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パリの中の狼たち  作者: C.Alias
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第1話 : 雪の上の血

1417年。数人の男たちがパリの地下トンネルを進んでいる。

たいまつを持った二人の兵士が、五人のジプシーと14歳のジプシーの少女ニラを護衛している。

30代のジプシーの一人、カミルはニラの父であり、彼女の手を握っている。



カミル

王の発作はいつから始まったんだ?


兵士

それは女王にお尋ねください。



抜け道の扉を通って、ジプシーの一行はサン=ポル館の廊下に入る。

その贅沢な空間に、彼らの服装や衛生状態がまったくそぐわないことに皆が気づくが、目を奪われている。

40歳を少し過ぎた女性が廊下に現れる。

衛兵たちはお辞儀をし、ジプシーたちに冷たい視線を投げる。ジプシーたちは何が起きているのか分からず戸惑っている。



イザボー王妃

お前たちの一族の長は誰?


カミルが前に出る。


イザボー王妃

よろしい。ついてきなさい。



カミルはためらった後、女王の後を追って前へ進む。

2人の衛兵が残りの一行を応接室へと案内する。

ニラはひそかに父の後を追う。



カミル

なぜ私たちを呼んだのですか?


イザボー王妃

私の使者がはっきり伝えたと思っていましたが…


カミル

はい…ですが、なぜ私たちなのですか?


イザボー王妃

信頼できる人物が、あなたの薬術を推薦したのです。


彼らは大きく荘厳な扉の前で立ち止まる。


イザボー王妃

この部屋で起こることは秘密にしなければなりません。よろしいですね?


カミルはうなずく。

女王は扉を開ける。

カミルと女王は部屋に入り、扉が閉まる。

ニラは遠くからその様子を見ている。

すると突然…



「シーッ…!」



ニラは振り返る。

少し離れた壁の陰から、14歳くらいの少年が彼女に合図をしている。

ニラは不思議に思いながらも、彼について隣の部屋へ入る。

少年はバルコニーの窓を開ける。



少年

何が起きているか、知りたい?


ニラが近づく。

バルコニーはかなり高い。

王子のような服を着た少年がバルコニーに上がり、隣のバルコニーへ飛び移る。

ニラは驚き、少し不安げだ。



少年

早くして!



ニラはためらいながらも、思い切って跳ぶ。

少年がなんとか彼女を受け止める。

もう一つのバルコニーに着くと、ニラと少年は窓の両脇に身を隠し、中の様子を伺う。

部屋には数人の人物がいる。



ニラ

あの人たちは誰?


少年

あの女性はイザボー王妃だよ。隣にいるのは、王の妹のカトリーヌ。

ここにいる男はパリのプルヴォ(長官)で、ベッドに横たわっているのがシャルル6世王だ。



王の部屋の中では、カミルが病に倒れた王の様子をじっと見ている。

彼は王の首にかかっている指輪を調べるために近づく。

カミルは何かを話しているが、その会話は外まで聞こえない。



ニラ

病気なの?


少年

うん、もうずっと長い間ね…たくさんの医者が治そうとしたけど。


ニラ

何の病気?


少年

誰にもわからない…彼には「見える」んだ。



ニラはその言葉に興味をひかれる。



ニラ

何が見えるの?



突然、部屋の中から声が上がる。

イザボー王妃がカトリーヌに対して怒っているようだ。

プルヴォ(長官)は女王をなだめようとするが、女王は大きな身振りで、全員に部屋を出るよう命じているように見える。

皆、その命令に従って退室する。

ニラと少年は急いで元の場所へ戻る。

中に戻ると、彼らは急いで窓を閉める。

すると、執事長に見つかってしまう。



執事長

若き王子様!どこに行っていたのですか!


シャルル七世

失礼。お客様にお城を案内していたのです。


執事長

もう夕食の時間です。さあ、いらっしゃい。



少年は執事長と共に部屋を出て行く。

出ていく前に、ニラの方を見て、別れの視線を送る。

カミルが廊下に戻ってきたとき、娘の姿を見つける。



カミル

ニラ?ここで何をしてるんだ?さあ、行こう。



ニラはうなずき、父についていく。



***


ジプシーの一団は、雪に覆われた田舎道を進んでいた。

全員が馬に乗っている。ニラは父カミルと同じ馬に乗っている。



ジプシー

カミル…出発してからずっと黙ったままだな…


ジプシー

ああ、本当だ…何があったか話してくれよ…


カミル

王に、私には何もできなかった…



カミルは多くを語らず、沈黙している。

何かに心を悩ませている様子だ。

彼は首から下げていた指輪付きのチェーンを外す。



カミル

ニラ、この指輪を受け取ってくれ。指にはめて、絶対に外してはいけない。


ニラ

どうして私にくれるの?


カミル

今こそ、お前が持つべき時が来た。



ニラはネックレスを首にかけようとするが、カミルが彼女の腕をつかむ。



カミル

指輪は指につけるんだ。絶対に外してはいけない。約束してくれ。



ニラは驚く。

そのとき突然、騎馬隊の一団が彼らに向かって全速力で近づいてくる。



ジプシー

おいカミル!あいつら、何の用だと思う?



