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64.5-一人でもできることを-〔中編〕

 ※※ ※ ※※ ※ ※※ ※ ※※ 



 その頃、ムーステオはというと──。



「クルト、今日もお疲れ様だったね」



 テオは大破したテラスを苦笑しながら見渡し、



「明日から修繕工事に伴い当分、休みになってしまうが申し訳ないね」



 寂しそうな、いや悲しみを灯す瞳でクルトにそう告げていた。



 きっとその心には、どうしてこうなったのか? そんな不可思議さなんかも混ざっているのだろう。



 が、当の本人であるクルトは、そんなテオの言葉に耳を傾けていなかった。



「……ハッ!」



 そう言い、目を赤々と光らせている。



 これは未来予知をしている最中という証だ。



 未来予知をする時、決まってクルトの目は赤く光る。



 なぜ赤く光るかまでは理由を知らぬが、そういった制約でもあるのだろう。



 この時、クルトの脳裏に浮かんだ映像は、リーウィンが危険に晒されるモノだった。それは結末までは解らないが、危機的状況を伝えるには充分なモノ。



 そんな映像を見せられ、クルトは気が気ではなく、ムーステオの後片付けとリーウィンの危機。どちらを優先すべきかと、そんな葛藤を胸の内で渦巻かせていた。



 そしてテオも、長年の付き合いからか? クルトの目が赤く光る現場に幾度となく遭遇している。



 だから、なにかあるのだろう。ということに薄々気づいていた。



 普段とは異なる目の色に変化する理由が気にならないと言えば嘘になるが、テオは優に百は超える年月を生きている。



 それを聞くことは敢えてせず、



「クルト、なにか大事な用事でも思い出したのかな? なにか用事を思い出したんなら、片付けは私の方でやっておくから行ってきなさい」



 と、これが大人の余裕というものだろうか? クルトの気持ちを優先し、優しく背中を押した。



 クルトはかなり解りやすい性格が故に、なにかあればそれが顔に出てしまう。その様子を察して見送るのも自分の仕事だろう。テオはきっとそう思い、背中を押したのだろう。



「マ、マスター。ごめんなさい! 私行かなきゃ……!」



 クルトは珍しく通常運転である語尾に〔にゃ〕を付けた偽りのキャラではなく、切羽詰まった様子でムーステオの制服を着たまま、店を出ていってしまった。



「──制服は、脱いでから行こうね……」



 そんなクルトの背中を、心配そうに見送り、テオはボソりと呟きながらも、クルト(あのこ)が素の自分を出したのはいつぶりだろうか……。などとしんみりしていた。



 二十分後──



 ドンドンドン



「ルフーラ!!!」



 クルトは息を切らしながらも、ルフーラの家のドアを思いっきり叩いた。



「えっ、クルトどうしたの……?」



 そんなクルトとは裏腹に、ブカブカのロングスリーブな装いに、ズボンなどは履かず、小鹿のような細い足を露出させ、気だるそうに対応するルフーラ。



 が、そんなルフーラもクルトの血相を変えるほど焦った態度や『ルフーラ』と普段とは異なる呼び方に、これはただごとではない。そう直感しながらも、なにを焦っているのか理解できず、小さく首を傾げた。



「大変なの!」



「大変って言われても……なにが? テオがなんかしでかしたの?」



 クルトの尋常じゃない焦りは充分伝わっている。だがそんな言葉だけでは理解できないのもまたルフーラなのだ。



 ルフーラは、なにがあったのか詳しい説明を求めることにした。



「えっとね、えっと……っ! リーにゃんが、殺されちゃうかも!」



 が、クルトは何度でも言う。今、非常に焦りを覚えている。未来予知などという、現在進行系ではない未来のこと柄に、焦燥感を覚え気が動転している状態だ。



「話が見えてこないんだけど……どういうこと? 詳しく言ってもらわなきゃ……」



 ルフーラは困惑した表情を見せるが、その心の奥底では、なんの脈絡もなく殺されるかも。などと不穏なことを言われても、理解できない。そう思っているのだろう。



 薄ら揺らすルフーラの瞳がそう物語っているような気がした。



「えっとね……、えっと……」



 そうは言われても、なにから説明したらいいのか解らない。目まぐるしく脳裏を駆け巡る情報たち。そして飛び交う映像たちに翻弄されるようにまとまらず、泡のように消える言葉。



