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-カルマンの生還、そして新たな問題-3P
……これは、本当にカルマンなの? と……。
赤い月が現れていた時のカルマンはとても怖くて……人々が感じる恐怖を具現化したようなおぞましさがあった。だけど、今のカルマンにそれは感じられない。なのに、目の前にいるカルマンが本物なのか確信が持てない。
そんな自分の心境の変化に戸惑いを覚えていると、
「鬱陶しいな、キャンキャンと喚くな」
カルマンは不快そうに眉根に皺を寄せ、僕を鋭く睨みつける。
かと思えば、急に僕をマジマジと凝視し続けてきて──
「それより、なぜそんなにボロボロなんだ?」
なんて虚ろな瞳をしながら続ける。
その言葉からやっぱりカルマンは、おかしくなった時の記憶がないんだと思う。
それはあのカルマンが本当のカルマンじゃないという証拠。だけど……あんなに辛くきつい思いをしたのに、忘れられているなんて……。そんなダメな気持ちが湧き上がり、僕は無言のままそっと顔を伏せる。