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063-メテオリットの気配-


「カルマン! ヌワトルフ神父を、クソジジイなんて罰当たりな呼び方するのは、よくないと思うよ?」



 僕は、カルマンとヌワトルフ神父が過去になにがあったのか? その理由は判らないけど、優しい口調で注意を促す。



「あいつが今までやって来たことに比べりゃ、俺のやってることは、罰当たりにすらならないだろ」



 カルマンは呼吸を整えたあと、大声を出して悪かった。と、小声でそう言い俯く。



「カルマンは、ヌワトルフ神父が嫌いなの?」



「あぁ。殺したいほどにな」



 カルマンは、僕のそんな問い掛けに、憎しみを込めた声でそうポツリ零す。



 なにがあったのか。正直気になる。



 それに少し前の僕ならば、根掘り葉掘り聞いていたかもしれない。



 だけど……。これは土足で簡単に、踏み込んでいいほどの内容じゃない気がする。



 僕は聞きたい気持ちをグッと抑え、



「そうなんだね……」



 無難にそう返事した。



「なにがあったか、聞かないんだな」



 カルマンは、僕のことだからなにがあったのか、聞こうとしてくると思ったらしい。意外な返事に驚いた表情をみせる。



 本当は聞きたいよ。でも聞いても答えてくれないのは目に見えて解る。



 これでも僕は日々成長中だ。身長なんかは伸びなくても、他を成長させることができれば、少しは憧れの大人になれる気がするから。



「気にはなるけど、聞いてもカルマンは、答えてくれないでしょ……?」



「…………そうだな」



 カルマンはどう答えるか、そもそも僕に打ち明けるか否かを思案していたんだと思う。それほど長く間を空け考えたあと、教えない。そう決めたようにポツリと呟いた。



「……………………」



「……………………」



 そんな会話のあと、どこか話しかけずらい空気が漂い、僕もカルマンも、沈黙を貫く。



 その沈黙はどこか焦燥感を覚えてしまう。



「……。あっ!そうだ!」



 そんな沈黙に痺れを切らした僕は、思い出したかの様に声を上げる。



「……急にでかい声を出すな。耳に響くだろこのバカッ!」



 カルマンは、僕が急に大きな声を出したからか、ビクッと肩を揺らし、眉間に皺なんか寄せて怒気を強める。



「ごめん、ごめん! でも、バカはさすがに酷くないかな〜」



 体に響くじゃなくて耳に響くんだ〜。なんてことを脳裏に過ぎらせながらも、愛想笑いをしたあと、持っていた紙袋の中から小さなフラワースタンドと、ミルクに合うと言われた紅茶セットを出し、渡した。



「なんだこれ?」



 カルマンは、なぜこんなモノを? そう言いたげな表情で、キョトンと小さく首を傾げる。



「えっとフラワースタンドと──」



「それは見ればわかる」



「あ……、こっちはね! カルマンはミルクたっぷりの紅茶が好きなのかなって思って、ミルクに合うキームン? だったかな。って言う、紅茶のセットを買ってきたんだ!」



 僕は満面の笑みでカルマンに説明する。



 確かクルトの説明では、キームンはキーマン・キーモン。



 なんて複数の呼ばれ方をしているけど、どれも同じモノで、水色は赤色に近く、香りの方はとてもフルーティー。なにかの蜜の様な香りがするって言ってたかな?



 他にも、キームンに限っては新茶よりも、半年から一年くらい経過させたものの方が、香りや味が強くなって、紅茶界のワインなんて称されるほど良くなるらしい。ということを説明した。



「──っ! 俺がミルクがないと飲めないことを知っていたのかっ……?!」



 カルマンは一瞬、驚いた様な、隠していたことがバレて恥ずかしくなった様に目を見開き、顔から耳まで赤く染め、顔を伏せたあと僕に聞く。



「えっ? カルマンって、ミルクがないと飲めないの?」



 僕はカルマンがミルクなしで紅茶を飲めないということを今更知り、見た目とのギャップで思わず笑ってしまった。



 そういえば……。クロムティーを出した時もミルクをくれとか言ってたけっけ?



