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073.5-タナストシアとの接触2-



 絶体絶命のピンチじゃん!? そんな僕の焦りなんて気に止めず、タナストシアは一斉に攻撃を仕掛けてくる。


 黒々とした大鎌が月光に当てられ刃に光を灯す。


 それがかなりの速度で殺意を最大限に放出してくる。


 地面が抉られ、木々は軽々と倒れていく。


 その威力は当たれば即死、または重症確定──。


 そんな攻撃に僕は覚束ないなりに避け、ロザルトの鞭で対戦をする。


 鞭の扱いにもある程度、慣れてきたからか、最近、思うように鞭を振るえるようになっている気がする。


 その証拠に鞭は、タナストシアらを力強くなぎ払い、致命的な傷を与えていく。


 だけど、それとは裏腹に攻撃したという実感が鞭から伝わってこない。


 ずっとなにもない所を攻撃している様に鞭が軽い。



 そんなはずない。だけどそうとしか言えない。目の前にいる敵は実在しているのか? いや。していなければ可笑しい。


 僕は、自問自答を繰り返しながらも、必死に鞭を振るい続けた。


 だけど数の暴力には抗えない。一向に減らないタナストシア達に、痺れを切らした様子でヘレナが、


「リーウィン! ちょっと試したいことがあるのだけどいいかしら?」


 嬉々とした声色でナニカを提案する。


「なにをする気!?」


 ヘレナがそんな()をする時は、決まってよからぬことを企んでいる場合が多い。ということは──。


 僕はそんな嫌な予感を胸に、なにをするつもり? そう瞳を揺らす。


 だけどそんな僕のことなんてヘレナは遠慮なし。


「見てのお楽しみよ!」


 そう言い魂をリボルバー式のハンドガンから、ロケットランチャーへと変え、軽々しく片手で肩に担ぐ(・・・・・・・)


