39.秋田ダンジョン狂騒曲③
顔がガラッと変わって厳しい目つきに変わったおばーちゃん。まぁこんな大雪の日にわざわざ駅から離れてるここに来るのは理由があるからだよね。
「実はですね」
役所の横手という人がこのダンジョンを買い取ってくれと言ってきたけど契約書とかもなくっておかしいんだよねって話をした。
「あいつかー」
おばーちゃんが、肺の酸素を出し尽くさんばかりのため息を吐く。ご存じの様子。
「確かに、市の環境課に横手はいるんさ。あいつはここらの地主のドラ息子でねぇ。コネで役所に入ったんだけど、仕事もできないわ上司の言うことは聞かないわでたらいまわしの挙句に環境課に流されてるやつでねぇ」
「なるほど、扱いに困ってる存在ですか。船橋にもいますね、そんなお局が」
うちの辛辣メイドさんが辛辣だ。
「うちの環境課てのはろくでなしの集まりさ。役に立たないけど訳あってやめさせられない奴らの吹き溜まりなんさ」
うーん、隔離部屋かー。
「横手の坊ちゃんは、付き合ってた彼女をハンターに寝取られてからダンジョン嫌いでね。その恨みがあるんだろうけど、勝手にダンジョンをなくす云々は市の資産を勝手に売却する横領にあたるんだけどねぇ。わかってないんだろうねぇ」
「あの、うちがダンジョンを無くせるって疑問に思わないんですか?」
「あんたらは日比谷ダンジョンをなくしちまったあの獄楽寺のハンターじゃないか。こんなド田舎のギルドだって、新鮮な情報は伝わるのさ」
おばーちゃんがパチっとウインクする。なめちゃダメなおばーちゃんだぞこれ。
ざっくり話しちゃった方が賢明だな。
「そんな話を聞いておかしーなとは思いつつ、本当だったらまずいと考えて秋田に来たんですが、当の本人からの話もいい加減でしてね。じゃあそのダンジョンのギルドに行ってみるか、で来ました」
「ご苦労様だねぇまったく。見ての通り、この時期は雪かきで予算も人員も取られちまうしハンターも雪かきであまり来ないのは事実さ」
「スタンピードはどうなんですか?」
「起きるは起きるさ。でも魔物も寒さには弱いみたいでねぇ、外に出ると動かなくなっちゃうんさ」
「「「「えーー」」」」
声をそろえてびっくり。自然すげー。
「ここの魔物は動物系で、あふれてくるのも小さいやつなんで、外に出ても凍えて動かないんさ。ほら、そこのスコップでバシーンと叩けばすんじまうんさ」
おばーちゃんはカウンターの端っこに置いてある金属製の大きな雪かきスコップを指す。確かにごつくて叩かれたら痛そうだ。軍隊でも最強兵器としてスコップが挙げられてる動画を見たことがある。あれは強いんだ。
「自然が鉄壁ですね」
「だからこんな大雪の日はみーんな雪かきに行ってるのさ」
「あら、いいハンターばっかりなのねー」
「ハンターも副業が多くてね、わりとのんびりしてるのさ。でもダンジョンが無くなったら困っちゃうさ」
おばーちゃんが俺を見る。はい、犯人は俺です。
「困ってないダンジョンに手は出しませんよ。困り果てて連絡を取ってきたダンジョンは撤去しましたけど」
ダンジョンはこのままにするけど、アイツは許しちゃいけないな。仏様も黙っちゃいない。
騙したツケを払ってもらわないと。
「おばーちゃん、横手って奴に騙されたんでお仕置きをしたいんですけど、いい方法ってありますか?」
おばーちゃんはアイツをよく知ってそうだし。
「そうだねぁ。あいつは単純で、自分に有利な状況だと疑わないんさ」
「いやそれうかつすぎでしょ……」
うかつというか、おバカ?
「ではこうしましょうか」
ゴニョゴニョ悪巧みをする。
朝イチでダンジョンに入って踏破するので昼過ぎに確認して欲しいが契約書がなければ話は無効と連絡したら速攻でOKという返信がきた。文面からウキウキが読み取れちゃうくらい単純だ。
「こんなんで来るかなぁ」
「来るはずさ。念には念を入れるかねえ」
おばーちゃんがカウンターに戻ってどこかに電話をかけた。
その頃、秋田市役所近くの喫茶店では、横手とその後輩ふたりが仕事をさぼっていた。
「はっはっは、これで遊ぶ金が手に入る上にうぜぇハンターどももいなくなって一石五鳥くらいじゃねえか? まったく俺が賢すぎて困っちゃうぜ」
うまくいったと横手はご機嫌だ。薄くなった前髪をファサっとやる。
「ハンターなんて馬鹿がやるもんっすよ。俺らみたいな賢い男はそいつらを使うんっすよね!」
「そうそう。俺らは頭脳労働だし」
後輩ふたりが追従する。
「でもよー、いっちょ前に契約書なんて要求しやがって。黙ってダンジョンを買いとりゃいいのに、まったく使えねぇ。やっぱハンターなんざクソだ」
「でもダンジョンをうっぱらっちまって大丈夫なんすか?」
「あぁ? 馬鹿なハンターは何も考えずに他に行くだろ。ちょっとばかりの利益に目がくらんでダンジョンなんてクソを後生大事にしてる市のお偉いさんの目も腐りきってやがるぜ。そんなはした金、俺がちょちょちょいで稼いでやるっての!」
「さすが横手さんっす!」
「ついていきます!」
環境課という、売り上げに貢献することなど絶対にありえない部署のくせに粋がっていた。
「横手さん、そいつと一緒にいたっていう美人もハンターなんすか?」
「俺も見たかったなー」
「おぅ、あのボケにはもったいないくらいの美人だったぜ。胸はちょいとさみしいが、まぁ抱くには関係ないだろ」
「横手さんの賢さにコロッと行くんじゃないすか?」
「はははは、まいったなー。あふれ出る知性は隠せねーかー」
わかりやすくヨイショされて超ご機嫌な横手。
店にはほかに客がいないのでバカ騒ぎも目立つ。店のマスターは眉間にしわを寄せっぱなしだ。
「金が手に入ったらキャバ嬢連れて沖縄にでも行こうぜ」
「いいすねー!」
「お供します!」
「よーしよし、俺に任せとけ!」
皮算用の極致で悦に浸っている3人だった。




