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075-ナイスヒット-



 人影に恐る恐る近づくと、見覚えのある顔が現れた。


 ガサッ


「あっ──」


 僕は草を掻き分けてその人物の元へと歩み寄り声をかけようと口を開く。


「誰だ!? ……なんだ……おまえらか。なんでこんなところにいるんだ?」


 見覚えのある人物は最初、警戒した態度で僕たちを見たあと、僕だと解ると、安堵した表情でそう口にする。


「えっと……ちょっとこの山に用事があって、入ってみたんだけど……そうしたら人のような叫び声が聞こえたから……」


 ヘレナから実際に、銃の威力の違いを見せてもらったことは隠しながら、カルマンにそれとなくこの山にいた理由を伝える。


「こいつを討伐しに来た」


 そう言いカルマンは木っ端微塵にとはいかないけど、体を真っ二つにされ、生き途絶えている、人間の様なナニカ(・・・)の上半身を持ち、僕に見せる。


「え……。これってまさか人間……!?」


 ヘレナはやってしまった……。そう言いたげに、今にも血の気が引いていきそうな顔で僕に聞く。


「いや……。僕に聞かれても……」


 僕は見た目は人間だけど、(コア)のようなモノがついている人型のナニカを見たあと、ヘレナにだけ聞こえる声で、


「カルマンに直接聞きなよ」


 と促した。だけどヘレナは、断固拒否という態度で、『嫌よ!』と語気を強める。


 はぁ──、仕方ない。ヘレナはこういうところ強情なんだから! 僕はそう思いながらも、


「それは?」


 なんてカルマンに確認した。


 カルマンはぶっきらぼうな態度で


「これはメテオリットだ」


 なんて言いつつ、下半身を足で転がす。


 メテオリットは本当に色んなタイプに分かれている。


 それに、どれも唯一無二と言うのかな? オリジナリティーを感じさせる。


 今回のメテオリットはかなり人間に近く、遠目からだと人なのか? メテオリットなのか、瞬時に判断できないと思う。それくらい立派な人間と呼べる。


 違う点をあげるとすれば、赤い(コア)が露出しているという点と、裸なのに生殖器がついてなくて、性別が解らないという点くらいかな?


 でもこれは近くに来て、ようやく解る程度の誤差。もしこんなモノが複数体現れでもすれば、僕は人間なのかメテオリットなのか判らず躊躇(ためら)ってしまうと思う。


 まぁ、服を着ていない時点で解るかもしれないけど……。


 そんな僕とカルマンの話を聞きヘレナは、


「なんだ……良かったわ……」


 と、自分が人殺しにならなくて良かった。そう思ったんだと思う。軽く安堵の溜め息を漏らす。


 そんなヘレナの態度にカルマンは、なにかを察したらしい。剣幕な顔で、


「もしかして、|意味の解らないスピードで飛んできた弾丸あれは、おまえの仕業か?」


 なんて語気を強め詰め寄る。


「えっ……、まっ、まぁ……。そうだけど? それがどうしたのよ!」


 ヘレナは一瞬たじろぐ。だけどそのあと直ぐ、あなたに関係ある? そう言いたげに強気な態度でカルマンを見下した。


 そんなヘレナの態度にカルマンは、詳しいことはなにも説明しないまま、


「おまえ俺、諸共殺す気だっただろ?!」


 とかなんとか言って食ってかかる。


 その表情はかなり険しいものだ。こういうのに首を突っ込むと、大変な目にあうんだろうな〜。なんて僕は思いつつ、このあとの展開を読み取り、一人どうするか悩む。


「あら? あなたみたいな性格がとーっても悪い方なら、死んでても問題なかったと思うけど?」


 ヘレナは開き直り、カルマンに喧嘩腰で突っかかる。


 あ〜。ま〜たやってるよ。ほんと、ヘレナも意地を張らずに素直に謝ればいいのに。それにカルマンはまず、状況説明すれば良かったのでは? なんて、呆れを覚えつつも僕は、


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて──」


 苦笑しながらそんな二人の仲裁に入ろうと試みる。


 だけどきっと、辞めないんだろうな〜。それに最悪、巻き込まれ兼ねない。うん。このあとの展開は、どうせおまえは黙ってろ。なんて言うんでしょ? そんな予測を立てながら僕は、刺激しないように務めた。


