでヨシ。何をいまさら?と思われてるかも。
まぁ、智は奥さんだし美奈子ちゃんは零士くんから離れるわけもないし葉子ちゃんは葉介さんがいるしで離れようがないね。
「わたしたちは?」
「俺たちは」
「ポニーもAチームも新人にしては強いって評価で、でもやっぱり不安だと思うんでクランに所属してもらった方がいいかなって」
俺が話すと9人はほっとした顔になった。寄らば大樹。大樹にならねば。一方で多賀城ちゃんは黙って考え込んでる。ソロでやる意思があったけどここで仲間を見たからかな。
仲間をいまさら作るのは難しいかもしれないから、まずは俺かな。今も早朝に一緒にダンジョンで掃除してるし。後で瀬奈さんとお話し合いをしよう。
さてこっちだ。
「クランに入ってもずっと拘束するつもりはなくって。今は卒業を控えて不安な時期だと思うんだよね。でも、例えば卒業後2年経って『大体わかったぞハンター業界!』みたいになって他に行きたいなって思ったら止めない。ここは千葉でも田舎だし、ここにみんなを縛るつもりはないよ」
その後にお金稼ぎにここに来るのは全然オッケーと付け加えた。喧嘩別れしたわけじゃないし。
「ポニーの4人は知ってる話だけど、長い物には巻かれろ、寄らば大樹さ。頼り甲斐はないかもしれないけど、皆を守れるように、雨風をしのげる枝は茂らせるように頑張るよ。はい、俺の主張おしまい」
「ということで、明日にでもクランを設立しましょう」
京香さんがこっちを向いた。
「そんな簡単に作れちゃうの?」
「去年のうちで書類はできていたのであとは守君の署名待ちです」
さっさとサインしちゃおう。
「って感じらしい」
「じゃあ決まりだろ」
「うちらは?」
「寺一択でしょ」
「俺たち、クランに入りたいっす」
「わたしらもオナシャース」
Aチームとポニーも話し合いの、というか意志確認だけだった気もするけど、決まった。
解散して、食堂には俺と瀬奈さんと多賀城ちゃんが残る。物陰に智が隠れてるけどバレバレだ。
「多賀城ちゃんは卒業後はどうしたい?」
まずは彼女の意思だ。瀬奈さんは、卒業すると母親が放置するとにらんでる。その時は寺で面倒を見たいとも言われてる。自分の生い立ちと重なってるからだろう。
俺的にも【祈り】スキルを持った多賀城ちゃんはキープしたい。でもこれは俺の勝手な希望であって彼女の意思を無視しているわけで。
「卒業後はハンターで金稼ぐぜ!」
多賀城ちゃんはにししと笑う。でもどこかから元気にも見えた。
瀬奈さんとアイコンタクトする。
「多賀城はひとりでやっていくのー?」
「うーん、どうしようか悩んでんだよなー。レベルが上がって戦えるスキルを覚えたからさー。誰かと組んでも迷惑かけねーですむかなーってさ」
「いまだったらパーティを組めると思うわよー」
「でもなー、いまさらオレと組む奴なんていねーしなー」
多賀城ちゃんの悩みはやっぱりそこだった。誰かといたらさみしくないよね。
「多賀城は仙台に戻ってハンターをやるつもりー?」
「それも考えててさー。かーちゃんがいるけど、あんまり帰ってこねーしさー。男のところに行ってんだろーなーって。で、オレがいたら邪魔じゃん?」
多賀城ちゃんが首をかしげて俺を見る。俺に同意を求めてるけど、同意をしたら『自分は邪魔だ』と認めてしまうことになる。そうでもありそうではないとも言える。
難しい。
どいう答えたらいいんだ。
「多賀城。たぶんねー、おかーさんは今まで頑張って高校卒業まで育てて、一息つきたいんだと思うのよー」
「そーだよなー。かーちゃん、昼も夜も働いてる時もあったしなー。オレが働いてかーちゃんに楽させたいんだけど、かーちゃんも男といたいだろうし、かーちゃんも幸せになってほしーしなー」
多賀城ちゃんは足を組んだ。相変わらず擦り切れたジャージも着てる。新しいのは用意したけど「まだ着れる」って古いのも着るんだ。しみついたもったいない精神なのか、借りにしたくないのか。苦労してるのに優しい子だ。こんな子こそ幸せになるべきだと思ってしまうのは判官びいきだろうか。
「多賀城ちゃんがここにいてくれればうちは助かるけど、そーだね、卒業式に出るために帰るでしょ? その時までにどうしたいかをおかーさんと話をするとかで決めればいいんじゃないかな。それまでは墓地ダンジョンで魔物を倒しつつお金を稼いで、その合間にギルドを手伝ってくれると嬉しいな」
多賀城ちゃんの手を取る。まだ骨と皮しかないような指だけど、卒業式で帰るころにはふっくらしてあげたい。
「いいいいきなりてをにぎるなぁぁ!」
「ナチュラルに口説くなぁ!」
顔を真っ赤にした多賀城ちゃんが視界から消えて俺の側頭部に衝撃が走る。「アイター」と横を見れば、激おこぷんぷん丸∞の智の顔があった。背筋が凍りそうだ。
ナニカシテシマイマシタカ。
「ちょっと来なさい! わからせてあげるわ!」
部屋に連れ去られて夜通しわからされました。反省反省また反省。
翌日。用意されていた書類にいくつかサインしたらおしまい。
「京香さん、クラン名は?」
「獄楽寺ですが?」
「まんまなんだね」
「どこともかぶらない、これ以上ない名前だと思います」
疑問など一切浮かんでいないかのような京香さんの笑顔がまぶしい。掛け軸にすべきだね。
ということで本日をもってクラン『獄楽寺』が発足し、所属パーティは桜前線、ポニー、ダンジョン野郎Aチームの12人となった。
より一層頑張らねばー。




