-二匹の獣-9P
「……あなたは、我が主に仕える下僕様の現状を把握していながら、それでも仕組まれた暴走を止めるつもりは毛頭ないのですね」
僕がどう動くべきか必死に考えていると、白い獣が冷静で落ち着きのある声で黒い獣に問いかける。
状況の危機感とは裏腹に、白い獣の態度はどこまでも冷静なように思える。そして、どうやらカルマンのことを僕の「下僕」だと誤解しているらしい。丁寧に「様」までつけている。
それが礼儀なのか、人ならざる者へ落ちていくカルマンへの皮肉なのかよく解らない。でも、そんなことを考えている余裕はないのだけは判る。
「あぁ。俺様は、コイツの思う通りに動く。それが俺様の決めたルールだ」
黒い獣はそう言うと、まるでカルマンに対して恩情でもあるかのように、白い獣に向かって牙をむき出しにして唸り始める。
それに反応して、白い獣は僕を守るように前に立ち、まるで猫のように毛を逆立て、黒い獣に向かって同じく牙をむき出しにし威嚇する。
白い獣と黒い獣が睨み合う姿は、まるで僕とカルマンの姿を映し出しているようだった。お互いに求めているものが違い、それぞれの立場に縛られ、望まずとも対立しなければならない状況にある。
それは一生理解し合えない──