「でっ? なぜ私があなたを殺すとかって話になったのかしら?」


「俺がこいつを仕留めようとした瞬間、奥の方から木々をなぎ倒し、凄まじいスピードで飛んでくる弾丸に気づいたんだ。咄嗟に避けなかったらこいつのように死んでたんだよ! このバカッ女!」


 ヘレナもカルマンも、やっぱり僕の仲裁なんて意味を成さない。僕の存在なんて空気だと言わんばかりに喧嘩腰で言い合し始めた。


「あら? でもそのお陰で、この人の様なメテオリットを撃退できたのでしょ?」


 ヘレナは反省する気を全く感じさせない口ぶりで、どうせなら感謝して欲しいくらいだわ。と、カルマンに減らず口を叩く。


「俺が咄嗟に避けてなかったら俺ごと殺してたんだよ! ちょっとは反省しろ! このバカ女!」


 カルマンの口調が段々と荒くなって行く。


 ヤレヤレ。ほんとこの二人は、僕のことを子供だなんだという癖に、自分たちの方がよっぽど子供じゃないか。僕は、小さな溜め息を零し、巻き込まれないように、そぉっと二人から距離をとった。


「なによ! 死ななかったんだから別に良かったじゃない! それにバカバカって人を散々バカ扱いしてなんなのよ!?」


 ヘレナも負けじと口調を強め、カルマンに噛み付いていく。


「バカにバカと言ってなにが悪い!? だいたい、おまえは前から思っていたが、いつも誰かを巻き込まないと気が済まない性分なのか?!」


「あなただってリーウィンをいつも巻き込んでるじゃない!」


「はぁ──!? 俺は一度も巻き込んだことないが?」


「よく言うわ!どの口が言うのよ!」


「 ゙あ?」


「なにか文句でもあるのかしら?」


 二人の言い合いは、自然な形で論点がズレて言ってる気がする……。なんか元々、銃弾の話だったはずなのに、どうして僕の話に変わってるの? なんて僕は小さく肩を竦めてしまった。


「まぁまぁ二人とも……」


 だけど、これはそろそろ止めないと、ややこしくなるな。そんな予感を感じ、僕は苦笑しながら再度、二人の仲裁に入ろうと試みた。


「おまえは黙ってろ!」


「リーウィンは黙ってて!」


 二人は息を揃え、僕のことを邪魔だと言わんばかりの強い口調で、そう吐き捨てる。


 あ〜。はいはい、予想通りですね。ほんと、息を揃えて言うくらい、二人は同じ思考をしているんだと思う。だけど、どーしてこの二人は顔を合わすたびに喧嘩腰で突っかかって行くんだろうか……。はぁ──。


