1.ダンジョン発生②
俺が先頭で、おっかなびっくり石階段を下りていく。砂があるのか靴にはジャリっとした感触がある。墓地の石畳みたいで落ち着くのは寺の息子あるあるだな。
階段の幅はひとりが通れるくらいですれ違いは厳しい。階段の壁には数メートル間隔で篝火があって降りるのには困らない。
「この篝火って誰が設置したんだろ」
「ダンジョンだろうな」
「誘導されてる気がして、なんか嫌だな」
アンコウの提灯な気がしてしょうがない。あれを振って餌をおびき寄せるんだよなって俺たちは餌かよ。
「12,13段だ」
「処刑場の階段が13段だって聞いたことがある」
「父さん、不気味なこと言わないで」
やめてよ、怖くなっちゃう。実際に怖いけどさ。
階段の下にたどり着いた。俺たちの前には、墓地が広がってる。墓に名はないけど卒塔婆はたってる。もちろん戒名なんて書かれてない。
生暖かい風が体を舐めていく。空は不気味な茜色で、まさに逢魔刻だ。気味悪いな。
「あっ……」
「んおっ……」
俺と父さんが同時につぶやいた。頭にスキルのお知らせが来たんだ。俺の頭には【仏の懐】というスキルの名前が浮かんだ。なんだこれ。
ネットで見かけた記事かなんかだと、スキルの特徴と使い方は頭に入ってて後から調べられるんだとか。だとすればさっさと出るに限る。父さんの顔を見れば、なんだか微妙は表情をしてる。
「守はスキルを手に入れたか?」
「うん、詳しいことはダンジョンを出てからにしよう」
「あぁ、ここは危険だ」
父さんが視線をダンジョンの奥にやった。子供くらいの大きさの白い骨が歩いてくる。ゆっくり二足歩行でだ。
「ま、まもの!?」
「だろうな。ほら、逃げるぞ!」
「あ、まって!」
父さんが階段を駆け上がるその後をついていく。13段なんて駆ければすぐだ。まぶしい光に包まれたそこは、見慣れた墓地だった。思わず安どの息が漏れる。心臓もドキドキがすごい。実は怖かったんだよ。
「守が手に入れたスキルはなんだ?」
「俺のは【仏の懐】ってやつ。意味不明」
「そうか。父さんは【速読】だったよ」
「聞くからに戦闘には不向きだね。俺のも人のことは言えないけど」
「守る、時間がない。早くスキルの詳細を調べるんだ」
父さんが階段下をにらんでいる。思わず息を止めれば、カチャカチャという軽い何かがこすれる音が聞こえた。
「まさか、さっきの骨!?」
「ダンジョンだとしたら中にいるのは魔物だけ。ならばあの骨は魔物だろう」
「やばいやばいやばいやばい!」
外に出てきちゃう! なんとかしないと!
俺たちだけじゃなくって、近所の人が魔物に襲われちゃう!
急いで頭に入っているはずのスキルの詳細を調べる。
「えっとなになに……【仏の懐】とは触れたものを三千世界に収納できて容量は無限! ってだめだこれ戦闘向きじゃない!」
ラノベで言うアイテムボックスとかそんなのだ。
試しにその辺に転がってる小石を手に取って収納って念じたら小石が消えて、俺の頭に【収納:小石×1】って情報が流れてきた。
「できた!……けど」
ラノベなら無双確実な超チートスキルだけど戦闘向きじゃないんだよなぁ。
「触れるもの限定か……守、あの骨に触ってスキルを試すんだ」
「ちょ、父さんマジで言ってるの? 本番ぶっつけ!? しかも魔物を!?」
無茶が過ぎる! あなたの息子は勇者じゃないってば!
「時間がない。魔物はあの骨だけじゃないだろ」
父さんの言葉に背筋がヒヤッとした。
船橋ではダンジョンからあふれた魔物がJR船橋駅と京成船橋駅を埋め尽くして乗客をことごとく殺したんだった。母さんもそこで……そのあとに魔物がばらばらに散っちゃって、結局6000人くらいが殺されたんだった。
ってことはかなりの数の魔物がいるはずだ。
やらなければ死ぬだけ。ならやるしかないけど。けど。
「触れなきゃいけないのはハードルたけーよ!」
「そうだな……この竹ぼうきを使ってもダメか?」
父さんが転がっていた竹ぼうきを拾った。俺が掃き掃除で使ってたやつだ。父さんは無言で俺にほうきを押し付けてくる。
父さんのスキルじゃ絶対に無理。ここで逃げても、あふれた魔物に殺されるだけだ。それはダメだ。
「クソ、やるしかないか」
足もとに転がってる小石を竹ぼうきでつついて収納と念じた。シュっと小石が消えて【収納:小石×2】となった。
「できたじゃん! やれる……かもしれない!」
ちょっとだけ光が見えた。と同時に階段下に骨が見えた。頭蓋骨に突起がある。人間ではないようだ。鬼かもしれない。
「守!」
「や、やってみる!」
竹ぼうきを右手に、階段の前に立った。
足がガクブルしてるけど隠してる余裕なんてない。恐怖で右腕も左腕も震えてる。俺が覚悟を決めかねている間も骨が階段を上がってくる。階段は13段。猶予は約13秒。心臓の音がうるさい。
「覚悟決めろオレェェェェ!!!」
ほうきを握りる手に力が入る。すでに魔物の頭蓋骨が見えてる。顎を鳴らして笑ってるように感じた。バカにしやがって!
「うりゃぁぁぁあ!」
全力でほうきを骨に叩きつけ、すかさず収納と念じる。カカと顎を鳴らしていた骨の姿が消え、頭の中に【収納:ゴブリンスケルトン×1】と流れてきた。
「ゴブリンスケルトン!?」