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072-夜の散歩-



 そんな変わった夢から数日後──。


 ギラつく日差しも少し落ち着き、少しづつ肌寒さを覚えてくるようになったとある日。


 トントン。


 時刻は正午過ぎ。


 この時間に来るということは──。


「はぁ──」


 僕は多分ヘレナだろう。そう思いながら扉を開ける。


「来てあげたわよ!」


 扉を開け、直ぐにヘレナは誇った態度で胸を張り、さも当たり前と言いたげにドヤ顔を見せる。


「いや。来てあげたわよじゃないんだけど?」


 事前に連絡してって何度も伝えてるよね? なんて不満を零しながら、僕は目を細める。


「別に良いじゃない! どうせ暇だったでしょ?」


 そして詫び入れることを知らない様子のヘレナ。


「あのね〜! そういう問題じゃなくて!」


 僕はそんなヘレナに語気を強め、文句を言う体制へ。


「まぁ良いわ。早くお家に入れてくださるかしら?」


 にも拘わらず、ヘレナは本当にマイペースというか、利己的というか……。そう言いながら無理やり僕の家に上がり込む。


 普通に止めたいところだけど、ヘレナの怪力は通常の人間とはまた異なる。


 以前カルマンが、ヘレナに腕相撲で負けている。ちょっとずつ鍛錬なんかも積み始めた僕なんかが、敵わない相手ということは嫌で判断できる。


 こんなのあんまりだよ! もしかしたらヘレナに勝てる相手とか居ないんじゃ……。


 あっいや、神様相手なら解らないけど、同じ人間で見た場合、絶対に、力で無双できると思う!


 僕はなに食わぬ顔で不法侵入するヘレナに諦めを覚えつつ、そのまま部屋に案内した。


『グガーッ!』


 自室に戻ると、フェルがソファの上で大の字になり、大きないびきをかいて寝ていた。


「フェル! 起きて!」


「う〜ん? もう食べれないガウ……」


 フェルは一瞬半目になりながらそんな寝言を口にしたあと、夢の世界へ帰って行く。


 はぁ──。これはあの手を使うか……。


「フェル!」


 僕はフェルの名前を呼び、尻尾を思いっきり掴む。


 なにを隠そう! フェルは尻尾が弱点なのは最初の頃に解りきっていた。


 だから起きない時はこうやって起こすと、高確率で起きてくれるんだ!