ジプシーたちは驚いて立ち止まる。カミルは様子をうかがう。

騎馬隊はどんどん近づき、兵士たちは剣を抜く。



ジプシー

カミル、お前、通行証もらったのか?



カミルは答えず、内心で動揺している。



ジプシー

カミル!何が起きてるんだ?!


カミル

逃げろ!今すぐ逃げるんだ!



ジプシーたちは馬に命じて全速力で走り出す。

近くの森へと逃げ込む。

突然、カミルは馬を止める。

ニラを馬から無理やり降ろす。



カミル

走れ!止まらずに走り続けるんだ!


ニラ

パパ!待って、何してるの?!



カミルは彼女に選択肢を与えず、馬は仲間とともに走り去る。

ニラはその姿を見送る。

襲撃者たちが近づいてくる。

ニラは森の中へ走り出す。

騎馬隊はジプシーたちを追いかけていく。



騎兵

あっちだ!あの子を見た!



2人の騎兵が森の中でニラを追いかける。


ニラは走っている。

突然、遠くから叫び声が聞こえてくる。

ニラは恐怖で立ち止まり、誰の声か分からず戸惑う。もしかしたら、それは父親の声かもしれない。

ニラを追っていた騎兵たちが近づいてくる。

ニラは周囲を見回し、倒れた枯れ木を見つける。彼女はその後ろに隠れた。

静寂が広がる中、再び遠くから叫び声が響く。

ニラは怯えて口を手でふさぎ、音を立てないようにする。

2人の騎兵が到着する。

そのうちの1人が馬を降りる。

彼は雪の中にあるニラの足跡を見つけた。

ゆっくりと幹の近くへと進んでいく。

ニラは目を閉じ、音を立てないように必死で集中する。

その瞬間、背後から誰かの手が彼女をつかむ。



兵士

こっちへ来い、可愛い子猫ちゃん!



ニラは叫び、兵士の指に噛みつく。兵士は驚いて手を離す。



兵士

ああっ!このクソガキが!



ニラは勢いよく走り出し、今までで一番速く走る。



兵士

早く!捕まえろ!



馬に乗った襲撃者がニラを追いかける。

そのとき、地面にいた兵士が突然苦痛の叫び声をあげる。

騎兵は馬を止める。



兵士

ピエール!



返事はない。

騎兵は迷う。仲間のもとへ戻るべきか、それともニラを追うべきか。

ニラは後ろを振り返らず、ひたすら走り続ける。

息が切れ、雪に足を取られてスピードが落ちる。

騎兵が追いつき、彼女の頭に一撃を加える。

ニラは倒れる。頭を打って意識が朦朧とするが、必死に雪の中を這う。

騎兵は馬を降り、ニラの服をつかんで引きずる。



兵士

もう遊びは終わりだ…こっちに来い。



彼はニラをゴミのように引きずる。


兵士

安心しろよ、やさしくしてやるから…



兵士はニラを仰向けにし、首に手をかけて締め始める。

ニラは声が出せず、顔が赤くなっていく。

彼女は男の手を振りほどこうとするが、力が足りない。



兵士

シーッ、落ち着け…動くな。



ニラの目が閉じかけ、体の動きも鈍くなる。



兵士

よしよし、心配するな…あとでゆっくり可愛がってやる…



その瞬間、1匹の狼が兵士に飛びかかる。

男は叫び声をあげてニラを手放す。

ニラは再び呼吸しようとする。意識を取り戻そうとする。

彼女は立ち上がろうとする。頭から血を流している。

よろめきながらも、その場から離れようとする。

男の断末魔の叫びが響く。

ニラは意識が薄れて方向が分からなくなる。

振り返ると、狼が兵士の喉を食いちぎっているのが見える。

鮮血が純白の雪の上に広がっていく。

狼は頭を上げ、その黄色い目でニラを見つめる。

ニラは動けずに狼を見つめ返す。

静寂の中、雪の降る音すら聞こえそうなほどの静けさ。

狼が咆哮をあげ、その声が風を切るように響く。まるで勝利の雄叫びのように。

ニラの視界がぼやけ、そして突然意識を失う。

彼女の体は斜面を転がり、やがて道路のそばで止まる。



***

夜が更け、雪が静かに降っている。

一頭の馬に引かれた荷車が、40歳前後の女性ニコルによって進められている。

冷たい風に頬が赤く染まり、ニコルは両手を擦って暖を取ろうとする。

そのとき、雪に覆われた黒い塊が視界に入る。

ニコルは荷車を止めた。

彼女はまず遠くからその塊を観察する。



ニコル

おーい!聞こえるかい?



ニコルは警戒しながら周囲を見渡す。

そして荷車から降り、ランタンを手に近づく。

ニコルが見つけたのは、まだ意識を失ったまま雪の中に倒れているニラだった。

ニラの手には、父親の指輪がついたネックレスが握られていた。









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