-お互いの意志。譲れぬ信念-5P
「あなたにも、誰にも……。話したことがないのだけど…………。シルプが神隠しに合った日の夜、夢でクトロケシス様にお会いしたの……」
「クトロケシス神に!?」
僕の考えを見透かしているようななタイミングで、『クトロケシス神』の名前が出た瞬間、僕は驚きを隠せず目を見開き、どういうことかと母さんに、食い気味で聞き返していた。
「リーウィンちゃん、気になる気持ちは解るのだけど〜、そんな風に食い気味に聞くのは良くないわよ? びっくりして、嫌われちゃうから」
母さんは僕の唇に人差し指を置き、「落ち着いて話を聞いてね?」と優しく諭す。
「うっ……うん。ごめんなさい」
「先に、謝っておくわね。シルプが神隠しに遭った、っていうのは嘘なの。本当は山羊の骨を被って、片手には、モルストリアナ神のような大きな鎌を持つ、不気味な化け物が連れ去ってしまったの」
「大丈夫だよ! 母さんなりに僕のことを思って、ついてくれた嘘なんでしょ?」
僕はそう言いながらも、多分、母さんが話そうとしている内容はかなり重たいもの。
あまり話したくない様子で苦しそうな表情を見せる母さんに、「休憩する?」そう不安げに聞いた。
ううん。本当は、僕が聞きたくなかったんだと思う。兄さんの存在を否定したいもう一人の僕が、この話を聞けば戻れなくなるかもなんて、そんな恐怖心があるのかも。
それに、もう十三年も前の話だ。生きている可能性は限りなく低い。そんな兄さんの話を、今更聞くこともない気がして……正直とても怖い。