094-優しい眼差し-
094-優しい眼差し-
そんな会話をしていると、僕たちの背中から、
「違法宗教を掲げる団体がいるって通報を受けて来たんだけど……はぁ──、ま〜たあんた達〜? ほっ〜んと暇人よね〜ぇ」
聞き覚えのある声が、呆れた様にぶつかってきた。
「あなたは……!」
男性は目を見開き驚く。だが、男性の仲間であろう人々は、恐怖を抱いた様子で自分は関係ない! そう言いたげに逃亡を図る。
だけどそれを見逃してもらえるわけがない。同行していたと思われる魂を導く者がそんな連中らを取り押さえ、教会方面へ連行して行く。
呆気なく仲間を捕まえられた男性は、声を掛けた童女……ううん。アリエルに殴りかかろうと拳を握る。
「あっ……」
これはまずい。僕はそう判断し制止しようと口を開く。
だけど僕の制止は間に合わず、アリエルは男の胸ぐらを掴み華麗に投げ飛ばす。
男は背中を思いっきり打ち付けられ、唸り声をあげながらも痛みで悶絶していた。
アリエルの動きから推測するに、ずっと戦闘訓練を受けていた人のようにも思える。まぁ、カルマンやヘレナよりかは洗礼されたモノじゃないけど、実力はかなり申し分なく、僕より強いのは確かだと思う。
僕はそんなことを考えながら、無意識に冷たい汗を垂らした。
「ほ〜んと、野蛮ね〜ぇ?」
アリエルは、男性をねじ伏せたあと、同行していた魂を導く者に引渡し、汚いものでも触ったかのような態度で手をハンカチで拭う。
「アリエルちゃん……っ!」
僕はそんなアリエルに向かって、咄嗟に叫ぶ。
「誰よ!? …………あ〜、あんたね。名前は……なんだっけ……? 確か……ウィンカー?」
アリエルは、そんな僕に鋭い睨みを利かせたあと、どうやったらそんな名前に変わるんだ。と呆れを覚えてしまうような言葉を口にし、鼻で笑った。
「変な名前を付けないでよ……。僕はリーウィン!! なにをどう間違えたら、そんな名前に変わるのさ!」
「あんたの名前なんてど〜でもいいのよ。興味なんてないわ」
アリエルはなぜか僕のことを邪険にし、ぶっきらぼうにそう告げる。
「えぇ……」
僕が困惑しながら口をあんぐりとさせていると、なにかを思い出したようにハッとし、すぐに表情を戻したかと思うと、アリエルは僕の胸ぐらを掴み
「あっそうだ!! あんた、ご主人様を見つけたらすぐに知らせてって言ったのに、よくも約束を無下にしたわね!」
怒号する。
「えっと……なんの話し?」
「はぁ〜!? とぼけないでよ! あんたが魂の使命こん願者登録の部屋に行けないからって言うから、アリエルが案内してあげたじゃない! 案内する代わりに、ご主人様を見つけたら知らせるって約束もしたし!」
アリエルは鋭い目で僕を睨みつけ、ドスの効いた声で威圧する。
「えっ……? あーー! ごめん! 忘れてた!」
「はぁー!? ごめんで済むなら教会なんていらないわよ! あんた舐めてんじゃないわよ!?」
「いやぁ……あのあと色々とあってさ……でも、カ……ご主人様とはそのあと合流できたんでしょ?」
僕は冷や汗を浮かべながらそう口にし、ちゃんと合流できたんなら良かったじゃないのかな? なんて諌めようと奮闘した。
だけどアリエルはそんなんじゃ気が収まらない! そう言うように、暴言や暴力を僕に奮った。
もうヤダ! 僕の周りこんな人ばっかりじゃないか! どーして、皆すぐに手をあげたり、暴言ばっかり吐くんだよ! 僕はそんなアリエルの言動に、心の中で毒を吐くけど、それを言う度胸なんて僕は持ち合わせていない。
「ごめんなさい……」
僕は渋々ながらも謝罪すると、それで満足したのかアリエルはそれ以上追求も暴力を辞めようやく開放してくれた。
「そう言えば、どうしてここにいるの?」
僕はそんなアリエルの態度に、内心助かった! そう安堵しつつも、アリエルが魂を導く者と一緒にいた理由が理解出来ず、キョトリと小首を傾げた。
そんな僕の態度を見てアリエルは、見下したかのようきププッと口元に手を当て、嘲笑う。そして、
「私も教会の人間だからよ?」
なんて、僕をとてもバカにした態度でまたぷぷっとほくそ笑んだ。
