-成長、そして覚悟-10P
どれだけ足掻いても死ぬか生きるかしかないなら……。死ぬなら僕一人で充分だ。
「主様…………。その力は諸刃の剣です! それは古代の魔術を模した魂術です! あなた様のお命が消えてしまう恐れが……っ!」
白い獣の焦る声が耳に届く。
へー。これって、古代の術なんだ。
どうしてそんなものが僕の頭に浮かんだんだろう? そう考えるのが、普通の反応なのかも。
だけど、今の僕はどうやら異常になっちゃったみたい。僕の命ひとつでカルマンを救える可能性があるのなら、その可能性がたとえわずかでも、それで充分。ほかになにもいらないかな。
そんな覚悟を胸に秘める。
それよりも、死を覚悟すると、こんなにも心が軽く、清々しい気持ちになるんだ……。その事実に、驚きすら感じてしまった。
でもすぐ、
母さんを泣かせてしまうな……。
母さんとの約束を守れず、親不孝者だって責められるかも。でも、それも仕方がないよね……。
そんなちょっとの後悔が胸を過り始める。
僕はそんな後悔に『ごめんね』そう懺悔しながら、最後の言葉を紡ぐ。
「──ロザルト・ガルディアン」
その最後の言葉を聞き、白い獣が目を見開き、僕の元へ駆け寄ろうと一歩踏み出す。
だけど、その動きがやけにゆっくりと見える。まるで、時間が引き延ばされたかのように、すべてがスローモーションになっていく。
カルマンが狂い始めた時のように、すべてが歪んでいるような感覚。そんな不可思議な感覚を覚えながらも、大量の血を流しているんだから、無理しちゃダメだよ。
そう心の中でつぶやきながら、僕は白い獣に向かって満面の笑みを浮かべた──。