 まぁ……顔に似合わず可愛いところもあるんだな。なんて考えると、余計に笑みが溢れ出る。



「チッ。笑うな、このバカッ……」



 カルマンは恥ずかしそうに、僕を睨み悪態をつく。



「ごめん、ごめん。あははは! カルマンに、そんな可愛い部分があるとは思ってなくて……!」



 僕は、カルマンがミルクなしで紅茶が飲めないということがとても可笑しくて、思い出しながら笑い転げる。



「おまえ、喧嘩でも売ってんのか? 今すぐ笑いを止めないと、おまえの腸を抉るぞっ?!」



 カルマンはそう言い、魂で鎌を具現化しようとする。



 だけど具現化は上手く出来ず、一瞬カルマンはベッドに座っているだけなのにふらついた。



 多分だけど、気枯れで魂力が枯れているんだと思う。



 気枯れは邪気の様なものだから、体に溜まり続けると毒になる。



 カルマンはその毒をずっと体内に残したまま、力を使い過ぎて毒が体に回っている。そう考えると解りやすいかもしれない。



 その毒の一部を僕が抜いたけど、全てを取り除いたわけじゃないから万全な状態とは言えない……。



「カルマンは、病み上がりなんだから、無茶しちゃダメだよ!」



 僕はそんな思考の末、慌ててカルマンが鎌を具現化しようとするのを止め、ベッドに横になるよう促す。



「ふんっ」



 カルマンは別に大したことない。そう言いたげに不貞腐れながらも、大人しくベッドに横になり、鎌を出すのを辞め、代わりに僕を鋭い眼光で睨みつける。



 ほんと、カルマンは睨むくせを辞めるた方が良いと思う。



 どうしてそうも睨み癖がついたのか。僕にはちっとも解らないけど、それだけでかなり損をしている気がする。



〔なぉ〜んっ〕



「ねぇカルマン!」



 僕は微かに聴こえてきたナニカの鳴き声と被せるように、カルマンに話かける。



「……少し黙ってくれ」



 だけど、そんな声をいち早く察知し、カルマンは真剣な表情で耳に意識を集中させる。



 だけど僕はその声を聴き逃していた。だから僕、カルマンを怒らせるようなこと言ったっけ? そんなことを考えキョトりとしながら



「えっ……?」



 なんて驚きつつも、カルマンの言う通り大人しくし、同じように耳を澄ましてみた。



〔ぬわぁん、なぉ〜ん。〕



 微かだけど、なにかの鳴き声のようなものが聴こえる。



 バサッ。



 それと同時にカルマンは、急に腕に繋がれていた管などを大胆に抜き取り、床に足を着けたあと、ベッドから立ち上がろうとする。



「カルマンどうしたの!?」



「メテオリットかもしれない! 俺が行かないと……」



 カルマンは急に立ち上がったからか、少しよろけながらも、メテオリットを倒さなければ……。なんてうわ言のように呟く。



 その姿はかなり無理をしているように見える。そもそも目が覚めたばかりで体なんてまともに動かせるわけがない。



「ダメだよ!? 安静にしてなきゃ!」



 僕は必死にカルマンを止めようと声を大きくし、ベッドに戻そうと奮闘する。



「俺が行かないで誰が行くんだ!?」



「他の魂を遣う者(シシャ)も居るじゃないか! カルマンが行く必要はないんじゃないの!?」



 それに、具現化ができないカルマンはきっと、誰かの魂を使うこともできないと思う。



 もし魂を遣えるんならば、僕が付き添い、連れていくことも可能。だけど無理だと思う。



 もしここで、そんなカルマンを止めないで行かせてしまえば、はい、死んできてください。そう言っているのも同然だ。



 ここはなんとしてでも止めなきゃ、僕が命をかけて守った意味がなくなる!