「ふんぎゃ!」


 フェルは尻尾を掴まれ、なにごとか!? と焦った表情で飛び起き、周りを警戒し始める。


「シッポ掴んで起こすのやめろガウ……」


 そして僕がやったと判るや否や、力強く掴んでいないはずなのに、フーフー。と尻尾に息を吹き掛け、不機嫌そうに不満を垂れ流す。


「ちょっと、ヘレナが座るからあっちで寝て!」


 僕はフェル専用の寝床を指さし、移動するように命じる。


「嫌ガウ!」


 フェルはこのソファーがいい! なんて駄々を捏ね、ほんと全然言うことを聞いてくれない。そんなフェルを見ていると、大きな溜め息が自然と漏れ出た。


「私のことは気にしなくていいわよ! リーウィンのベッドの上にでも座ってるわ」


 ヘレナはそんな僕のことを不憫にでも思ったのか、僕のベッドに腰を下ろす。


「で、急に来た理由は?」


「あーそうなの!」


 ヘレナはそう言いながら、「リーウィン、例の連中のことなんだけど──」と続けた。


「あっ! そのことなんだけど、僕もこの前の月見でね!」


 僕はヘレナの話を聞く前に、ルフーラたちと月見をした際、動物の骨を被った、怪しい連中らに出会したことを告げる。


「リーウィンたちだけズルい!」


 僕の話を聞いたヘレナは、ズレているというのかな……? 普通なら、その場に居なくて良かった。そう言いそうなのに、戦ってみたかった。なんて文句を零す。


「いやっ、一応ヘレナも女の子なんだから、危険なことはやめておいた方が良いと思うけど?」


 僕は苦笑しつつ、命は平等にあるんだから、無意味な争いは避けるべきだと諭した。


 まぁ僕がいくら辞めておいた方が良い。と言っても、ヘレナがあの連中らと出会すという憧れを止めることはできないんだろうけど。


 そんなヘレナを宥めながらも、その連中らの話や、ヘレナの話を聞いていると、あっという間に時間は過ぎ母さんが、


「リーウィンちゃん! ヘレナちゃん! ご飯できたわよ〜!」


 なんて元気よく声をかけてきたから、ソファーでいびきをかくフェルは放置して、僕たちだけ夕飯へ向かった。


 そしてもう恒例行事のようになっているけど、夕飯はとても豪華だった。


 事前にヘレナがリクエストしていたカリッシュの火鍋スープも用意されているだけでも感心するのに、その他にも様々な料理が食卓に並んでいた。


 あっ……でも食事中、ヘレナがカリッシュを見て、


「そう言えば、初めてリーウィンの家に来た時もカリッシュを見たのを思い出したわ!」


 なんて問題発言をしたから、母さんがとても食いついちゃって、話を逸らすのがとても大変だったん。


 どうして変なところで思い出すかな……。僕もすっかり忘れていたのに……。いつになったら忘れてくれるんだろ……。はぁ──。


 そんな憂いを感じながらも食事を済ませ、ヘレナに帰ってもらおうとしたんだけど──。


「今日は泊まるわよ?」


 なんて、さもあたりまえの態度で小首を傾げ傾げてきた。


「えぇ……」


 僕はそんなヘレナの発言に、唖然としながら言葉を失った。だけど、ヘレナが怪力だといっても一応(・・)女の子だ。


 なにかあったら大変。僕は仕方なく、ヘレナを家に泊めることにした。


 だけどなにもすることがない。


 僕たちは、「暇だね〜」なんて話していると、ヘレナがおもむろに立ち上がり、僕の部屋から出ていこうとする。


「どこに行くの?」


 トイレかな? そんな軽い気持ちで行き先を確認する僕。


「ちょっと散歩したいなって思って」


 ヘレナはケロッとした態度で、外に出たいと言い部屋をあとにする。


 そこに止める隙なんて一切なく、僕は、


「えっと──あっ、ちょっと待って!? 危ないから着いてくよ」


 そう言いながらも慌てて母さんに事情を説明し、ヘレナのあとを追った。


 十中八九、あの連中らに会うことを目的としているんだと思う。そんな気がしてしかたない……。


 ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※



「あの連中にあっても戦っちゃダメだからね!」


 僕はヘレナに追いついてすぐ、そう注意を促した。


「それは、相手の出方次第かしら?」


 だけどヘレナは、顔に『戦いたい』そんな文字が見えてきそうなほど目を輝かせ、ニコリと微笑む。


「遭遇してみたいかんじ……?」


 僕は冷や汗をかきながら、この感じだと、その連中らを探そうなんて言い出さないか……。なんて不安視しながらそう確認する。


 ヘレナのことだから、事前に確認しないと本気でやらかすと思うんだ!


「絶対。とは言わないわよ?」


 ヘレナは表面上ではそう言い、軽く目を右に逸らした。


(絶対、遭遇して、あわよくば拳を交えたいと……。はぁ──)


 僕はヘレナの表情を観察しながら、あの連中らが現れないことを切に願った。


「この時間はほんと静かよね」


 そんな僕の内なる願いなんて気づかない様子でヘレナは、ポツリと零し、周りを見渡す。


「まぁ旧セリーシア街って、ただの田舎街だからね」


 僕は苦笑しながら、ここが大都市になればほかの街は、最大都市にでもなるのかな。なんて冗談を交えた。


 旧セリーシア街は、本当になにもなくて、あるのは自然豊かな景色くらい。昼は畑や果樹園で野菜や果実を収穫する人はいるけど、夜になるとメテオリットが出る。なんて話もまだあるから、外出する人は殆ど居なくて街灯すらない。


 それに、夜にやっている店もなく皆、早めに寝静まるから、家から零れる光すらもほぼないそんな街だったりする。


「きゃっ」


 そんなたわいもない話をしていると、ヘレナはなにかにつまずき転びそうになりながら踏ん張る。


「暗いし転ぶと危ないから、ほら」


 僕はそう言いヘレナに手を差し出す。


「リーウィンって、そういうところだけは、男の子らしいわよね」


 ヘレナはそう言い少し頬を赤く染め、僕の差し出した手を軽く握る。


〔そういうところ〕とはどう言うところなんだろう? なんて考えながらもまぁ、気にしても仕方ないか。僕はそう考えながら、


「まだ散歩は続けるの?」


 とヘレナに確認する。


 ヘレナは満面な笑みを浮かべ、


「もちろんよ!」


 なんて言いながら、僕の手を引き、ズンズンと前へ進んでいく。


「あんまりはしゃぐと転んじゃうからね!」


「もう! 私のことを、子供かなにかだと思っているでしょ!?」


 ヘレナはプクッと頬を膨らませながらも大丈夫よなんて言いながら、歩くスピードを緩め「本当になにもないわね」と再度呟いた。


 ガサガサッ


 そんな会話のあと沈黙の間が続き、僕もヘレナもなんとなく無言で夜空を見上げながら歩いていた。


 すると、近くの茂みから微かに、ナニカの物音が。


 僕は気の所為かな? なんて考えながらもヘレナに、


「ちょっと確認してくるから待ってて!」


 と伝え、物音の正体を確認しに向かった──。

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