066-嵐が過ぎ去った空に-
066-嵐が過ぎ去った空に-
「ところで。どうしてメテオリットを倒そう。なんて思ったのかしら?」
ヘレナは、僕の隣にちょこんとお尻は着けずに屈み、ムーステオの時はあれ程、文句を垂れていたのに不思議ね。なんて疑問を口にする。
もう既に周囲は暗闇に覆われ、太陽の光さえまるで感じさせない。点々とした星と蒼白い光を放つ月が顔を覗かせ、戦い後の僕たちを労うように優しい風が頬を撫でていた。
「えっと……」
僕はどう説明しようか悩みながらヘレナをチラリと見つめる。その瞳は好奇心が入り混じり、僕の頬を撫でていた風は悪戯気質なのか、今度はヘレナの髪を優しく靡かせている……。
「ハッ! もしかして、あの|カルマン(性格の悪い人)に嵌められたとか!?」
が、そんな風を気にもせず、ヘレナはそう口にする。
「はははっ……違うよ……。カルマンはこの前、気枯れちゃって何週間も意識不明だったんだ……」
僕はそんなヘレナに困惑したような愛想笑いを浮かべつつも、三人にカルマンの様態を説明した。
「えっ!? あんな自信過剰そうな人が、気枯れですって!?」
そんな僕の話を聞いたヘレナは、驚いた様子で目をぱちくりさせる。
そんなヘレナの驚きに呼応するかのように風が歯を揺らし、ザワザワと音を響かせる。
「気枯れってなんにゃ?」
そんな僕の話に疑問を持つクルト。
「いいから続けて」
だけどルフーラは、早くこうなった原因を知りたい様子で、クルトの疑問なんか無視する方向で、僕を急かす。
「目を覚ましたのは今日……。ほんと数時間前くらいかな……? まだフラフラな状態で具現化すらできないのに、メテオリットかもしれない。俺が倒しに行くんだ。って聞かなくて、とっさに僕が倒しに行く! なんて言っちゃって……」
そう口をもごもごさせ過程を話していると、
「あんた、本当にバカなんじゃないの?」
ルフーラは呆れた様子で僕を罵倒する。
その目は心配なんかよりも、自分の弱さを理解していないんじゃないのか? そんな哀れみをはらんでいるように見えた。
「うっ──。バカは酷いよ! 僕だって……、あんな状態のカルマンを行かせる訳には行かなかったし……。もし僕が止めなかったら……、大切な友達が……。カルマンが……死んでたかもしれない……。魂を遣う者も出払っているそんな状況で、僕以外の適任者がいないと思ったんだよ!」
僕は自分が弱いということを認めるけど、それでもこういう経緯があったんだ。と最後の方は感情論で殴りつけるように怒気を強めた。
「リーにゃんは、カルマンっていう人のことを大切に思っているんだにゃ♪」
そんな僕の肩を持つように、クルトはよしよしと頭を撫でてきた。
そんなクルトを横目に、
「それって……。|カルマン(性格が悪い人)が、そう仕向けただけじゃなくて?」
ヘレナは、あの人なら有り得るわ。とかなんとか言いながら、一人で納得した様子で、うんうん。と頷く。
「それは、ないんじゃないかな……」
そんなヘレナに僕は、カルマンがそんなことするわけがない。そう全力で否定した。
「まぁ、本当に意識がなかったのかは僕たちが判断できないけど、|リーウィン(この人)がそう言うなら、信じるしかないんじゃない?」
そんな僕の態度に、ルフーラはぶっきらぼうにそう口にし、そのあとを続くようにクルトもウンウン。なんて相槌を打ち、ヘレナに視線を向ける。
「今回は、クルトさんの未来を視る力でどうにかなったけど、次はどう転ぶか解らないんだから、勝手な行動は慎んでよね!」
そんなルフーラやクルトの反応を見てヘレナはそれもそうね。そう言いたげに、頑張ったわね。そう言いながら僕の頭を優しく撫でてくれた。
「ありがとう」
なんというか……子供扱いされている気がしなくもないけど……。僕はそんなことを考えながらも、感謝を口にした。
「まぁ、なにごともなかったわけだし、ちょっとだけ休憩して帰りましょうか」
ヘレナはもう門限もかなり過ぎているしと、開き直りながら笑う。
「今、なん時くらいなのかな?」
そして、そんなヘレナの一言で、僕は顔を青ざめさせ確認する。
「さぁ?」
「皆が最後に時計を確認したのは何時?」
「僕は十七時五十分頃だにゃ!」
クルトは、最後のお客さんが帰ったあとで、未来が視える前だから……。と計算し始める。
「僕は本を読んでて時計なんて見てないけど、クルトの足なら二、三十分はかかると思う。大体、十八時半、前後にクルトが来たことになるんじゃない?」
ルフーラはクルトが飛び出した時間を、十八時頃と仮定し、そう予測を立てる。
