2.ハンター講習⑤
「ユニークスキルは、いわゆるチートスキルばかり。現在日本では10人のユニークスキルホルダーがいるけど、どれも規格外なハンター」
おっと、公式にチートとか言ってるぞ。これってばれたらやべーやつなんじゃね?
確かに、【師走】もスキル詳細を見ていくと「壁も走れます、頑張れば天井もいけます、やる気の問題です」とかアタオカな説明があるんだよ。うん、チートや。
ダンジョン隠しと合わせて「逮捕です」とか言われそう。胃が痛い。今すぐ帰りたくなってきた。
「スキルはレベルが5の倍数になったときにも覚えます。最初のスキルが残念だからと言って悲観する必要はない。希望はある」
それ知ってる。レベルがひとつ上がるとまたスキルが増えるんだよね。楽しみだ。流石に普通のスキルだと思うけど。
「最後の熟練度。これはどれだけの期間ハンターとして活動しているかの指標。ハンターになりたては1ですが、おおよそ1年で2になる。熟練度が上がるのも個人差はある。とはいえ速い人でも10か月はかかる。この熟練度もハンターとしての強さに影響を及ぼすことが分かってる」
熟練度は1年で1上がる感じか。経験年数ってイメージだな。確かに「わたくし経験7年の中堅です」とかあるもんな。知らんけど。
「ハンターはランク分けされます。これは、ダンジョンごとに難易度があり、その難易度に見合った強さでないと入れなくするためのもの。ランクの数値が高いほど強力なハンターであるとされる。ランクの数値はギルドで管理され、全国ランキングに反映されます」
ランク分けにランキングか。ダンジョンにも難易度があるって知らなかったな。うちのダンジョンはどうなんだろ。骨しか見てないからなんともだけど、簡単なダンジョンだと良いなぁ。
「なお、ランクはレベル×熟練度で算出される。現在日本でトップは300を超えています」
へぇ、経験年数も加味されるって感じなのね。レベルだけで判断しないってのは好感持てる。
トップは300越え。レベル30で経験10年とかかな。そういえば強い人のレベルとか知らないけどいくつくらいなんだろ。
「さて皆さんが気になっている魔法についてです。魔法は誰でも使えますが、使うためには魔法書を手に入れる必要があります。地下迷宮管理事務所でも販売していますが、一番安いファイアの魔法書で50万から。無計画に買うのはお勧めしない」
「うわたっか!」
「……お静かに」
思わず叫んじゃった。小湊先生、睨まないでください。黙ってますハイ。
「……魔法書はダンジョンから極まれにドロップします。ソシャゲでいう激レア枠、つまりSSR」
無事にスルーしてもらえたようだ。心臓に悪い講習である。というかソシャゲになぞらえられても困る。無課金主義者の俺にとってSSRは神だぞ。つまり、魔法は神。ワカリヤスイネ。
「その中でもURと言える蘇生魔法書は10億円を超える。もし見つけた時は地下迷宮管理事務所へ知らせて。お願い」
うぉ、蘇生魔法とかあるのか。おっそろしいな。墓地のダンジョンからは骨しか出てこないし、俺が見つけるとは思えないな。
「さてハンターの能力について説明してきたけど、質問はありますか? 無ければこれで講習は終わり。この後はダンジョンに入ってスキルを授かる体験に移りますが、希望者のみで大丈夫」
小湊先生は俺を見ながらそう言った。
俺が何かしましたか? 心当たりはないのですが。
やばい汗が止まらない。
講習後、ダンジョン体験を申し込んだ。ほかのダンジョンがどんなものなのか知らないし。特に、うちのダンジョンが特殊すぎる気がしてるのもある。
案内されたのは、建物の地下1階にあるギルドの待合所。ここにダンジョンへの階段がある。その前には駅の自動改札みたいなレーンが4つ並んでる。あそこでハンターの出入りを管理しているそうだ。一定期間出てこないハンターが出ると捜索隊が結成されるとのこと。生々しい。
「広い階段だ」
ロビーのど真ん中にある階段は、横に8人は並んでラインダンスができそうだった。具体的には10メートル。センターラインがある道路くらいだ。
広い階段があるってことは一度に通れる魔物の数も多いわけで。
「だから船橋駅スタンピードは被害がすごかったのか」
胸が詰まる。
うちのダンジョンからは絶対に出さない。母さんみたいな人は出しちゃいけない。
「さて、これがダンジョンの入り口でーす。あ、案内はわたくし勝浦瀬奈が勤めまーす。23歳独身、お金持ちの王子様をお待ちしておりまーす」
