227-知らない記憶-
『ねぇ! 今日はなにして遊ぶ?』
『姉様と遊びたくないわ!』
誰かの話し声で僕は目を覚ます。
ここはどこだろう?
雨も何も降っていないのになぜか急に水面が現れ、波紋が拡がりそこに映し出される映像の中に吸い込まれる。
『昨日もそう言ってたけど、私のこと嫌い?』
『姉様のことは……嫌いよ』
『そう……』
……ここは誰かの記憶の中ってこと?
黒い髪の可愛らしい少女と、白く明るい髪をした少女がそんな会話をしていた。
多分、十から十二歳くらいだと思う。
なんだろ……知らないはずなのに知っているようなこの感覚は……。
そんなことを考えながら僕はその二人をただ遠くから眺めていた。
『最近、遊んでくれないけど、家の中でもヤダ?』
『ヤダ! 姉様とは遊びたくない!』
『どうして?』
白髪の少女は、寂しげな表情で黒髪の少女を見つめる。
どうして黒髪の少女は、姉様と呼ばれる白髪の少女と遊びたくない。と言うんだろ?
そんなことを考えているとパッと場面が切り替わった。
『明日は演奏会……。
いやよ……。皆、私のことを嫌うもの……』
黒髪の少女はなにかをギュッと抱きしめながらボソリと呟く。
『どうしてそんなに怖がるの?
あなたは世界で一番素敵なのよ?
だから胸を張って!』
白の少女はそう言い、黒髪の少女をギュッと抱きしめる。
そんな白の少女の行動に、黒の少女は困惑するような、悔しがるような。複雑な表情を見せ、抱きしめ返そうとはしなかった。
その映像をじっと見つめていると、ゆらり。
湖面が風で波紋を描くように、視界が歪んだかと思えば、またすぐに場面が切り替わる。
次はさっきの時間軸から数時間後くらい?
白の少女が寝静まった頃。黒の少女が住まい? のようなところから、一人でに出て行く。
多分だけど、そんな黒の少女に着いていけって言ってるんだと思う。着いていこうなんてこれっぽっちも思ってなかったのに、気が付けば僕は、その少女を追っていた。
『絶対無理よ……
私はここから追い出されるんだわ……』
そう言いながら黒の少女は、得体の知れない恐怖心から逃げ出す様に、歩む速度をあげ、不気味な気配を放つ洞窟へ入っていく。
どうして、黒の少女は、そんなにも不安や恐怖を抱いているんだろう……?
何かあったのかな?
そんなことを考えているとまたパッと場面が切り替わり、次に映し出されたのはどこかの会場だった。
『いつまで待たせるんだ!
このお方を誰かわっているのか!』
そう言い、背中に羽が生えたとても怖そうな男が、白の少女を叱責している。
『申し訳ございません。
ですが、妹は極度の神見知りで……』
白の少女は寂しげな表情を浮かべ男の人に謝罪する。
だけど、僕的に気になるのは――かみ見知りって言う言葉。
……かみ見知り……?
人見知りじゃなくて……?
……? かみ? 髪? 紙……。
そんなことを考えると、ふと僕の脳が閃いた。
《神――?》
人型だけど翼があるし……神様だって言われてたら納得できそうな気がするけど……。まだ半信半疑。
本当にこの人たちは神様なのかな? 僕はそんなことを考えていると、男の神様? らしき人が、再び怒号する。
『そんなことどうでもいいんだ!
早く連れてこい!』
そんなタチの悪そうな男の神様の怒声に、多分恐怖が募りすぎちゃったんだと思う。
白の少女は、
『申し訳ございません。
妹の所在は私にも分かり兼ねるため……』
そう言って、何度も何度も謝罪を繰り返した。
だけど、白の少女の謝罪は受け入れられることはなかった。それどころか、白の少女が謝罪する度。男の神様の怒りは上昇するばかり。
そんなやり取りを延々と見せられ続ける中。白の少女が突然、謝罪と共に違う単語を口にしはじめる。
『申し訳ございません……。
⬛︎⬛︎⬛︎……は……』
だけど、その言葉はノイズ混じりで……。まるで僕には到底理解できない言語のように聞き取ることはできなかった。
なんて言ったの? そんなことを思いながらも、どうにかその名前を確認する方法がないか。僕は必死に考えを巡らせた。
だけど、どれだけ考えを巡らせたところで、その答えを知ることは不可能。
そんな僕にタイムオーバーを突きつけるようにして、やがてパッと画面が切り替わる。
『どうして!?
