プロローグ2-運命の序曲と動く歯車-
「運命の歯車が、もうじき動き始めます」
暗闇に呑まれた少女が意識を取り戻すと……ああ、済まない。どうやら少女だと思っていたが実は少年だったようだ。完璧、容姿に騙されてしまった。
彼女……改め、彼の名はリーウィン・ヴァンデルング。なんの力も持たぬ十六歳の青年。
この世界で十六とは成人とされる年齢なのだが、彼の容姿はどう見てもその言葉が当てはまらない。
リーウィンは、男だというのに白く透き通る肌を持ち、限りなく白に青を帯びた銀髪がトレンドマークの少年だ。その銀髪を、クラゲカットのようなセミロングにしており、ぱっちりと幅広の二重に、ふさふさのまつ毛が添えられている。
ここら辺で雲行きが悪くなるのだが、それに付け加え、薄ら桃色に染るぷっくりとした唇と、やや低めの身長も相まってか、完全に女性にしか見えない。いや、疑いの眼差しを向けたくなるかもしれないが、本当に女にしか見えないのだ。
まあなんだ、リーウィン自身もそんな周囲の反応には慣れているだろう。
良くいえば可憐さを持ち合わせていると言えるだろうが、彼はれっきとした男。容姿は女なのに、女にはない一物を所持していると考えると、鳥肌モノである。
リーウィンの視界には、見渡す限りの白が広がる無機質な空間。そこに、光すらも吸い込むような純白が静かに佇んでいた。まるで幻影のように揺らぐその姿は、現実か夢かかも判然としない。だが、その声だけがリーウィンの意識に直接触れていた。
「運命の歯車……?」
リーウィンは、自身に向けられたその言葉に戸惑い、不安げな瞳で白い影を見つめている。
が、彼はただの少年。特別な才能もなければ、どこにでもいる村人Aでしかない。にも拘わらず、『運命』などと言われても、到底、理解などできるはずがない。
「僕の運命って、なんですか?」
リーウィンは、恐る恐る問いかけた。しかし、虚像は答えを返すことなく、ただ沈黙を続ける。その沈黙は、まるで深淵を覗き込むように重苦しく、彼の不安を増幅させていく。
そして──
「あなたが次に目を覚ました時、話した内容の大半を忘れているでしょう」
虚像はそんな前置きのあと、
「あなたには、この国に覆われし仮初という名のベールを暴いて頂きます。その過程で様々な出会いや別れが訪れることでしょう。そして──」
そう告げ、再び静が響く。
この国の真実を暴けと言われたところで、リーウィンからすれば不可解でしかない。だが、なぜだか彼の心臓は、この運命から逃れることはできない。そう予言するようにトクンと小さく跳ねた。
それと同時に、突如として白い空間が揺らぎ始め、リーウィンから離れていく。
それはなんの前触れもなく訪れたモノ。彼は
「えっ、ちょっと待って!? どういうこと!?」
反射的にそんな声を上げたが、その言葉は虚しく空に吸い込まれていく。
そんな非現実的で緊迫感のある空間にも拘わらず、白い影は少し抜けているのだろう。
「あっ……、言い忘れていました。あなたは運命を歩む過程で、魂の使命こん願者になるでしょう。ですが、その理由までは深く考えなくて良いのです。あなたの運命を決める権利は、私にありますので」
慌てふためくリーウィンなど他所に、そう言葉を紡ぎ、最後には自己満足したのだろう。
「さあ、様々な選択をし有限の命の中、未来を切り開き抗いなさい。そしてこの世界の真実を暴きなさい」
そう言い残し、虚像の姿は段々と薄れ、やがて霧散するように消えていった。最後に残ったのは、リーウィンの胸に刻まれた、名状しがたい『運命』という名の不安ただ一つ──
0章は序章部分になります。
1話から、一人称スタートです。