なんだろ。なんかめちゃくちゃ腹が立つ! やっぱり教会で働いている人間は、他人のことを見下して、常識も良識もない人たちの集まりなのかもしれない! 僕は不満をぶつくさと並べながら、ムゥと眉間に皺を寄せた。
そしてそんなアリエルの嫌味に僕は、アリエルと同じ土俵に立つように、
「キミって教会の人間だったんだね! カルマンの尻尾ばかり追わえてるだけかと思ってた! ちゃんと仕事ができてるの?」
なんて嫌味を言い返していた。
そんな僕の発言にアリエルは、
「またご主人様のことを呼び捨てにして、あんた殺されたいわけ?」
なんて殺気をプンプンと振りまき、太もも付近に着いているガーターリングから円錐剣先の様なものを取り出し、僕に投付ける。
僕はそれを寸前のところで交わしながらも、
「ちょっと待って!? いきなりそんなもの投げるのよくないと思う! フォルトゥナ十戒で無駄な殺生はダメっ! って教わるでしょ!? それに、こんなことがカルマンにバレれば怒られるよ!?」
とっさにカルマンのことを呼び捨てにしながら、落ち着いてと諭す。
「何回、ご主人様のことを呼び捨てにすれば気が済むのよ! それに、ご主人様に忠誠を示さない下賎な豚は私たちの望む未来に必要ないわ!」
アリエルはそんな僕の失言を聞き逃さず、かなり腹を立てた様子で首元目掛け再度、円錐剣先を投げつけた。
僕はそれを再度避けながらも、アリエルたちが望む未来とは? そんなことを考えながらロザルトの鞭を具現化し、弾き返す。
避けるばかりじゃ埒が明かないしね。
シュッと風を切るような円錐剣先の音と、キーンッと僕が 円錐剣先を打ち返す音が真昼間の教会付近で呼応し、近くにいた人々が「きゃああああ!」なんて悲鳴を発しながら場を離れていく。
だけど、人間はパニックに陥ると上手く判断することができない。パニックに陥った人々は、自分だけ助かろうと勝手な行動を取り、老人を蹴りあげたり、子供を押し退け逃げ道を確保する。
「ちょっ、落ち着いてよ! このままじゃ関係ない人まで怪我しちゃうよ!?」
僕はそう言いながらも、周りに配慮しながら円錐剣先を弾き続けた。
「あんた……。ふーん。なるほどね……」
アリエルはそんな僕を見て、なにかに気づいたのか? ジロジロとみながら複数本の、円錐剣先を僕に向かって投げつける。
「えっ、その溜めはなに? なにがなるほどなの!?」
僕は困惑しながらも円錐剣先を弾き返したり、叩き落としていく。
「なんでもないわよ」
アリエルはそう言い、一向に円錐剣先を投げる手を止めない。止めないのならば僕も鞭を振るうしかない。
僕とアリエルの攻防戦は延々とも言えそうなほど続いた。
だけど、「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」そんな叫び声で、僕はハッと我に返る。
僕が弾き返していたはずの円錐剣先は、ルフーラの近くで腰を抜かしている女性の元へ飛んで行く。
これは非常にまずい……。そう思うも、この距離からその円錐剣先を止めるのはまず不可能だ。
いくら、鞭の具現化と蔓を同時に出せるからといってもまだ、上手く使いこなせていない。
範囲も限られていて届くかもわからない……これは詰みかもしれない。そう思いながらも、他の円錐剣先が逃げている人々に向かないように必死に落としていく。
そんな詰み状態の僕は、どうにか避けて! そんな他力本願的な願いを胸に過ぎらせる。その瞬間、
「〜〜木の葉の盾となれ」
ルフーラが本を具現化し、魂法を唱え始めた。
すると、腰を抜かした女性とルフーラの周りに木の葉が弧を描きながら円錐剣先を跳ね返した。
円錐剣先は、コーンコトコトッ。と何度か地面に落ち飛び跳ねたあと静かに動きを止める。
「ふぅ……。ルフーラありがとう……」
女性が難を逃れることができてよかった。そう思いながら安堵し、深く息を吐いたあとルフーラにお礼を伝える。
だけどルフーラは、鬼の形相で僕のことを避難する様に罵倒したあと、
「あんたなに考えてんの?」
なんて口にし、目尻をこれでもかというくらいつりあげ僕を睨みつける。
「ご、ごめん……」
素直に謝罪する僕とは裏腹に、ルフーラは謝罪なんて聞きたくない。そう言いたげにフイっと顔を逸らし、