「今、まともに行動が出来る〔シシャ〕は俺だけのはずだ! この前、居たヤツらも別の仕事で手が離せないだろ」



 そう言いカルマンは、僕の制止を振り切り「俺が行かないと……」なんてよろけながらも、病室の扉に向かおうとする。



 普段は上からな態度が多いカルマンだけど、変に生真面目で、頑固だ。



 こんな体で言っても、死に急ぐだけなのに、どうしてカルマンは、ここまで必死になるのか。僕には理解できない。



「そんな、フラフラの身体じゃ、行っても死んじゃうだけだよ!」



「俺が死んで救われるなら、それはそれで良いだろ!?」



 カルマンは自暴自棄になったかの様な態度で、僕に鋭い眼差しを向けてくる。



 そんな目をしても絶対止めるよ!  自分が死んでも救われるなら。なんて言うのが悲しくて、悔しくてついカルマン同様に、僕も意固地になり、



「魂を具現化できない今のカルマンになにができるの!? 死にたいの!?」



 そんな感情のまま、つい声を荒らげてしまった。



 そんな僕にカルマンは一瞬、驚いた表情を見せるけど、関係ない。そう言いたげな様子で僕の体を強く押す。



 僕はその拍子に勢いよく尻もちをつきながらも、カルマンの足を握る。



「その手を退けろ!」



 カルマンは鋭い目付きで睨みつけ、僕の手を踏みつけようとフラついた体のまま足をあげる。



 だけど、バランスが上手く保てないのか、揺らめく体は、本調子ではないことを嫌という程僕に教えてくる。



 そんな無茶をするカルマンに、僕は心底腹が立ち、



「あ──っ! もうっ! カルマンのおたんこなす! なんで解らないかな!? 僕が悲しいよ! カルマンに死んで欲しくない! 漸く……。漸く、カルマンと仲良くなれたって思ったのに! 普通のカルマンに戻ってくれたって安堵してたのに! カルマンは今、毒が回っているような状態なんだよ!? 僕の力も万能じゃない。今は安静の時なんだよ! お願い……だから……命を大切にしてよ!」



 僕はカルマンの鋭い目付きに、一瞬たじろぎながらも、カルマンのことが大好きで、これからもずっと一緒に居たい。もっと仲良くなりたい。そんな本心を感情任せに吐き連ね、最後には涙を浮かべながら、必死に行かないで。そうこん願した。



「俺が…………。別に、おまえとは仲良くもなにともない。勝手に懐いてきたのはおまえだ。俺はなんとも思っていない! だからそこをどけ」



 カルマンはなにか言いかけたあと顔を伏せ、僕に表情を隠したまま冷たい言葉で突き放す。



 だけど、僕の手を踏みつけることはせず、ゆっくりと足を床に下ろした。



「…………」



「手を退けろ。そして、俺の目の前から消え失せろ!」



 カルマンは、近くにあった壁をドンッ。と、力強く叩きながら大声で、僕に威嚇するような態度を見せる。



「なんで!? どうしてカルマンは、いっつも一人でなんでも抱え込もうとするの!? 僕じゃ力不足……だよね……」



 僕は、そんなカルマンを見て、とても恐怖を感じてしまったけど、一人、死に場を探している野良猫の様な気がして、僕じゃ力不足なの!? そう言いかけたけど……。力不足なのは目に見えて判る。嘘でも僕を頼ってよとは言えなかった。



「よく解ってるじゃねぇか。解ってんなら、とっとと消え失せろ!」



 カルマンはそう言いながら、覚束ない足取りで、たまにふらつきながら、僕の手を振り払い胸ぐらを掴む。



「……僕が……。僕が、カルマンの代わりに様子を見に行って、もしメテオリットだったら倒す!」



 僕はとっさにそう言い切り、カルマンの腕を掴む。



 僕は気枯れていないからロザルトの鞭も出せる。



 それに新しい使い方も見つけた。



 だから前より幾分マシな動きはできると思う。



「──っ!ダメだ! おまえはまだ上手く立ち回れないだろ! 死にたいのか!?」



 カルマンは僕の身を案じる様な言葉と表情で、



「それにおまえ、かなり震えてるだろ!?」



 なんて僕の足を見ながら危険だと言う。



 あ──。カルマンは、僕のことなんてどうでもいいと言ったのは、嘘なんだ。良かった──。



『死にたいのか』その問に安堵しながら、そんなカルマンの手を優しく握り直し、



「でも、今のカルマンよりかは役に立てると思うよ?」



 なんて僕は誇らしげな顔をして、ここで待ってて。と伝えたあと、新しく見つけた力の使い方。



 同時に複数の具現化ができることを最近知ったから、ロザルトの蔓で拘束し、身動きを取れないようにしたあと、僕はカルマンの制止も聞かず病室を飛び出した。



「おい! 待てよ」



 そんな声と、カルマンがベッドから転げる落ちる様な音がした気がするけど、僕は教会の人がどうにかしてくれる。そう信じ、声がした方角へ向かった。



 だけどそれと同時に、もしかしたら落ちない様にベッドに縛り付けた方が良かったかな? なんて後悔もした。



 まぁ、大丈夫だよね……?

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