34.後始末④
寺へ戻るのに電車だと人の目も多そうなので東京駅から高速バスで帰った。あまり混んでないから快適だ。
「おかえりー」
「おかえりなさいませ」
バスが到着する東金の駅には瀬奈さんと京香さんが迎えに来てくれてた。軽だと乗り切れないのでハイエースでだ。寺までは俺が運転しよう。
「あああの、北国分と申しますすすす!」
「配信見てたから知ってるわよー。旧姓勝浦瀬奈。瀬奈って呼んでねー」
「同じく旧姓小湊京香です。京香とお呼びいただければ」
「よよよろしくおねがいしまぁす……ふたりとも美人さんだぁ……私みたいな日陰女がいてもいいんでしょうか……」
北国分さんは猫背をさらに猫背にして恐縮至極となっている。鑑定しているときは生き生きしてるのに普段はこうみたい。まぁ個性だから見守ろうね。
「寺について落ち着いたら契約書を交わしましょう」
「はははい!」
車内で簡単な自己紹介までしておく。俺と智たちは高速バスの中でやったからね。
寺の駐車場に滑りこめば本堂が見える。無事に帰ってきたんだとホッとする。
ちょうど幼稚園の退園時間だからか、バスとすれ違った。園児にばいばーいって手を振られた。ほっこりするね。
母屋に入って寮へ向かう。一休みをしたいところだけどまずは那覇さんに礼を言わねば。
寮の食堂兼休憩室には黄金騎士団の皆さんが揃ってて、珈琲などを飲んでてまったりしていた。
「ただいま帰りました」
「お、大将の帰還だ」
那覇さんにからかわれた。
「大将ではなく坊主ですが。留守中のダンジョン対応、ありがとうございます」
深々と頭を下げた。彼らがいなかったらとてもじゃないけどこんなことはできてない。
「頭を上げてくれ。僕らは大したことはしてない。スタンピードっぽいものもあったけど、せいぜいオーガくらいの強さだったよ」
「あぁ、やっぱり発生してましたか……」
「うちの1軍には物足りないくらいだったから墓地ダンジョンの4階で対魔法戦の訓練をさせてもらった。5階にも行ってみたけど5分で撤退したよ。あの数は厳しいね。こちらこそ貴重な経験をありがとう」
「守君、戦利品の確認をしたいのですが」
那覇さんと話していると京香さんが割り込んできた。割って入るなんて珍しい。理由がありそうなので従っておく。
「収納しているドロップ品を読み上げてください」
京香さんがテーブルにノートPCを置く。聞きながら【速記】スキルで入力していくんだろう。
リザルトをまとめておいてよかった。
「じゃあ行くよ――」
雑魚のオオトカゲの魔石と数量からざざざっと読み上げていく。サンプルとして各種1個は出していく。
日比谷では隠していた【自己治癒】のスキル書とダンジョンボスのブレススキル書も開陳する。もちろん【日比谷ダンジョンマスター】のスキル書もだ。
述べていくにつれて京香さんの顔が虚無になっていく。
「……多すぎます。魔石だけでも1000を超えてるじゃないですか」
「だって、俺が収納すればドロップ品がわかるからって、師匠がほとんどの魔物を俺に振ってくるんだもん」
「色々突っ込みたいブツがあって私も困惑していますが、特に【ダンジョンマスター】のスキル書ってなんでしょうか?」
「あれ? 鑑定でもわからない?」
「名前はわかりましたが、それが何であるかまでわかりませんでした。あとでギルドのデータサーバを探してみます」
京香さんが疲れた顔でノートPCを閉じた。胎教にわるいよね、ごめんね。
「……僕らが聞いてもよかったのかい?」
那覇さんがひどく困惑した顔をしている。1軍さんもポカーンとしてる人が多い。
まぁレアなものばっかりだろうし初物もあるっぽいしね。
俺としては、今回は迷惑をかけてるし、今後もこっちの味方にしておきたいんだ。
こんな時は賄賂だよね。
テーブルに【ヒール】の魔法書×1、【自己治癒】のスキル書×1、ランドドラゴンのハム50キロ、ワイバーンの肉10キロを取り出す。
「これ、土産です」
肉と一緒に魔法書とスキル書を那覇さんに押し付けた。
「は? こ、これは?」
「【ヒール】の魔法書と【自己治癒】のスキル書です。ハムとお肉もどうぞ」
「坂場君、ちょっとまってくれ! 僕らは契約を結んで正当な報酬を受け取っている。それに加えて普段はできない魔法戦や大集団との戦闘の訓練もできたんだ。十分すぎるほどもらっている!」
「えっと、賄賂です」
「賄賂って……」
那覇さんが助けを求めるように京香さんを見る。
「【ヒール】の魔法書はおそらく1000万ほどでしょう。【自己治癒】のスキル書は聞いたことがないのですが名前から察するに3000万はするかと。ランドドラゴンのハムはキロ2万円、ワイバーンの肉はキロ20万円です」
「いや値段を聞きたいんじゃなくってというか聞きたくなかったよ! なんだいその額は!」
那覇さんが頭を抱えてしまった。1軍さんらもついていけなくって宇宙猫になってる。
「今後もご迷惑をおかけすると思います」
「ダンジョン踏破をするってことかい?」
「大きなダンジョンの踏破はわかりませんが、個人の敷地にできてしまった小さなダンジョンで苦しんでいる零細ギルドの助けにはいくつもりです」
「なるほど、そっちか」
「大きなギルドは不正とかしてなければ関わるつもりはないけど苦しんでいる個人には手を差し延べたい」
国から出頭せよって来てるのもあるしね。
「ということなのでお納めいただきたく」
「……はぁ、仕方ない」
「ありがとうございます」
「そのセリフは僕のだと思うんだよね」
那覇さんが苦笑した。




