42.狂犬(わん)ちゃんがやってきた③
「お、【聖拳】ってスキルを覚えたぜ?」
「なんで疑問形? でもこれではっきりした」
やっぱりこの子はファイターだわ。
「ところでその【聖拳】ってどんなスキルなの?」
「手に聖なるオーラを纏うんだって。おーし、これでガンガン殴っていけるぜ!」
多賀城さんの手が白い炎に包まれてる。これが【聖拳】スキルっぽい。アンデッドを殴ったら、確かに成仏させちゃいそうな炎だ。
でも、これってアンデッドに触らないとだめでしょ。この子、お化け嫌いだよね。大丈夫かなぁ。
「よっし兄貴! ガンガン行こうぜ!」
「ちょっと待って! どっかのゲームの作戦じゃないけど、それ無謀だから!」
多賀城さんが3階への階段に走ってしまった。リードから脱出したワンちゃんだぞこれ。待てー!
階段を下りてしまった多賀城さんを追いかけて俺も3階へ。
「くそ、なんだこの骨の犬は! どどどどっかいけ!」
墓石に上ってきゃんきゃん吠えてる多賀城さんがいた。丘を見下ろすような3階の墓地には狼骨がうろうろしてる。
「勝手に先走っちゃダメだってば」
「だだだだってよー」
「かわいく口をとがらせてもダメです」
「んだゴルァ、かわいいって言うんじゃねえ!」
「はいはい、罰当たりだから墓石からはおりましょうねー」
「こ、こら、オレをガキ扱いするんじゃねぇ!」
ガキじゃなくて暴走ワンコだね。
彼女の両脇に手を差し込んで強制的に地面におろした。ダンジョンとはいえ墓石なんで。
予想以上に軽くて、ちゃんと食べてるのかなって気になった。
ぐぅぅ~~。
いいタイミングで多賀城さんのおなかが鳴った。多賀城さんの顔が赤くなる。
「あの狼骨を片付けたらおやつにしようか」
「おやつッ!……オレを子ども扱いするなって言ってんだろ!」
「はいはい、おやつの前にあの狼骨も成仏させてほしいな」
狼骨も俺たちに気が付いてて、ガチガチ牙を鳴らしながら近づいてきてる。
「ふははは! オレの拳が吠えるぜ!」
多賀城さんの手が白い炎に包まれた。「いくぜ!」と勇ましく駆け出した。
あれ、骨は怖いんじゃなかったのかな。もしかしておやつパワー?
「オレの唸る鉄拳をくらぇぇぇ!」
唸るって自分で言っちゃうんだ。
突貫した多賀城さんは狼骨の直前でしゃがみ込み「うらぁ!」と気合の乗ったアッパーカットを繰り出す。狼骨はよけることもできずに光に消えた。
「いくぜいくぜ!」
勢いづいた多賀城さんは狼骨を光に変えていく。軽いから動きが速い。
「シャーコラッ!」
1分ほどで狼骨を蹂躙した。興奮したのかほっぺを赤くした多賀城さんが吠えた。【祈り】だったら1秒なんだけどね。
「よし、やっつけだぜ!」
「へへっ」っと鼻の下を指でこすった多賀城さんが歩いてくる。しっぽがあったらぶんぶん振り回してそうな笑顔だ。かわいいんだけど狂犬注意って看板が欲しい子だよ。
3階で上に行くのも面倒だし魔物はやっつけたし、ここでおやつにするか。収納から皿に載ったぼた餅を取り出す。檀家さんからの差し入れで、食べたんだけどまだ5個もある。
ぼた餅とおはぎは同じものだ。季節で言い方を変えるだけでね。春のお彼岸ではぼた餅、秋のお彼岸ではおはぎ。諸説あるけどさ。
「黒いずんだだ」
「あんこだから。立ちながらで悪いけど、食べようか。はいウエットティッシュで手を拭いてね」
「手は、きれいだぞ!」
制服のスカートで手を拭いたでしょ。見えたぞー。
「いうことを聞けない子は、強制的に拭きます」
多賀城さんの手をがしっと掴んでこしこし拭く。拭いてる間もぼたもちに視線はくぎ付けだ。
「はい、きれいになったから食べようか」
「やった! いっただっきやーす! もぐもぐうめぇ!」
ぼたもちを両手に持ってがつがつ食べていく。うーん、欠食児童な気配がするぞー。
ふたつ食べたところで「はらいっぱーだー」とおなかをさすってる。その手はあんこだらけなんですが?