 そんなヘレナの行動に、僕の本能が巻き込まれれば死ぬ! そう警告し始め、


「ちょっと待って!? そんなの、こんなところでぶっぱなしたら被害が──!」


 咄嗟にヘレナとの間合いを取る様に走った。


 多分、距離的には三十五メートルくらい距離をとれたと思う。だけど、まだ不安感が拭えない。


 だけど僕が逃げ切る前にヘレナは、「うるさいわよ!」なんて言いながら、慣れた手つきで安全ピンを外し、コッキングレバーを引いたあと、安全バーを全部解除する。


 そして、タナストシアに照準を合わせ、トリガーに手をかけたかと思うと、ドーンッ撃ち込んだ。


 その威力は並のものとは雲泥の差で、僕はその衝撃に少し巻き込まれ、


「うわっ──」


 軽く地面に倒れ込む。


 どこでそんな知識を身につけてくるのかは知らないけど、ほんの数秒のできごとだ。


 ヘレナが撃ち込んだロケットランチャーの弾は、空気を切り裂き、タナストシアをなぎ払い、突き刺さる。その瞬間、大きな爆発を起こした。


 通常のロケットランチャーがどんな威力かは知らない。だけどヘレナの放ったモノは、爆発とともに激しい炎を巻き起こし黒煙を立たせる。


 パチパチと燃え盛る火柱が立ち上り、タナストシアを次々と包み込み始める。


 その影響か、火は余計に勢いを増し、辺りには肉の焦げた臭いが漂う。


 だけどそれでは終わらない。炎は皮膚や衣装をも包み込み、熱さでもがき苦しんでいるんだと思う。激しいダンスを踊るように暴れ狂い、そして最後には倒れていく。


 その様子はまるで業火の如く、視界には赤と黒のコントラストが広がり、僕たちの周りを焼き尽くしていく。


「あーぁ」



 僕はやっちゃったねなんて苦笑しながら唖然とするほかなかった。


 だけどヘレナは、僕とは対照的に


「大丈夫! なんとかなるわ!」


 なんて言いながら、無邪気な笑みを浮かべる。


 その姿は正しくヘレナのそれ。そんな普段と変わらないヘレナに、僕は安堵感を抱くものの、そんな安心は直ぐに消え去る。


 おかしい……。なにかがおかしい……。


 なん十分──。いや、なん時間たったのかも判からないけど、僕とヘレナは、攻撃しても一向に数を減らさない連中らに気がついた。


 この頃、僕は気力だけで戦っていたと思う。まぁヘレナは、楽しそうに、魂を色々な銃に変え試し打ちをしていたけど。


 早く逃げたい。もう無理だよ! そんな弱音と戦いならがも、必死に戦闘を続けていた僕に、神様は試練を与えるのが好きなんだと思う。


 僕は徐々に息を浅くし、鞭を振るう腕に力が込めづらくなっていた。そんな中、新たなタナストシアの一人が、僕たちの前に姿を現す。


 こんな時に、よりにもよって新たな刺客!? 僕はそんな怒りを覚えながらも、汗で湿り滑って落ちそうな鞭に力を込め直した。


 どこか威圧感を放ち続ける新たなはタナストシアは、この連中らの誰よりも強そうな気がする。


 そんな雰囲気が、フードの下から漏れ出ている。というかどうしてこの人は動物の骨を被っていないんだろう? ──いや、そういえば、マリアンさんが教えてくれた情報では、


「服はさっきも言った通り、黒いローブ。被っている動物の骨は、兎や鹿、狼に山羊。それから蛇もいるって聞くわね。だけど面白いことに、一人だけ骨を被らない人物も存在するらしいのだわね」


 そう言っていた気が──。


 もしかしてその骨を被らない人物がこの人!? いや、あの情報が本当ならば確定になる。どうしてマリアンさんはそんな情報を知っていたんだろ? うんん、そんなこと今はどうでも良い。


 この状況は最悪のシナリオだ。疲弊しきったところに力を持て余した新たな敵が現れるなんて、もう全滅ルートでしかない。


 どうにかヘレナだけでも逃がさなきゃ。 いや、それは絶対無理だ。この中の誰よりも凄まじい気迫を放っている。ということはほぼ間違いなく、『逃がす』という選択肢は取らないだろう。


 それに、僕にでも分かるオーラからするに、ボス的存在なのはまちがいない。僕の中で緊張感が一気に高まっていく──。


 だけどそんな僕の考えとは裏腹に、フードを深々と被るタナストシアは、軽く手を上げ指揮を取り始める。


 そんなタナストシアを見た連中らは、攻撃の手を止め一斉に膝をつく。


 そして、全員がそのタナストシアに忠誠を誓うかのようなポーズを見せたあと、


「今宵は終いだ」


 そう言うと、誰も文句一つ並べず、さっきまでいた集団の大半がスッと暗闇に姿を消していく。


 だけど全員が居なくなったわけじゃない。ボスと思わしきタナストシアと、うさぎや鹿、それから狼の顔を被った三人。それから、見たことのない動物の骨を被る数名が、僕たちの前に残り指示を待つように(こうべ)を垂れている。


 が、そのタナストはそれ以降の指揮を取る気がないのかもしれない。


 静黙が少し漂い、それと同時に僕の心臓が、バクバクと音を立て、逃げた方が良いんじゃない? と喚起し始める。


 逃げれるなら今すぐに逃げたいよ! だけど、こんな時に敵に背中なんて見せれば、血祭りに上げられる。そんな最悪のタイミングで逃げる選択なんて僕にはできない! そんな思考とともに瞳を揺らしていると、