 そんな様子でクルトは目をぐるぐる騒がしく回しながら、必死に「あっ」だの「うっ」だの意味のわからない音の羅列(られつ)をならべながら説明しようとする。



「クルト。大変なのは良く解ったけど、一旦落ち着いて。深呼吸して」



 が、必死に伝えようとする意思は理解できるものの、その無意味な時間はルフーラにとってはかなり効率の悪いもの。



 ルフーラは冷静な態度で、クルトの両頬を軽くペシペシと叩いたあと、顔を覗き込み深呼吸をする様に促す。



「はぁ……ふぅ……はぁ……ふぅ……」



 ルフーラに促されるまま、クルトは普通の深呼吸を繰り返す。どこぞの|リーウィン(アホ面)とは違い、まともな深呼吸ができるのは安心感を覚える瞬間でもある。



「落ち着いた?」



 クルトが数回深呼吸をし、落ち着きを取り戻してきた頃。ルフーラは強く叩いちゃったかな? なんてボソリと呟きながらも、赤くなったクルトの両頬にポルパスを貼りつつ様子を伺う。



※ポルパス=顔にも貼れるこの世界の湿布の様なモノ※



「うん。ありがとう、ルーにゃん!」



 クルトはなんとか落ち着きを取り戻し、そう感謝したあと、通常運転的キャラで、ルフーラに説明を始めた。



「リーにゃんは今、メテオリットと戦ってるにゃ!」



 クルトがそう切りだすと、ルフーラはなんで? そう言いたげな表情をしながらも、疑問をクルトにぶつけず、



「それから?」



 そう相槌を打ちながら、話を真剣な表情で聞く。



「今は、互角の戦いっぽいんだけど……。あと一時間後くらいに、相手の罠にハマって襲われちゃうにゃ! 全部は見えにゃいから、結果は解らにゃいけど……これはきっと、危にゃいと思う!」



 クルトは、リーウィンを助けに行きたいけど、自分一人じゃ絶対に無理だから協力して欲しい。



 うるうるとした瞳でルフーラにこん願する。その様子はかなり本気度が伝わって来るモノで、この時のルフーラは少なからずリーウィンに、嫉妬のような感情を抱いたことだろう。



「僕たちが行っても意味ないでしょ?」



 そして一言、なんのために行くのか? そう冷静な態度を貫き、クルトに問いかける。



「リーにゃんを見捨てるのかにゃ?!」



 そんなルフーラの態度に怒りというのか、寂しさを覚える態度でクルトは、とても真剣な顔をしながら、それでも仲間って言えるのか? 薄情モノ! などと好き勝手なことを言い始めた。



「はぁ──。別にそう言う意図があったわけじゃないんだけど。まぁ、どうなるかは解らないし、僕たちじゃ荷物が増えるだけだと思う。まず、ヘレナ(あのひと)に連絡すべきなんじゃない?」



 ルフーラは大きな溜め息をつきながらも、冷静に状況を判断した。



「えっ、……今からにゃ?」



 だがクルトからするとそれは効率が悪く感じてしまう。



 今からだと間に合わないんじゃ……。クルトは焦燥感からか? 弱気な態度をみせながら、心配そうにソワソワとし始める。



 だが、現実的な問題がある。魂の具現化もできない、一端の魂の使命こん願者(ドナー)と、喫茶店の従業員が、二人だけで現場に向かってなにができるというのか? そこに着目しなければ、死にに行くも同然。