うちに来てる園児と同じだなぁ。お茶を渡せばングング飲んでむせってるし。
ボロボロのジャージといい、この子もいろいろありそうだ。
おやつ食べたらダンジョンを出た。途中でゴブ骨がいて、やっぱり怖がってた。でも【聖拳】スキルを使ったとたん突撃していった。
もしかしたら【聖拳】スキルってアドレナリンでも出すのかも。
夕食と家事がおわり、各自の自由時間。ハンターのヒヨコたちは食堂でだべったりゆっくり風呂につかったり精も根も尽きてもう寝ていたりといろいろだ。
母屋にはギルドの主要メンバーである俺と奥様ふたりと零士くんと父さんが集まっている。葉介さんは帰宅したし北国分さんは業務時間外だし、まだ内部のやばい情報とかには触れさせられない。
零士くんはギルドには入れられない(戸籍がないので)けどもう家族同然だし、師匠だし。
「さて、今日来た多賀城さんについてだけど」
「仙台第一のサーバのデータを確認しました。これです」
京香さんがプリントしたA4用紙をちゃぶ台に置く。
多賀城 京子 18歳
母子家庭で県の補助金でハンターコースに入学した。
補助金の条件は卒業後にはハンターとして魔物を倒し魔石を納入して返済することとなっている。
成績は中の下で、葉子ちゃんとどっこいらしい。
中学の時に貧しさからくるイジメにあい、身を守る手段としてヤンキーになったらしい。
【祈り】スキルで落ち込んだが生活がかかっているので「スキルで魔物が倒せないのならこぶしで倒す」で倒してきたと。
瀬奈さんとよく似た境遇だ。
「多賀城さんはどうでしたか?」
瀬奈さんには多賀城さんの世話という監視をお願いしてる。悪い意味ではなく心配だからで、本人に伝えると反抗しそうだから。
「寮の風呂は拒否してたから部屋の風呂に一緒にはいったけど、予想通りだったわねー。がりがりで、かわいそうなくらいだったわよー。昔のわたしを思い出しちゃったわー。でも膜はあったからウリはしてないみたいで、そこはホッとしたわー」
瀬奈さんの目がちょっとうるんでる。
手足はおろか体もあばら骨が見えちゃうくらい痩せていたそうだ。俺が彼女の手を握った時の感想と同じだ。
しかしですね、一体全体どこを洗ったんですか?
体の隅々をチェックがてらつやつやにしてあげたと、そうですか。それでイキ疲れてすぐに寝たと。
手籠めにしちゃだめですよ?
「母子家庭でお金がなくって食事も満足じゃなくて、下着もくたびれ果てちゃってるからサイズが合いそうな葉子の予備を借りちゃったわー」
瀬奈さんが「買ってあげなくちゃねー」と深いため息をつく。
ケチらないので必要なものは買ってください。
「ここに来るだけでお金を使い果たしてるみたいですし。相当お金には困ってるでしょうね」
「守君、ちらっと聞きましたが、ここでバイトさせるつもりですか?」
「【祈り】スキルを持ってるからちょっと鍛えないとねってのはある。あ、レベル5で【聖拳】って近接格闘スキルをゲットしてたよ」
「あの子はファイター系でしたか。納得です」
境遇と小さい背からくるコンプレックスだろうけど、強気な性格だもんね。
でもこれで聖女3タイプすべてが揃った。まだ日本にはいそうだけどね。
「父さんはよく知らないんだけど、ハンターになる子というのは、このような悲しい境遇の子が多いのかな」
父さんがつぶやいた。