「あんたもこんなところで腰抜かしてないで、ササッと逃げなよ」
なんて女性にそう言い、冷めたい瞳で睨みつけた。
そこには僕への苛立ちまで向けられているような……そんな気がした。
「ご、ごめんなさいね……」
そんなルフーラの態度に、女性は申し訳なさそうな様子で何度も立ち上がろうとするけど、ルフーラの睨みも相まってか上手く力が入らないらしい。
そんな女性に対してルフーラは「えっ、なに? 死にたいの?」そう言いたげに蔑むばかり。
その態度からして多分だけど、ルフーラの中では女性を助けた。というつもりは全くないんだと思う。自分の身に危険が及びかけ、咄嗟に守ったら腰を抜かした女性がいた。ただそれだけのことだったんだと思う。
そんなルフーラとはうってかわり、クルトは女性に駆け寄り、肩に腕を回しながら、
「大丈夫かにゃ?」
万一の時ようにと教会が用意している避難所まで同行する。
「アリエルちゃん! ちょっと落ち着いて話をしようよ!? ねっ?」
そんな僕たちのやり取りの最中も、未だに暴れ回り、攻撃の手を辞めないアリエル。
「あんたが死ねば、アリエルも辞めるわよ!」
「だーかーらー! それがダメなの! 他の人巻き込んだらどうするのさ! それに命は平等! そんなんじゃいつか本当に、カルマンに愛想尽かされるからね!」
「はぁ〜!? もう嫌われてるわよ! あんたなに様のつもりなわけ? というか、やっぱり死にたいみたいね」
アリエルは僕の一言にギリッと歯を鳴らし、唇を噛む。そこからは赤い液体がちょろりと垂れ、唇から垂れる。
そんなアリエルの目には、怒り以外にもほんの少しの悲しみが見え隠れし、まるでなにかを抑えきれないようにそれが行動として現れているような気がした。
「ほら! 殺人は良くないから話し合いで解決しよ?」
それを読み取った僕は、アリエルに危害を加えるつもりはない。そう訴えるために具現化を解除した。
だけどアリエルは、好機と捉えたらしい。
どこかから暗器を取り出し僕に襲いかかろうとし始める。
僕はそんなアリエルをどう説得すれば良いのか。止める方法なんてなに一つ思い浮かばずにいた。
それに、中には銃弾が仕込まれた飛び道具なんかもあって、建物なんかに被害も出ているし、僕一人じゃ対処しきれない。
こういう時どう対処すれば……僕は自身の力量不足に悩みながらもアリエルとの攻防戦を続けた。
なにをしても言っても聞いてくれないアリエルに、痺れを切らし攻撃しようと鞭を振り上げた瞬間──
僕の体はもの凄い力によってアリエルもろとも宙へ舞い、そしてそして重力に引き寄せられるようにして顔面を強打する。
なにが起こったかも解らない。
「痛っっったあぁぁぁぁ!!! 誰!? なにすんのさ!」
僕は、急に訪れた痛みに怒り声をあげ、周りを見渡す。
目の前には見慣れた黒髪の背中が……。
「……あぁ悪い、おまえもいたのか」
そんな声にハッとしたのか、黒髪の背中──ううん。カルマンは振り返り、僕とパチリと目が合う。
そして謝罪にもなっていない謝罪を僕にしたあと、カルマンは怒った様子でアリエルに近づいて行く。
そんなカルマンに、僕は頬に怒りマークを貼り付けながら、口角を引きつらせながらも
「えっと、カルマン?」
笑顔で声を掛けた。
「すまないが、おまえと話している暇はない。おまえはやるべきことでもやってろ」
だけど、カルマンは僕よりアリエルの方を優先する。
なにさなにさ! 僕を巻き込んでおいて適当な謝罪しかしないなんて、カルマンはやっぱり人の心が解ってないんだ! ほんとこんなんだからカルマンは! そんな小言を内で連ねながらも、チラリとカルマンを見ると、その表情は怒りが勝っているけど、どこか優しい眼差しというのかな? ……温かいナニカを感じとれた。
そんなカルマンに、なんだ……、アリエルのことを嫌っている素振りを見せつつも、そんな表情ができるんじゃないか。なんてカルマンの優しさが垣間見え、自然と怒りも鎮火されていった。
そして、そんなカルマンにアリエルを託し、
「ルフーラ! ここはカルマンに任せて、僕てちは僕たちの役目を全うしよう」
僕は顔を腫らしながらルフーラと一緒にクルトが待つ避難所へ向かった──