「あっ、はい……。ごめんなさい……」


 僕は心の中で嘆息しながらも、二人の迫力に押し負け、縮こまるしかほかなかった。


 そして二人は、僕の存在を忘れ言い合いを続ける。


「いっつも、あなたは人のこと見下してバカにして!」


「おまえこそ、バカなことしてないでちょっとは周りのことも感がえて行動しろ! このバカ女!」


「そうやってバカ女! バカ女! しか言えないのかしら? あなたのおつむってその程度なのかしら?」


「はぁ──っ!? おまえがバカだから、バカと言っているんだろっ!? それのなにが悪い?」


「いっつも、バカバカ言って、ほんと器の小さな男よね!」


「おまえにだけは言われたくないな」


「私のどこが器が小さいって言うのよ?」


「おまえは器が小さいだろ? 自分で器がでかいとでも思っていたのか?」


 カルマンは呆れた口調で溜め息をついたあと、めちゃくちゃ嫌味な態度で鼻を鳴らす。


 だけどそれを見せられている僕の方が、溜め息をつきたい気分だ。そろそろ、この不毛な争いをやめて欲しいんだけどな〜。


 いつまで続くんだろ? 僕、帰って良いかな? そう思い、ソーッとこの場を離れようと試みる。


「リーウィンどこ行こうとしてるのよ!?」


 だけど、直ぐにヘレナにバレ、僕は肩をビクッと跳ね上げさせ、「ひゃ、ひゃい……。ごっ、ごめん……なさい」なんて口ごもる。


 そのあとも、二人のやり取りは二十分にもおよび、ようやく終わったかと思えば、「ふん!」っとお互い顔を背け、仲違いをしたままヘレナは、


「こんな人はほっておいて行きましょリーウィン!」


 なんて、僕の手を強く引っ張り、来た道を戻ろうとするから、僕はなにも言えず、転びそうになりながらもヘレナの言うことを聞くしかなかった。


 僕はそんなヘレナの背中と、カルマンを交互に見ながら、二人が仲良くなってくれる時は来るのかな。なんて寂しい気持ちを抱え、その場をあとにした。


 ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※


 ズンズンと来た道を戻っていくヘレナ。それと比例するようにカルマンの姿が見えなくなる頃。サッと、どこかで見覚えのある装いをした人物が、カルマンの方へ近づき(ひざまづ)く。


 顔も見えないし、誰かも判らないけど、僕はなぜか、その人とどこかで……。しかも最近、遭遇した気がする……。そんな気がして、必死に思い出そうとする。


 だけど思い出せずに悶々とした気持ちが膨らんでいく。


「ねぇヘレナ? あの人、見たことない?」


 僕はそう言い一瞬だけ、ヘレナの方へ顔を向ける。


「なにがよ!?」


 ヘレナは立ち止まり、まだ怒っているという雰囲気を醸し出しながら、僕を睨みつける。


「ほらあのひ──」


 僕はそう言いながら振り返り、あの人だよと指を指そうとした。だけど、振り返った時には誰もいなくて、カルマンの姿も雲散霧消(うさんむしょう)の如くどこにもなかった。


「誰もいないじゃない!? リーウィンも私のことをバカにする気なの!?」


 ヘレナは、怒りの矛先を僕に変える様に、ぷんぷんとしながら、また僕の手を強く引っ張り歩く。


 可笑しいな……。


 僕はそう思いながら引っ張られている最中、ずっと後ろを確認していた。


 だけど再度、その人物を確認することも、カルマンの姿を確認することもなかった──


 そして銃の試し打ちをしていた場所に戻ってきたや否や、


「さっきリーウィンが言ってた人ってどんな感じだったの?」


 ヘレナは怒りが落ち着いてきたのか、普段と同じような態度で、僕に確認する。


「黒っぽい服で……フードかな〜? なにかを被ってて──」


 身振り手振りで僕は、見た人物の特徴をヘレナに伝えた。


 だけどヘレナは、


「昼間っから黒い服を着ていた人がいたら、こんな森でも私が撃った弾丸が木々をなぎ倒して明るくなってるんだから、直ぐに判ると思うわ。きっとリーウィンの見間違いよ」


 なんて言って、全く相手にしてくれなかった。


 そんなヘレナに僕は、


「そんなことないと思うけど……」


 なんて、ボソリと呟き考えたけど、ヘレナは私をからかおうとしているの? なんてまた怒りそうな雰囲気を醸し出すから、数秒の間で消えるなんてこと有り得ないし……。なんて、納得なんか全然しててないけど、無理やり見間違いだったんだと言い聞かせ、心の中に押し込んだ。


 そんなこんなで僕は、ヘレナの撃ったミサイルランチャーや対物ライフルの弾丸によって開かれた、山の(ふもと)から見える大時計を確認する。


 時計は十三時をとっくに過ぎていた。僕は山を降りようとヘレナに提案し、


「これからどうするの?」


 と、今後の予定を確認した。



「うーん……一度リーウィンの家に戻ってから、どうするか決めましょ!」


 ヘレナはそう言い、僕の家へ足早に向かった。

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