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1.ダンジョン発生①

こんにちはこんばんは。新しく連載を始めました。

「みんなで幸せになろうよ」

がコンセプトです。

初日なので5話投入します。

後は毎日8時更新予定です。

 獄楽寺の朝は早い。特にうちみたいな家族経営な零細寺はね。

 大学へ行く前の墓地掃除が坂場守、つまり俺の役目だ。大きさは野球グラウンドよりも小さい墓地だけど木が多くて落ち葉には事欠かない。毎日の掃除が大事なんだぜ。

 これから暑くなる時期だけど、作務衣に袖を通せば身も心もビシっと引き締まる。


「さて掃除だ」


 今日も日課の墓地掃除をしていると墓地の最奥に古ぼけた階段を見つけた。地下へ行けるようだけど。


「この家に生まれて20年だけどこんなところに階段があった記憶はないね」


 そもそもふつうの墓地に地下へ行く階段なんてないし。

 階段は石造りで苔むしてる。庭にあったら詫びさびが漂う味わい深い岩になったろうなってくらい使われた形跡がないってことだ。

 階段の両側が壁で篝火が設置されて燃え盛っててわかりやすくウェルカムされてるのがわかる。階段の勾配がきつくて降りた先がさっぱりわからない。


「どう考えても怪しすぎる」


 俺には思い当たる節が……あった!


「ま、まさかダンジョン!?」


 10年前くらいから前から日本のみならず世界各地に謎の階段が出現して、その先には魔物が徘徊してる空間が広がってるって騒ぎになってた。ダンジョン型ゲームになぞらえて、ダンジョンって言われるようになった。


「ダンジョンだったら、まずい!」


 俺は本堂に走った。


「大変だ! 墓地にダンジョンができてる!」

「ダンジョン?」


 本堂で仏像を磨いていた父さんが胡乱な顔で振り返った。まだ40代だけど白髪が目立つ。苦労してるからね。

 うちは零細寺だけど本堂が大きくて仏像も立派なのが自慢だ。由緒はあるらしい。


「墓地を掃除してたらあるはずのない階段があったんだ!」

「階段……確認する必要があるな」


 俺は父さんを連れて墓地の最奥に戻った。やっぱり石階段がある。


「なんと……」


 父さんが膝から崩れた。


「どうしてうちに……幼稚園と檀家にどうやって説明すれば……」


 ダンジョン=危険は常識となっている。10年前に船橋駅前ダンジョンが発生したばかりの頃、内部に徘徊している魔物があふれて多数の死者が出た事件があった。船橋スタンピードって事件だ。

 俺の母さんは、たまたま船橋に買い物にいている最中に巻き込まれ、いまも行方不明だ。おそらく生きてはいないんだろうけど、俺も父さんも帰宅を待っている。

 そんな事件は全国で頻繁に起きていた。


「ダンジョンができちゃうとみんなそこを避けて通るようになるし、引越しをする家庭も出てくる」


 獄楽寺には幼稚園が併設されていて、園児が15人いる。結構田舎なこのあたりは共稼ぎも少なくて保育園もない。うちが近隣の幼子を一手に引き受けてた。


「園児の引受先もないし、園児がいなくなってしまったら保育士たちが路頭に迷ってしまう」

「檀家さんだって墓を移しちゃうかもしれないし」

「「由々しき事態だ」」


 俺と父さんの意見は合致した。

 なにより、母さんを行方不明にしたダンジョンがうちにできたことが許せない。


「ダンジョンができてしまったら、ハンターを呼ぶしかないな」


 父さんは腕を組んで唸る。

 ダンジョンに人がはいると、なぜだかスキルというものを得る。そのスキルのほとんどが【剣術】【身体強化】【探知】など、魔物と戦うためのスキルだった。

 そんなスキルを得てダンジョン内で魔物と戦う人たちのことをハンターと呼ぶようになった。ダンジョン内の魔物が定期的に爆増することがあって、その可能性を減らすためにも日々の間引きが必要なんだ。

 ダンジョンにはハンターしか入ることはできない決まりになっている。もっともスキルを得るためにはダンジョンに入る必要があるので、ハンターになるための資格試験もできた。

 死と隣り合わせの傭兵みたいな仕事だけど収入が凄く良いのでハンターを目指す人は多い。


「ダンジョンをどうにかするにはハンターが必要だけど、依頼をするってことはダンジョンがあるということのカミングアウトと同じだよ」

「わかってる。そうなれば寺は立ち行かなくなるだろう」


 父さんの表情は厳しい。


「だんまりにするの?」

「いや、公開はする。するが、そうするとうち、ひいては獄楽寺にこのダンジョンの管理義務が発生するんだ。だがうちにはそんな余裕はない」

「確かに……うちの家計が苦しいのは知ってる」


 寺の経営ってきついんだ。最近だと墓を持たない人も増えててさ。檀家さんは減る一方だし。幼稚園も併設してるけど少子化で園児も減ってるし。

 獄楽寺は俺と父さんのふたりで切り盛りしてる。男ふたりなら寺を廃寺にしても生活はできるだろう。一応寺を継ぐため予定ではあったけど。


「でも、魔物があふれるよりはましだよ。母さんのような人をこれ以上増やしちゃだめだ」

「そうだ、守の言うとおりだ」

「急いでハンターを呼ばないと!」


 俺が駆けだそうとすると、父さんに腕を掴まれた。


「守、試しに階段を下りてみよう」

「は? なに言ってんの父さん!」

「このままハンターを呼んでも来るのは早くても明日だろう。その間に何か起こっても対処するのは父さんと守だ。だったらふたりで入って何かスキルを得られるかを試そうかなと思ってな」

「つまり、俺たちがハンターになってみるってこと?」

「寺が無くなった後の食い扶持も考えないとな」


 つまるところ、試すだけなら無料ってことか。ずぶといな親父殿。


「守、入るといっても階段を下りてスキルを授かったら即脱出するぞ」

「様子見もなし?」

「魔物がいるかどうかの確認くらいはする」

「まぁそれくらいしかできないか」

「急がば回れだぞ、守」


 俺たちは揃って作務衣の襟を整える。それだけで気合が入るってもんだ。


「よーし、手をつないでダンジョンに入るぞ」

「父さん怖いのかよ」

「当たり前だ、怖いに決まってる。ダンジョンに仏様はいないらしいからな、死んでも成仏できんぞ」

「それはやだな」


 すがるものすらないってのは怖すぎる。

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