お願い目を覚まして!』
空が陰り、雷鳴を轟かせる背景に、白の少女がなにかを見ながら泣き叫んでいた。
だけどその正体が映し出されることはない。
直後。
『あなたも敵』
そんな声が聞こえたかと思うと同時。白の少女の近くにいた神様が、次々と光の槍のようなもので串刺しにされていく。
だけど、それは突然のこと。僕はなにを見せられているのか理解出来ず、ただただその光景を見守るしかできなかった。
でも、きっとこれは、誰かの走馬灯なんだと思う。
情報過多で無理解を示し続けていると、またパッと場面が切り替わる。
『お願いします。
どうか妹の命までは……!』
白の少女が、威厳のある男の神様? 白ひげのおじいちゃんに、必死な様子で懇願していた。
けれど、その言葉は聞き入れられることがないんだと思う。
『これは決定事項だ』
そう一言、口を完全に閉ざしてしまう。
そんなおじいちゃんに白の少女は、泣き叫ぶようにして懇願を続ける。
『お願いです。
この子は悪気があったんじゃないんです!』
『何人もの神が命を失った。
その代償はお前の妹の命をもっても償うことは不可能だろう。
だが、私も悪魔ではない。
それで手を打ってやると言っているんだ』
口を閉ざした男は、白の少女の懇願に無視を決め込むことができなくなったのか。再度口を開いたかと思えば、無慈悲な言葉を突きつけはじめる。
そして、大きく太い槍のようなものを、なにかに向かって投げつけた。
『止めて!』
白の少女がそう言ったところで槍のようなモノは既に、おじいちゃんの手元を離れ、なにかに放たれている。
泣き喚こうがなにをしようがもう手遅れでしかないと思う。
『妹の命を失うくらいならば、私が代わりに罪でも罰でも全てを受けいれます!』
その言葉から推測するに、多分……妹が突き刺されそうになってること?
視点が、白の少女に寄っているせいで何もわからないけど、多分……そうなんだと思う。
そんな白の少女は、槍の軌道と同じ方向へ飛び立とうとする。
でも、なにか見えない……。シールド? の様なモノに阻まれるようにして、片羽が焼け落ちていく。
『くっ……
お願いします!
妹の本心ではないのです。
私の力でも命でも、なんでも返します
なので妹だけは……!』
『……』
だけど、おじいちゃんは、白の少女に一瞥をくれることなく。こうするしか方法がないと言いたげな表情を貫き続ける。
やがて、再び場面が切り替わったかと思えば、天空から、黒い塊が地上へと落下するシーンが再生される。
『〜〜!』
誰かが悲愴感たっぷりな声で叫ぶ。
多分だけど、ずっと白黒の少女の映像を見せられていたから、黒の塊は――恐らく。妹と呼ばれていた黒髪の少女なんだと思う。
もしかすると、白の少女からすれば、黒髪の少女――妹が最愛の人なんだと思う。
そう考えると同時。僕の胸がギュッと締め付けられていく。
多分、ヘレナと重なっちゃったのかも。
そんなことを考えながらも僕は、ヘレナのことを思い返していた。
だけど、それはダメなことだったらしい。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
そんな悲鳴にも似た野太い叫び声が、僕の耳を劈いた。
その音と共に、プツン。僕の視界が徐々に暗転していく。
そして――
ふと意識を取り戻すと同時。僕は、現実の世界に戻ってきてしまったらしい。
あれはなんだったんだろう……。
知らないはずなのに知っているような……。
そんなことを考えながら、僕はシールドの中から外の様子を窺った。
どうやら、さっきの野太い声の正体は、ヌルだったらしい。
僕の眼前。横たわるヌルに、蔦を波のように揺らすノインの姿が。
その姿はボロボロ。だけど……どういう生態系をしてるんだろ?
ううん。きっと植物だからかな?
ノインがヌルを捕食すると、その傷が嘘だったかのように綺麗になくなってしまう。
そんなノインの勝利に安堵を覚えながらも僕は、次に蛇の骨を被ったタナストシアへと視線を投じた。
相も変わらずピンピンとした様子のタナストシア。
その相手を務めるのは、白髪化したアリエル。
アリエルは、小さな鎌のような形をしたムセルを両手に持ち、タナストシアに振り回していた。
でも、優勢なのはタナストシアの方。アリエルは残念ながら翻弄されて、ただただ疲労を蓄積し続けているだけのうに思える。
そんなアリエルを助太刀するべく。ルフーラも遠距離から応戦しているものの、まったく効いている様子はない……かな?
これはちょっと……。ううん、かなりやばい状態?
僕は、そう思いながらも薄らと背筋に冷たい汗を流した。
直後。
「すまんがわいちょっと休憩するわ!」
ノインが突然僕に声を掛けてきたかと思えば、返事をする間もなく、巨大な一本のロザルトの花へと姿を変えていく。
そして――いつの間にかカルマンの元から戻っていた僕の魂。
……これは、ちょっと。ううん、非常にヤバイ。
僕は心配そうに浮遊していた魂をそっと両手で包み込むと、一拍。ルフーラが張り巡らせてくれていたシールドを解除し、皆の元へと駆け寄った。