案内してくれたのは受付で会話したふんわり巨乳お姉さんだ。勝浦さんというのか。
ふわふわなセミロングの髪で愛嬌抜群で初見でも好感度が爆あがりしそうな、可愛い系の女の人だ。ダンジョンに入るということでライダースーツめいたぴっちりなお姿だけどスカートも履いているという大変目の保養である。色々デカエロイ。
ただし、この場にいるのは俺とあのスリーJKだけだ。残念ながら王子さまはいない。
「勝浦先輩カッコいいよねー」
「イカス」
「オッパイおっきい!」
3JKが熱いまなざしで勝浦さんを見てる。JKの先輩、ということは勝浦さんも市船の卒業生なのか。頭がよさそうだな。
「今日は階段を降りたところまでですよー。そこでスキルを得ることになりまーす」
「やっとだね」
「スキルゲットだ!」
「アガル!」
JKは嬉しそうだ。俺は、すでにダンジョンに入っちゃってスキルはゲットしているうえにレベルまで上がっちゃってて申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。怪しまれないようにカバーストーリーを考えておかないと。
「さーいきますよー」
園児を引率するかのような掛け声に脱力しつつも後をついて自動改札を抜けていく。本来であればここでハンター証をかざして入るとのことだが俺たちはまだハンター証を貰ってないから特別だ。
勝浦さんのあとをついて広い階段を下りていく。この階段も石階段だ。段数を数えながら下についた。14段だったぜ。チクセウ。
「はーい、ここが船橋駅ダンジョンですよー。このダンジョンはフィールド型と言って、なぜだか外のような環境になっていまーす」
勝浦さんの説明通り、俺の目の前には草原が広がってる。しかも、地平線まで見えるくらいの平原だ。木も生えてねえガチ平原。土塀もないし、どこまで広いんだろう。
空には太陽もあって、しかも抜けるような青空と吹き抜ける爽やかな風で、ここに住んでもいいかもって思っちゃった。
うん、うちのダンジョンがひどすぎる件。墓地だぞ、墓地。見慣れてるけどさ。
「うわっ!」
「オオ?」
「うーん、なんだろこれ……」
にわかにJKが騒ぎ出した。
「無事にスキルを得たようですねー」
勝浦さんの言葉に我に返った。俺もスキルを得た風にしないと!
「ア、オレモ、スキルヲゲットダゼ」
ちょっぴり戸惑い感も出しました。いかがでしょうか。
「うんうん、4人ともスキルを手に入れたようですねー。じゃあダンジョンを出ましょうー」
勝浦さんはそそくさと階段を上がってしまう。3JKもてくてくあとをついていく。
「もう少しダンジョンを見ていたいんだけどな」
これが普通なんだろうから、標準を知っておきたい。平原に目を移すと、遠くのほうに人影が見えた。さっきは気が付かなかったけどたぶんハンターだな。何か棒のようなものを振り回してる。魔物と戦っているのかもしれない。
「どんな奴なんだか。少なくとも骨じゃないだろうしな」
「船橋ダンジョンの1階は角ウサギしか出ないんですよー」
「うぉわぁぁぁ!!」
耳元で勝浦さんの声がして、思いっきり飛び上がってしまった。恥ずかしい。
「ついてこない子はメッ! ですよー」
「アイダッ」
ペシンとデコピンを食らった。めっちゃイテェ!
「はい、おててをつなぎましょうねー」
「え、ちょっと、おわっ!」
手をつかまれ、すごい力で引っ張られた。抗うこともできず階段まで引きずられ、そのまま地上へ連行されてしまった。細い腕のどこにそんな力が。もしかして勝浦さんもハンターなの? この馬鹿力はスキルとしか思えない。
階段を登りきったところに3JKがいて、補導された俺を見てゲラゲラ笑ってる。
「だっさー」
「ナイワー」
「先輩と手繋ぎ……いいな」
おっと変な声も聞こえたぞ?
「はい、これにてハンター講習は終了でーす。あっちの受付でハンター証を渡しますので、なくさないようにしてくださいねー」
勝浦さんによる閉会宣言がなされた。
指示された受付に行ってハンター証をもらった。クレジットカードくらいの大きさの金属プレートだ。色は銀。材質は不明。俺の名前が漢字で打刻されてた。ICチップでも埋まってるのか。なくさないようにしないと。ケースに入れて首から下げるのが無難かな。
「よし。怪しまれる前にさっさと帰ろう」
これから遊びに行くであろうJKをしり目に俺は撤退するのだ。