075.5-これどうする?-
僕たちは、家に帰るなりすぐさま自室へと戻り、タナストシアになった。
「なにか手がかりはあった?」
「手がかりはアともカとも読めそうな名前と、この写真くらいかな」
僕は血で滲みながらも微かに読み取れる文字を指差し、それに挟まっていた写真をヘレナに見せた。
「教会って何人くらい居るのかしら?」
ヘレナは僕が提示した写真を見て、口元に手を当てる。
「解んないけど……百人以上は居るんじゃない?」
僕が教会内部の事情を知っていれば苦労はしないというもの。
なのにヘレナは、「それくらい把握しときなさいよ!」なんて、自分も把握していないくせに、それは棚に上げ僕を叱責する。
「そう言われても……。あっ! カルマンなら知っているかも?」
僕は苦笑しつつも、そういう時の頼れるカルマン! とヘレナに提案した。
だけどヘレナは、カルマンの名前を聞くや否や眉間に皺を寄せ、
「あんな性格の悪い人に協力を仰ぎたくはないわ!」
なんて、さっき言い合いをまだ根に持っているような態度で、怒りをぶり返しそうになる。
「あっ……まぁ……うん、強要はしないよ? あっ、ほら! ならルフーラに協力を仰ぐのは?」
やらかした……。僕はそう内省しつつも、破壊神ヘレナ様になる前になんとか宥め、別の提案をした。
だけど、「どーしてリーウィンはいっつもあの人のことばかり名前に出すのよ!」なんて、今回は怒りに乗っ取られている様子で、僕のそんな提案は届かない。
こうなれば……。ヘレナの御機嫌をとるには噂や、好きなことを振るのが一番手っ取り早い。僕はそう考え、あれやこれやと色々と宥めるための手段を行使した。
が、今回に限っては、そんな生ぬるい手法じゃ到底、手がつけられず……。最終的にはフェルを動員して、ようやく落ち着気を取り戻してくれた。
フェルは生意気だけど、人の懐に入ることにかけてはかなり能力があるらしい。今回ばかりは救われた……はぁ──、ほんと感謝しかないや。
※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※
フェルのおかげでヘレナが落ち着きを取り戻した頃、
「そうだわ! ルフーラはとても頭が良いし手先も器用だから、復元出来たりするかも……!」
僕が提案した内容を復唱する。
うん、それ僕がさっき言ったよね? そう思いつつも、また暴れかけられるとたまったもんじゃない。僕は煮え切らない気持ちを堪え、
「ルフーラの家わかる?」
なんて確認した。
「知らないわよ?」
「だよね? どうやって調べるの?」
そうだよね、ヘレナのことだもん。知ってるわけないよね。なんて諦めは関心へと変わりながらも、僕はどうやってルフーラの元までたどり着けば良いのか考える。
1番手っ取り早いのは、ムーステオに行くこと……。あっ、クルトなら知っているのか! そう思い、
「クル──」
そう口に出しかけた瞬間、
「クルトさんに聞くって言うのはどうかしら?」
なんて、ヘレナは僕と同じ意見を口にする。
「ムーステオに行くしかないよね……? でもこの前みたいなことがあったら?」
「う〜ん。そうね……この前みたいに臨時休業になっているとたら意味がないし……」
そう言い、ヘレナはまた考え込む。
「誰かに聞ければ一番良いんだけど……」
まぁこの場合、無駄足になってもムーステオに行くのが一番、近道だよね? そう考えながら僕はボソリと呟いた。
「っ! それよ、リーウィン!」
ヘレナはハッとした表情で僕の背中をバンバン叩き、満面の笑みを浮かべる。
「痛てっ。え? どういう事? あとね。本当ヘレナは興奮した時とか、力が強くなるんだから加減してよ……」
僕はなにがなんだか解らずキョトンとしたあと、ヘレナの力加減を指摘した。
「あら、またやってしまったわ! ごめんなさいね!」
ヘレナは全く詫びる気のない態度で、手を口元に添え、ふふっと笑う。
毎度毎度、こんな感じで反省もしないヘレナ。
もしかすると、僕はいつかヘレナに殺されるんじゃ……。なんて危惧してしまう。まぁヘレナのことだから、そこまですることは……いやあるか……。
「で? それよ! ってどういう意味?」
そんなことを考えながら僕は、ヘレナになにを思いついたのか確認した。
「えっと──。この前、リーウィンがメテオリットを一人で討伐しようとしていた時、クルトさんの未来を見る力で難を逃れたでしょ?……」
ヘレナは、急にルフーラの魂を守護するモノであるファルファルーンが、アスタロッテに念話? で声をかけてきた時のことを教えてくれた。
簡単に言うと、神様同士は消滅しない限り、どこに居ても会話が出来るらしい。