「運が良かったと思いなさい」


 鹿の骨を被った人物はそう一言、僕たちに背を向け闇夜に姿を眩ませる。


 良かった。本当に逃してくれるのかも……。そんな安堵感を抱く僕とは裏腹に、ヘレナは


「ちょっと待ちなさいよ! いきなり攻撃を仕掛けておきながら、謝りもなしに帰るのかしら!?」


 そう怒号しながら浅く息を整える。


 そんなヘレナの態度に、


「勘違いをするな、我が主の寛大な心意気だ! 大いなる主の初陣に感謝せよ」


 見たこともない動物の骨を被った人物がそう口にし、どれだけフードを深々と被り、強力な力を宿していそうなタナストシアが偉大であるかを語り始める。


 だけど僕は聞き漏らさなかった。


〔大いなる主〕ということは、十中八九新たな刺客(この人)がボスで間違いない。


 僕の勘が当たっていたということは、ここで下手に刺激すれば逃げることすら危うくなるということ。僕は、そう理解し口を噤んだ。


 だけどボスであるタナストシアは、そんな僕たちになど目もくれず、変わった動物の骨を被る人物に耳打ちでナニカを伝え始める。


 なにを伝えられたのかは解らない。だけどあまり良いことではないんだと思う。その証拠に耳打ちされたあと、変わった動物の骨を被る人物が、ビクリと肩を揺らしそそくさと闇の中へ消えていった。


 そんなタナストシアを筆頭に、また一人と姿を闇へと隠していき、最後に残るはうさぎと鹿と狼。


 なぜまだ居続けるのかは判らないけど、そんなタナストシアにヘレナはかなり怒っていたんだと思う。


 残っていたであろう最後の弾丸を、立ち去ろうと背を向けたうさぎに撃ち込んだ。


 その弾は上手く命中したらしい。ブシャッという血液(ナニカ)が勢いよく地面に垂れ落ちる音が響く。


 なんでそんなことをするんだよ! そんな怒りを腹の中で抑えながら、僕は黙っているという選択をし、相手の出方を伺った。


 だけど本当に攻撃する気は毛頭ないらしい。


「くっ──。この傷の礼は必ず……」


 ヘレナに打たれたうさぎは、キッと睨む素振りを見せたあと、そう言い残し消え去った。


 そして最後まで残っていたボスは、


「今回は見逃す。だが、我らタナストシアの邪魔をするならば次は容赦なく殺す」


 そう僕たちに忠告し、姿を消した。


 なんで見逃してくれたのかは判らない。だけど、今度また邪魔をするならば。そう口にしたということは、再度僕たちの前に姿を現す可能性が高いということ──。


 これからなにが起こるのか……。僕はそんな不安とタナストシアという得体の知れぬ組織が消えた安堵から、力なくその場に座り込む。


 だけど両手が……うんん、全身が震えて止まらない。



 今回の戦闘は間違いなく、死と隣り合わせだった。一歩、間違えていれば僕もヘレナも命が尽きていたかも。そう思うと、余計に震えが止まらなくなっていく。


 ヘレナはそんな僕を心配してか、それとも僕と同じように気力だけで戦っていたのか。同じようにヘナヘナと地面に座り込み、疲れきった顔で「リーウィン、大丈夫だったかしら?」なんて微笑む。


「大丈夫……って思いたい……かな? ……それよりもヘレナ、もう当分は……、夜に出歩かないようにしよう……ね……」


 僕は恐怖心を隠すように、肩を小刻みに揺らしながらそう提案する。


「そうね……。でも、まさか本当に、タナストシアと闘うするなんて……。夢にも思わなかったわ……!」


 ヘレナは軽く息を整えながらも、少し興奮した口振りと笑顔でそう答える。


 この戦闘狂め。闘いを心の底から楽しみました。みたいな笑顔はとても凛々しいけど、ヘレナが女だということを忘れそうになるよ! 僕はそんな本音は内に隠しつつ、


「今度から周りのことも考えて行動してね」


 未だに燃え盛る(・・・・)木々を遠目で見ながら、僕はヘレナに注意した。


「そうね……」


 ヘレナは考えておくわ。とあまり反省していなさそうな態度をみせ、話を逸らすようにクスりと笑った。


「ところで、ヘレナ怪我はない?」


「大丈夫よ。リーウィンの方こそ大丈夫なの?」


 そんな会話のあとヘレナは、僕の傷を見ながら「そこまで深くないから、心配は要らなそうね」なんて笑いながらも、よく耐えたわねと優しく頭を撫でてくれた──。


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