37.国から呼び出された①
日比谷ダンジョン踏破のダイジェスト動画をギルド公式で公開した。零士さんの姿はなるべく映さず、やむを得ない場面はモザイク処理だ。
生音声はカットして辛辣メイドさんによる解説とした。
『ランドドラゴンというよりはランド亀さんですね。もっと小さければ寺でペットにしたいところです。愚か者除けにピッタリでしょう』
『守君、そんな女のおっぱいなどではなく私のなら1日36時間でもオッケーです!』
『ブレスで燃えてしまっていますが炎を纏うご主人様は素敵です』
優しさにあふれた辛口ボイスと好評らしい。なんぞそれ。
ランドドラゴン、ワイバーン、レッド・ブルードラゴン、エキドナとワンちゃん軍団、ボスエリア前の休憩風景、ツインヘッドドラゴンの豪華6本立てだ。ダンジョン側とギルド側の両方から見た踏破の瞬間の映像も添えた。
――ワイバーンがごみのように落ちていく……ありえねぇ
――単独じゃねーじゃん
――ふたりで踏破とか信じられんて
――マジでハンターが追い出されとるw
――日比谷ダンジョンが無くなった現実を見ろw
――エキドナ……エッ……
――エキドナうちのクランに入ってくれないかな
――ケルべロスをワンちゃん呼びw
――オルトロスもいるぞ
――ノーカット版が見たい
――モザイクのハンターって誰だよ
――すげーつえーな
――ドラゴンかっこいい!
――エキドナちゃんをください!
――やらん!
――ダンジョンボスエリア……すげぇ
――ダンジョンボスかっこいいな!
――本当かー?
――ボスエリアを前にして仮眠するやつがいたw
――そんな奴いるわけねーだろ
――そこにおるやろがい
――うまそうに食ってるな
――これがAIでない証拠がない!
――手が込んでるよな
――エキドナってブラもないのにロケットおっぱいじゃん
――その張りがほしい!
――疑うやつは日比谷ダンジョンを見つけてから言え
――日比谷高校が困ってるらしいな
こんなコメントがあった。
おっぱいはツヨイ。魔物なのにねぇ。
12月もそろそろ半ばという10日の日曜日。学校も休みで葉介さんもお休みなのに寺には葉子ちゃんが来てる。
「パイセン! アーシ卒業できナイー」
寮の食堂のテーブルで、葉子ちゃんが突っ伏してわめいてる。横には京香さんと葉介さんがいる。
「葉子、赤点を取らなければ卒業できます」
「そうだよ、ようちゃん。僕も一緒に勉強するから」
「赤点取らないのムーリー」
「高校生最後の試験なので簡単にしているはずです。私の時も簡単でした」
京香さんが宥めるも効果が薄い。なんでこうなっているかというと、ハンターコースは今月にある期末試験が最後の試験となっていて、年明けの1~3月は自分たちでお金を稼いでどこかのダンジョンに行くという課題のみとなっているんだ。
飛行機や新幹線などの乗り方やホテルの予約などを覚えたり、知り合いを増やす目的もある。卒業後にハンターとして生きていくための社会勉強期間なんだ。
で、葉子ちゃんは今までもぎりぎりの成績で、赤点を取りつつも進級してきたらしい。でも今回は赤点は一発不合格で留年なんだとか。厳しい。
「みんなと卒業シタイー」
葉子ちゃんの叫びが食堂に響いた。
そんな日曜日だけど俺は出かけなきゃならない。先日送り付けられた国から招待状の日付が今日なのだよ。
「じゃあ行ってくるねー」
「くれぐれも自重しろよ」
「気を付けてねー」
「行ってらっしゃいませ」
「お土産はヒヨコがいいな!」
軽トラで駅まで行って電車でGOだ。総務省は霞が関にあって、先日踏破した日比谷ダンジョンのご近所だった。
有楽町駅で降りて皇居を眺めながら歩く。快晴の空に石垣が映えてる。
ギルドはまだ動いてるようだけどハンターの姿はほとんど見かけない。
有名な桜田門があって、その向かいに警視庁がある。ニュースとかでよく見る建物だ。悪いことはしてないけど、なんだか背中を丸めたくなるのは俺が小心者だからかな。
その奥に総務省の建物がある。
「んー、古いな」
総務省は古い大きな白いビルだった。窓も四角四面で『真面目やで』って主張してるみたいだ。嘘つきだな。
「深呼吸深呼吸。よし行くか」
自動ドアをくぐれば受付があって、キレイめのおねーさんがふたりいる。作務衣だからかクスクス笑われた。
まずは挨拶だ。
「こんにちはー」
「事前登録はお済でしょうか?」
「え、呼ばれたのにそんなのがいるの。じゃあ帰るよ?」
召喚の手紙を見せたら取り次いでくれた。
金属探知機みたいので体をくまなく調べられたけど、収納を持ってる俺に何の意味が?
エレベーターを乗り継いで通されたのは会議室みたいな部屋だ。長テーブルに少しふかふかの椅子がある。飾りっ気がないので応接室ではないね。まぁ、取り調べとかそんな感じなんだろうし。
対策?
当然してるよ。
なんかしようものならダンジョンを置いてその中に逃げるし。
「来ないねー」
待っててもお茶も出ないから持ってきたほうじ茶の入った水筒を出して飲んで待つ。暖かい飲み物はホッとするよね。ついでにヨモギ餅も食った。
10分くらいしてノックがあり数人の男女が入ってきた。おっさん3人と若い女性がひとり。中年太り3人といかにもシゴデキなオネーサン。ネームタグを首から下げてる。
作務衣の袖にスマホを出し、手探りで京香さんに電話をかける。リアルタイムで音声を配信してやるのさ。
「初めまして、総務省迷宮局の赤坂です」
「同じく乃木坂です」
「道玄坂です」
「青山です」
「獄楽寺ギルド長の坂場です」
名刺交換もしないまま着席となった。まともに話し合うつもりはないんだろうなぁ。そっちがそうならこっちも鏡のように反射するだけさ。




