4.ギルド開設②
さて、嘆いていても仕方なし。このストーンサークルがなんなのか調べないと。あと、下へ行く階段があるかどうか。なければハッピーだけど。
「あるよねー、知ってた」
ワイト君がいたすぐ後ろにあったわ。
『スキル【説法】を得ました』
おっとレベルが10になったから新しいスキルをゲットしたのか。
「でもまぁ、【説法】って……まーたユニークスキルかーい!」
寺か? 寺だからか?
えっと詳細は……対象に、抗えない絶対の眠気を与える。
「わーい、まさに説法だー。って嬉しくないわ! 父さんだって説法する内容に頭を痛めてるんだぞ! みんな退屈そうな顔するから!」
くそう、馬鹿にされてる。
なお、今の俺だ。
坂場守
レベル:10
スキル【仏の懐】【師走】【説法】
熟練度:1
ワースゴイナー、モウイチニンマエダー。
「よし、気を取り直そう。収納した魔法はどうすりゃいいんだろ。経験値にはならないみたいだし。取り出せばわかるかな。えい」
傘を閉じてダンジョンの土塀に向ける。ファイヤーボールを取り出すと、傘の先端からボシュっと飛び出た。シューっと飛んで土塀に当たって爆発した。爆発の熱で顔が熱い!
「いやいやいやいや、うちの軽トラよりもでかい爆発なんですけど! こんなやべーの人に向かって撃つなや!」
こんな物騒なのが後10発もあるんですけど!
「ファイヤーボールでこれだとカースはどうなるんだ? 気軽に取り出せねーじゃん!」
呪いって、まぁデバフ効果だよな。
魔法やべぇ。やべえよ……ちなみに在庫だけど。
【魔法ファイヤーボール×10】【魔法カース×15】
「地上で間違って取り出しちゃったら逮捕もんだな。いや、ハンターが犯罪起こしたら重罪なんだった。逮捕どころじゃねーや」
もう帰る!
獄楽寺を出た小湊と勝浦はそのまま船橋へ向かっていた。休暇とはいえことは急ぐ。
職員用の駐車場に車を止めギルドに入る。もちろん職員用の裏口からだ。
雑多なもので狭くなっている通路を歩きエレベーターで3階へ。すれ違う職員に挨拶しながら歩く。挨拶は世を渡り歩きやすくするためのツールだ。
小湊は貴重な鑑定系のスキルを持っているがために受付嬢は副ギルド長が直属の上司になっている。
ギルドの事務所はフロアをアルミのパーテーションで区切り、大部屋と会議室などの小部屋に分けている。ふたりが訪れたのはその小部屋群の中でも大きめな部屋だ。
小湊が軽くノックする。
「小湊です」
「……おや、あんたは休みだったんじゃないかったっけ?」
「ちょっと至急にお伝えしたいことができまして」
「至急ねぇ。まぁはいんな」
許可が出たの二人は部屋に入る。部屋は棚に囲まれていて窓がない。棚には本や雑誌が詰め込まれている。部屋の奥には大きな執務デスクがあり、恰幅の良いおばさんが座っていた。船橋ギルド副ギルド長の大多喜恋だ。
「おやおやふたり揃ってデートだったのかい?」
ポテチの袋に手を突っ込んだ大多喜が問う。デスクの上は書類とお菓子が半々だった。
「瀬奈先輩は頼れるおじさん的存在ですが恋愛対象ではありません」
「あら、もっと頼ってくれてもいいのよー?」
「デートするなら男性がいい」
「振られちゃったわー」
およよと勝浦が手で目元を隠す。
「はいはい、漫才はそこまでにおし。そこに座りな。で、何が至急なんだい?」
今度はせんべいの袋を開けた大多喜が袋の空き口を差し出した。食えということだ。これから話すのに食えとは。
「九十九里に新しいダンジョンが発生したようです」
「おやおや、のっぴきならない話だねぇ。講習でおかしな奴を見つけたのかい?」
大多喜が問うと小湊は小さく頷いた。大多喜は、お菓子の食べ過ぎで恰幅がよくなってしまっただけのおばさんではない。ただのおばさんに組織の副は務まりはしない。
「レベル9、ユニークスキル所持、墓地ダンジョン」
「そりゃ数え役満だね。レベルが9ってことはスタンピードは抑えられてるみたいだね。それにしても墓地ダンジョンかい。厄介なものが出てきちゃったもんさ」
大多喜はデスクに埋め込んでいる小型冷凍庫からかき氷アイスを取り出す。「頭を冷やして考えないとね」なんて言い訳を垂れ流しながら四口ほどで食べきった。
「場所はどこなんだい?」
「東金の先で寺の墓地に」
「管理はどうなってる?」
「住職の息子がスキルを得て魔物を倒してる」
「ユニークスキルと言ってたね。勝浦から見てどうだった?」
「ずるいとしか思えなかったねー。あれはずるいー」
「なるほど、きなこ棒にアタリは入ってないって知ったくらいのショックだってことかい。ダンジョンはいつからできてたんだい? レベルが9となれば昨年とかかい?」
「十日前くらいだって言ってましたー」
「十日!? ありえない!」
「彼の知識から推測すると、それもおかしくない感じねー」
「ふぅ、信じられないねぇ」
ふたりの報告を聞いた大多喜はデスクの引き出しから羊羹を取り出し「甘いもので頭をしゃっきりさせないとねぇ」といいつつむしゃりとかぶりつく。
「野良ダンジョンならゲートはないはずだね」
「墓地ゆえに設置するスペースに問題あり」
「費用的な問題もあるわねー」
「費用はどうとでもなるけどスペースはこっちではどうにもできないねえ」
さてどうしたものかと呟いた大多喜は羊羹の最後の欠片を口に放り込んだ。
「ゲートは後にしようかね。入退出の記録は紙でもできる。管理体制が先だね」
「先方、獄楽寺としては管理するつもりのようです」
「ありがたいことだね。ま、法律で定められてるし致し方ないところ。問題はそこが墓地ダンジョンってことさ。墓地ダンジョンは他のダンジョン内で倒された魔物が流れ着くダンジョンと聞いてる。日本各地で起きたスタンピードの魔物たちの成れの果てが大量に湧くはずさ」
大多喜が追加のオヤツとして大きなシュークリームを取り出した。ふたりにも差し出す。
「で、何がでた?」
「魔物のスケルトン」
「マッドベア、ダイアウルフのスケルトンまで出てるみたいですー」
「マッドベアかい。ランク12の魔物だね。それのスケルトンが同じ強さかはわからないけど、それを倒せるならレベル9も納得できるさね」
大多喜はシュークリームを平らげた後にバームクーヘンを取り出した。
「でも、ギルドを立ち上げるのは急務だね。先方の人員はどうなんだい?」
「父子家庭で父親は住職兼幼稚園の園長さん」
「母親は船橋スタンピードの犠牲になってたわ」
「……そうかい。それならこっちから人を送るしかないね」
大多喜がバームクーヘンを食べ終わると同時に小湊と勝浦が手を挙げる。
「珍しいじゃないか。その坊やはそんなに魅力的なスキル持ちかい?」
大多喜は驚いた顔でふたりを見た。うんうんと頷くふたり。どこに耳があるかわからないので言葉にはしない
「わかったよ、異動の手続きはアタシがやっとく。明日にでもアタシがいって話をつけてこようかねえ」
大多喜は煎餅の袋を取り出しつつ、頭の中で明日の段取りを始めた。




