悪魔は天使のフリをして囁いた
ある悪魔が、天使のフリをして人を騙して地獄に落とすことを思い付いた。そして手始めとして一人の男の元へと訪れた。
それなりの生まれだったが、やるべきこともやらずに勘当され、その後も働くことなくズルズルと暮らしていった結果として金もなくなり身動きの取れなくなった男だった。
「俺はどうするべきなのだろうか」
荒れた部屋の中で男はそう独り言を呟く。悪魔は天使のような姿でその独り言に答えた。
「あなたの思うままに生きなさい」
自分しかいないはずの部屋で返事があったことに驚いたのか男は叫び声をあげて振り向き、そこに天使がいるのを見て目を丸くした。そしてぶつぶつと「俺のようなやつのところに天使が来るはずもない」と呟く。
しかし悪魔はその独り言には答えず、もう一度「思うように生きなさい」と言ってから姿を消した。
きっとあのような怠惰であとのなくなった人間は、天使に好きに生きろと言われれば簡単に罪を犯すと思ったのだ。
天使の消えた部屋の中で、男は先ほどまで考えていたこと、すなわち「これからは心を入れ替えて生きる」ということを実行に移すことに決めた。
しばらくして悪魔は神様の手によって天使へと取り立てられた。どうしようもなかった人間を真人間に更生させた手腕を評価されたのだ。
元悪魔の天使は今日も首を傾げながら、どうしようもない人の元へと訪れて「思うままに生きろ」と伝え続けている。
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