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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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4.ギルド開設⑦

「これを売るためには俺は何をすれば?」

「そ、そうねぇ、まずは口座と紐つけかしらねー。ハンター証が電子マネー機能もあるからそっちにプールすることもできるけど、これは額が額だから口座に振り込んだ方が良いわよー」

「俺名義の口座ですか? 子供の時に作ったのがあったかな。地元の信用金庫でもいけますか?」

「おっけーおっけー。でも預け金が億を超えるとお話合いが必要になっちゃうかもよー?」

「そこまでは、あっはっは、ないっすわー」


 うん、億り人とか夢の先の人種だって。へそでぶんぶく茶釜が踊っちゃうよ。


「じゃあちゃちゃと手続しておやつにしましょー!」


 ちゃっちゃとやったら1時間かかったでござる。なぜだ。


「魔石のお金がゴブが500円、ホブが700円、クマが1000円、オオカミが700円、ワイトが50000円、騎士骨が5000円、オーガが20000円、マッスルが100000円で計8665700円ねー」

「は、はっぴゃくろくじゅうまん!????」

「ポーションは、下級が15万円、マッスルが300万円で合計4125万円ねー」

「よよよよんせんまんえん……(絶句)」

「魔法書はねー、ファイヤーボールが150万円でカースが500万円。合計で2600万円ねー」

「お、おう……(語彙が引きこもりだぜ)」

「オーガの棍棒は意外と用途が多くって需要が高くってね、割とお得なのよー。大きいから一本15000円ね。合計5355000円ねー」

「意外に高い!」

「登山用のストックとかにも使えるのよ。元が木材だから最悪現地に放棄もできちゃうところが評価が高い点ね」

「あ、硬いからかー。考える人スゲー」

「すごいわよねー。で、すべて納入するとして、お買い上げ金額の総合計は、ドゥルルルルルルル」

「突然のドラムロール」

「じょん! 8127万円とんで700円でーす! すごーいわたしを養ってー!」

「はははははっせんまん!!???」


 なにそれ、そんな金額知らない。そしてなまくらな剣はスルーされてる。


「わずか2週間足らずでこの売上。しかもゲート設置に魔法書を売ってもこの金額。私も養ってほしい」

「養ってもらえたらわたしのわがままボディを堪能し放題よー」


 ふたりの目が太子やら諭吉やら栄一になってる。

 まさか、これが目的で俺に近づいてる……!?

 ハンターは儲かるとか聞いたことがあるだけで油断しすぎた。スキルもチートだし、悪い奴らが寄ってくる未来しか見えねえ。

 これは、自重しないと駄目な奴では?


「魔石と棍棒は全部売ります! 魔法書はちょっと取っておきます。ポーションは、えっと50本残して売ります。マッスルは保管の方向で」


 ポーションは念のためだ。さっきも大けがをしたし、回復手段は持っておかないと死ぬ。マッスルは、なんか役立ちそうなんだよね。魔法書は、やっぱ使ってみたいじゃん? あまり売ると値崩れしそうだなってのもあるけど。


「あらそうー? じゃあ全部で3277万円と700円ね」

「それでもでけぇ……」


 これだけ稼げれば本堂とか修理できるんじゃ? 母屋も拡張ないし建て直しもいける?

 あいやまてよ、ハンターを雇って俺がダンジョンの掃除をできないときに代わってもらうとかもできるか?

 ただ、ここが墓場ダンジョンってのがネックか。日本で初らしいし。

 取らぬ狸の皮算用が頭に渦巻くぜ。

 コーユー時はだね。落ち着くためにはだね。


「よし、今日は豪勢にすき焼きにしましょう!」


 肉だ。一心不乱に肉を喰らうのだ。肉はすべてを解決する!


「やった! こみなっちゃん、お肉だよ! すき焼きにはビールだよねー!」

「瀬奈先輩、すき焼きには日本酒も。スパークリング日本酒はあう」


 よし、話題もそらせたぞ。買い出しというこの場から口実で逃げるのだ。





 守がちょっと離れた直売所に買いものへ行っている最中。勝浦と小湊は素に戻ってギルドの業務をこなしていた。

 勝浦が金の処理を、小湊が守が倒した魔物の数とリストを整理している。日別にまとめ、全国のダンジョンで起きたスタンピードとの関連性を検証していた。


「やはり、魔物が増えた前の日に日本のどこかでスタンピードが起きてる」

「前の日に起きてないのは、もっと以前に起きたスタンピードの残滓かもしれないわねー」

「守君のチートスキルがあるから何とかなってるけど普通のハンターだけだったら突破されてる」

「ほんとよねー。ランク10でオーガの大群を相手なんてできっこないものー」

「守君はレベル12。オーガでレベルが上がってる」

「わー、2レベルも上がってるのー? 10から先は必要な経験値もバイバインで増えていくから上がらなくなっていくのにー。墓場ダンジョンはやばいねー」


 ふたりは顔を合わせることなく、業務優先で会話をしていく。


「守君ひとりだと厳しい。今日は大怪我もしてた」

「そうよねー他のハンターが欲しいわよねー。こみなっちゃんは目星あるー?」

「船橋のハンターは避けたい」

「あー、セクハラ野郎が来そうだしねー。それはわたしもお断りねー」

「大多喜副ギルド長に相談。守君の稼ぎなら専属ハンターを2桁雇える」

「ハンターは女性禁止でねー」


 守の知らぬところで組織が築かれていく。だが、小湊の心配はもっともである。守はオーガ骨の大群相手に勝ったが満身創痍だった。これが夜中に起きていたら、なすすべもなく地上にあふれていたはずである。