「私、時計が嫌いだから見てないわ!」
そしてヘレナは……うん。誇れないことを誇らしげに、胸を張って言い切った。
「ということは……。外の暗さも考えると二十時頃くらいかな……」
僕は、また母さんに心配かけちゃったな。と思いながら、軽く溜め息を漏らした。
「怒られるとか可哀想……」
そんな僕を見て、ルフーラはそう口にするけど、
「心配してくれる人がいるってことは、いいことなんだよ」
僕は苦笑しながらも、母さんの良さをアピールした。
「へー」
だけど、ルフーラはとても興味なさげな態度を貫き、
「そう言えばクルトはなんで制服のままなの?」
と軽く話を変えた。
「えっ? にゃぁぁぁぁぁ!!!! やっちゃったにゃ……。ボロボロだにゃ……! これ、どうすればいいにゃ……」
クルトは制服で飛び出したことを忘れていたのか、とても焦った様子でルフーラに助けを求める。
「僕、知〜らない。テオに素直に謝れば?」
「怒られるのは嫌にゃ!! ルーにゃん着いてきてにゃ!」
自業自得。そう言いたげに冷めた瞳でチラリとルフーラは、クルトに手を差し伸べようとしない。
だけどクルトは、そんなルフーラにうるうるした瞳で助けを求め続けていた。
「やだよ。面倒臭い」
「そこをにゃんとか!!」
「やだ」
「ルーにゃんの鬼畜! 人でにゃし! 僕、そんにゃ子に育てた覚えはないにゃ!」
「いや僕、クルトに育てられた覚えないし、面倒を見ていたのは僕だと思うんだけど?」
「ハッ! そうかもしれにゃいにゃ!」
冷静な態度のルフーラと、騒がしくも温かみのあるクルトの掛け合いが面白くて、僕もヘレナもクスクスと笑い声をあげる。
そんな僕たちに一瞬、二人はキョトリとしていたけど、空気が伝染していくように、なにが可笑しかったのかも忘れて笑いあった。
※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※
それから数分後、
「そろそろ行きましょうか」
ルフーラとクルトのやり取りを楽しんだ後、ヘレナはそう言い立ち上がる。
それが解散の合図となり、僕はヘレナを。ルフーラはクルトをムーステオに送り届けると言い、そこで解散した。
※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※
「今日は、助けに来てくれてありがとう」
僕はヘレナを送り届ける道中、お礼を伝える。
「一番、最初に気づいたのはクルトさんだから、またクルトさんにお礼言ってあげて欲しいわ」
そんな僕の感謝に珍しくヘレナは、自分のおかげじゃない。とクルトを褒めながら僕の前をずんずん進む。
「そうだね」
そんな会話のあとも自然と話は盛り上がり、色んな話をしながらヘレナを家まで送り届けた。
そのあと家に帰ると、もう二十一時半を優に過ぎていたからか、母さんから「また心配かけて!」と、かなり絞られ、自室に戻った僕は──。
「メテオリットってどこから来てると思う?」
僕はフェルにそんなことを聞いた。
「そんなこと、オレサマが解るわけないガウ」
「そうだよね……」
メテオリットって、どこから来るんだろ?
僕はそう考えていたけど、いつの間に眠っていたらしい──。
※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※
一方その頃、なにやら怪しい集団がメテオリットの件を誰かに報告していた。
「申し訳ございません。あの実験体、フェリスは魂を遣う者でもない一般人……いえ、子供たちに始末されてしまいました」
暗闇に包まれた部屋の中、微かな蝋燭の光が揺らめくと同時に、黒いローブを身に纏いなにやら動物の骨を被った人物が、顔も見えない誰かにそんな報告をしていた。
「そうか、気にするな。まだ実験体なら居る。それに収穫は得たのだろ?」
顔が見えない誰かはそう言い、クック。と笑いながら、片膝をつき、頭を垂れる者に問いかける。
その声はどこか冷酷で尚且つ無慈悲。だがそこに満足気を含んでいるような気配も感じ取れる。
「ハッ。そのものらは皆、魂を具現化させ、メテオリットと闘っておりましたので、恐らく神に選ばれし子かと……」
「ほぉう──。ようやく九人、みつけることが出来た。ということか」
「左様でございます」
「ならば、アレの制作に取り掛かれ」
「ハッ! 新たな世界の為に──」
なにやら雲行きが怪しくなりそうな言葉を残したあと、サッと消える。
そのあと、顔が見えない人物は顎に手を添え、ニヤリと君の笑い笑顔を浮かべた──。