「ルーン今、大丈夫?」



 そんな頓珍漢なことを言うクルトのことなどお構いなしにルフーラは、問答無用でファルファルーンを影の中から呼びだす。



「キュウ?」



 影の中から、水色をまとった小竜の様な可愛らしい魂を守護するモノ(ツカイマ)が、キョトンとした表情で首を覗かせ大きな欠伸をする。



「今、あの人……リー……ウィンが危ないらしい。アスタロッテに伝えることはできる?」



 ルフーラは普通に喋ることを許可すると指示を出しつつ、リーウィンの状況なんかを手短に伝え、アスタロッテに伝えて欲しいと頼んだ。



「はぁ──。解った。ちょっと待ってくれ」



 ファルファルーンは大きく憂愁を含む溜め息をついたあと、アスタロッテが居ると思わしき方角を向き、ピタッと動きを止める。



 そして時より面倒くさそうな顔をしたり、怒った様な、複雑な表情を見せたあと、



「赤毛には伝えた。場所も、し…………。そこのネコモドキが言っていた場所付近で、待ち合わせするように伝えた」



 ファルファルーンは一瞬、なにかを言いかけ寸止めしたあと、クルトのことをネコモドキ称し、気だるそうな溜め息を一つ。



 待ち合わせ場所などこと細かに伝えたあと、要件が済んだのなら。そう言いたげに自ら影の中へ戻ろうとする。



「ファルにゃんは賢いにゃ!」



 そんなファルファルーンを見たクルトは、目をキラキラと輝かせ、シャルにゃんも出来るかな? なんて好奇心旺盛な様子で、影に戻ろうとするファルファルーンを引き止めた。



「同じ神なら基本的にどこにいても、会話はできる。まぁ例外もあるがな」



 ファルファルーンはそう言い、堕神したモルストリアナと連絡を取るのはかなり難しく、周波が合ったとしても、応答して貰えない。そう答えた。



「でもシャルにゃんは、いっつも寝てるしにゃ〜」



 クルトはキョトリとしながらも、影の中からモフモフで角が九本生え、顔に目が三つある子羊を取り出した。



 そしてなにをするのかと思うと、ルフーラたちに見せながら、自分はして貰えないんじゃないか? などと不安を零す。



 その子羊は正真正銘シャルルートなのだが、以前同様、スヤスヤと寝息を立てるその子羊を見れば、クルトが不安視していることも解らなくはない。



「シャルは寝ているが、会話なんかは全部聞こえている。だから寝ながら会話もできるているはずだ」



 ファルファルーンはシャルルートを睨みつけながら、



「そういうことは事前に教えてやれ」



 そんな小言を漏らしながらも、何度目かの大きな溜め息を漏らした。



「そうだったのにゃ!? たまに、寝言と会話が噛み合うと思ったら、そういうことだったんのかにゃ!」



 クルトは驚いた表情で、ファルファルーンに感謝を伝え喜ぶ。が、そんな話をしているだけの時間はあるのか? そんな不安を感じさせるほど、クルトのせいでほのぼのとした空気が漂い始めた。



「あんまり無駄話してる時間はないんでしょ? 早く行こ」



 そんな危惧的状況とは思えない空気を察してか、ルフーラはファルファルーンに大きくなるように指示を出し始める。



 ファルファルーンは「面倒臭い……」と気乗りしない態度で大きな溜め息を吐く。



 が、ルフーラがそれを求めていることを理解している。



 ファルファルーンは再度、大きな溜め息をついたあと、身体を大きくし、立派な龍へ姿を変化させる。



 だが立派になったのは身体だけだ。顔などはいかにも戦闘向きではなく弱々しいままの見た目。



 クルトは少し、ギャップを感じたのか? 困惑した表情を浮かべるが、今はそんなことに時間など割いている暇などない。



 そう理解したあと、大きくなったファルファルーンの背中に乗り、アスタロッテと待ち合わせした場所へ向かった。

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