 守の身はひとつ。代りはいない。それが問題なのである。


「明日、船橋に行く」

「ここはおねーさんにお任せー」

「瀬奈先輩お願い。抜け駆け禁止」

「わかってるってー、襲うときは一緒ねー」


 守の貞操には時限爆弾が仕掛けられてしまった。




 すき焼きパーティを堪能した翌朝。ちょっと多めに酒を飲んだからか頭が痛い。二日酔いかもしれない。ポーションって二日酔いにも効くのかなぁ。

 なんてくだらないことを考えて起きる。昨晩はすき焼き用肉を1キロ以上用意して挑んだ。そして肉は余った。おかしい。なぜだ。和牛だぞ?

 その代わり、お酒類はキロ単位で消費された。俺と父さんは早々に寝たけど小湊先生と勝浦さんは盛り上がっていた。船橋から解放されて自由を謳歌しているようにも思えた。ちょっと羨ましいな。

 俺ってば墓場ダンジョンにかかりっきりだし。一日でも掃除をさぼったら、その時に限って骨が溢れたらって思ったら休めない。俺と父さんはともかく、ご近所さんや園児が犠牲になるのはゴメンだ。毎日園児の元気な声を聴いてると、地域と生きてるなって実感できるんだ。

 そんな平穏を壊されてたまるか。チクショー!


「すき焼きパーティの片付けからだな」


 食事スペースに来たらば、屍が2体転がっていた。暑いからかいろいろはだけた姿で。スカート派の勝浦さんはちゃんとスパッツを履いていてご安心だったが小湊先生は意外にも下着にこだわりがあるのかフリルがついている可愛い奴だった。朝から眼福だけど起こして風呂に入らせねば。


「はいはいお姉さま方朝ですよ」


 鍋とお玉でカンカン鳴らす。音は控えめだけど金属音って耳にくるから目覚ましにはいいんだ。


「うーん、もう朝ー?」

「あと5時間」

「二日酔いの酔っぱらいはとっとと風呂に入って身を清めてくださーい。朝食はそのあとでーす」

「はーい」

「……」


 ゾンビのようにはいつくばってる乙女ふたり。先生は返事がない。生きる屍のようだ。


「さて朝のお仕事だ」


 墓地の掃除をしていればダンジョンの入り口についた。昨日はオーガ骨がたくさんいたけど、今日は平穏でいてほしい。


「どやぁー」


 階段を降りたらば、ゴブリン骨が数体うろついてた。よし、()()だ。


「さくっと4階まで掃除だ」


 2階にはホブゴブが数体、3階には狼骨が10体ほどいたけど鎧袖一触にしてやった。なれたもんさ。


「4階には、うん、ワイト君がいる。この安心さよ」


 ストーンサークルの中心にはワイトがいて、お供の騎士骨が4体いた。

 安心しちゃいけない魔物なんだけど、視界が知らない骨で埋め尽くされてる光景を見ちゃうと安堵を感じるんだよ。いつもの実家の安心感。


「さーて、今日も魔法と魔法書をいただきますかねー」


 ファイヤーボールとカースをおいしくいただきました。

 母屋に戻れば父さんが本堂から出てくるところだった。


「彼女たちは風呂に入ってるぞ」

「じゃあ洗面所は避けとくわ」


 勝浦さんと小湊さんはうちで酔いつぶれることが多くて、あまり隣家に帰っていない。こうして既成事実を積み上げているのかと勘ぐってしまうが、ギルドの仕事の大変さの裏返しなのかな、とも思ってしまう。ちょろいな俺。

 台所に行ってちゃちゃっと朝食の準備だ。目玉焼きとキャベツの千切りと豆腐のみそ汁。うちの目玉焼きは両面焼きで中は半熟がデフォルトだ。苦情は聞かない。半熟イズ正義(ジャスティス)である。


「おいひい……レトルトのみそ汁とは世界が違う」

「二日酔いにはおみそ汁よねー」


 風呂に入って身ぎれいになった酔っ払いがみそ汁を賛美する。日本人に生まれてよかったと感謝するひと時だ。


「守、今日は幼稚園でどろんこ遊びをするから手伝ってくれ」

「あいよ」


 夏が近づくとまずはどろ遊びからやる。ちなみにうちのプールは服を着たままやる。大波で海に落ちたりした場合にパニックにならないためだ。


「まもるくーん、わたしは船橋に行くからー、こみなっちゃんが受け付け業務よー」

「受付って言っても誰も来ないじゃないですか」

「買取も受付業務のひとつなのよー」

「あ、そうなんですね、わかりました」

「夕方には帰るからー」

「あ、はい、気を付けてくださいね」


 おかしい、ここは勝浦さんの家ではないはず。

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