……そう言えばそんな話どこかで聞いた様な気が……。どこだっけ? そう考えながらも、ヘレナの話を聞き終えたあと、
「ならアスタロッテを呼ばなきゃだけど、今日いるの?」
僕はフェルのことがあるから、魂の使命こん願者と魂を守護するモノの在り方なんてすっかり忘れ、キョトリとヘレナに聞いた。
「当たり前でしょ? フェルくんが特例過ぎて魂を守護するモノがなんなのか、忘れているんじゃないのかしら?」
ヘレナは軽く嘆息し、呆れた様な目付きで僕を見つめる。
「あ……、そうだっけ……? フェルが近くにいなくても行動が出来るから、すっかり忘れてたよ……」
僕は、あははは。と苦笑いをしながら頭を搔く。
「ロッテ、起きてるかしら?」
そんな僕を横目にヘレナは、アスタロッテに呼びかける。
「ピピィ! ピピピピ!(ヘレナ! 起きてるぜ!)」
アスタロッテは元気な様子で影からひょっこりと顔を現し、そう元気な声で鳴く。
「早速で悪いんだけどシャルルートかファルファルーンと話ができるかしら?」
ヘレナはそう言いながら普通に喋っても良いわよと許可をだす。
そんなアスタロッテだけど、
「え〜! 二人になんの用事なんだ?」
あからさまに嫌そうな態度でヘレナを見上げ、文句を垂れる。
「ちょっとルフーラに用事があってさ……」
僕は元気にしてた? なんて続けながら、事情を説明した。
がどうやらそれが気に食わなかったらしい。アスタロッテは、僕のお願いだと知るや否や、
「ケッ。おまえの頼みなんだったら誰が聞くか!」
なんて口にしながら、プイッと顔を背け、協力したくないという意志表示する。
「ロッテ! 用事があるのは私なの! あと、リーウィンにそんな態度とらないで!」
が、ヘレナはそんなアスタロッテをきつく叱りつけ、やる気がないなら影に戻ってと冷たく睨んだあと、威圧する。
「ヘレナの頼みならいいぜ……」
アスタロッテはヘレナに怒られ、しょぼくれる。だけど、影の中に戻るのも嫌なのか? 渋々、ファルファルーンに念話を試み始めた。
だけど、ファルファルーンが呼び掛けに応じなかったのか、最初は大人しかったアスタロッテは次第にイライラしていき、何度も地団駄を踏みつけ始める。
そして──。
「あんのくそ! 俺様が呼びかけてやってるのに無視しやがって!」
とかなんとか言いながら、アスタロッテはイライラを僕の部屋の床にぶつけた。
ヘレナと違って、床に使われている木材が少し、飛び出したくらいで済んだのは不幸中の幸いかな?
だけど、ヘレナとアスタロッテを見ていると、ほんと魂の使命こん願者と魂を守護するモノは似るって言うけど、その通りだな。なんて感心してしまう。
そんなアスタロッテを見つめながら僕は、
「ならシャルルートは?」
なんて代替案を提示する。
だけど僕は、相当アスタロッテに嫌われているらしい。
「俺様に指図すんな!」
そう言いながら僕の手を足で蹴りつけ、嘴でつつく。
「ロッテ!」
その様子を見ていたヘレナは、鬼の形相でアスタロッテに詰め寄り、なにしてるの? と言いたげな表情で無言の圧を醸し出す。
「あ、悪ぃ悪ぃ! 今からシャルにも聞くから待っててくれよ!」
そんな態度を見せられれば、アスタロッテとはいえ、これはまずい。と思ったのだろう。冷や汗をかき、顔を青ざめさせながら、シャルルートに呼びかける。
「繋がったぞ」
「良かったわ! ルフーラの居場所を知らないか。もし知らなければ家など、特定できる情報を教えて欲しい。って聞いてくれるかしら?」
「解った! 聞いてみる」
アスタロッテはヘレナに満面の笑みを浮かべたあと、度々イライラした態度でトントンと軽く床を踏む。
「今、クルトが仕事中だから聞けないってさ。あいつ答えるのに何分かかってんだよ!」
アスタロッテはイライラした態度で、状況を説明したあと溜め息を零す。
「ならムーステオに行きましょ!」
クルトが仕事中ということは、ムーステオは開店しているということ。
僕たちは再度、外へ出かける準備を始める。
僕は普段、持ち歩いている鞄の中に手帳型身分証と、写真を丁寧に入れ、ヘレナの支度を待ちムーステオへ向かった──。
※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※
家から直ぐ、ムーステオへ向かったのは良いものの……。なにかのイベントでもしているのか? 店前はとても盛況な賑わいを見せていた。
「めちゃくちゃ人が居るね……」
僕はどうする? そうヘレナに確認する。
ヘレナはそんな僕の問いかけに、
「そうね……。仕方ないわ、今回は諦めて後日にしましょ……」
大きく息を落とし、この日は解散する流れになった──。